「誰かを喜ばせるためや、自分を愛してもらうためにセックスをしなくてもいい」ということを、幼い頃から誰かに教えてもらいたかった。それは本当の愛ではないということを。父親が(私に)したことも、私が(息子に)したことも、病的だということを。
こう話すのは、8歳の息子を強姦したとして有罪判決を受けた米フロリダ州出身の女性Tracy(トレイシー、以下T)。
聴き手は、アメリカ社会の闇に意識を向けるインタビュー動画集「ソフト・ホワイト・アンダーベリー/Soft White Underbelly(SWU)」の製作者マーク・レイタ。
両親に育てられましたか?
どのような幼少期でしたか?
父親や母親の元彼と何かあったんですか?
どのような感情と一番葛藤しますか?
あなたは被害者にも加害者にもなった。性暴力が子どもに与える影響についてどう考えますか?
息子にしたことで刑務所に?どのように発覚したのですか?
何年服役していたのですか?
アルコールやドラッグは使用してましたか?
中毒は、父親からの被害の後?それとも息子への加害の後のこと?
罪悪感や羞恥心はどのような影響がありますか?
マークが「話を聞かせてくれてありがとう」と言うと、トレイシーは「どこかで誰かのためになればと思います」と答えた。
おわりに
生まれながら性犯罪者である人はいない。
性犯罪者は加害者になる前に被害者になっている。
被害者が加害者になることが約束されているわけではないけど、高い確率で連鎖することがわかっているなら、被害者を作らない方がいい。
ただ、トレイシーの父親のように加害の意識がない(加害を認められない)までに狂ってしまっている人が多いということ。ここまでになっている大人を社会に野放しにしていることも、罪の意識が根付かない要因の一つ。結果、被害者数は拡大する一方だ。見せしめとして一生、刑務所で更生プログラムの実験台になるほか、罪を償う方法はないと思われる。
刑務所業界を繁盛させるより、大人への性教育を優先するべきだろう。ここでいう性教育とは、性的侵害を断り、逃げて、助けを求める練習だ。
✔︎加害者が、知らない人であるより、肉親や知り合いの方が多いという事実を知ることが大前提になる。性犯罪は当事者間で「信頼」が築かれた上で起きているという構図を理解することが大事だ。
✔︎大声でNO!やだ!やめて!やめろ!などと言う発生練習を繰り返す。
✔︎逃げて誰かに話すというロールプレイイングを練習する。この時、トレイシーのように叫んでも暴言と暴力や立場で黙らせられることが多いことも知り、信頼している人に話しても、トレイシーの母親のように信じてくれないことが多いことも理解することも大事だ。それでも諦めず誰かに話し続ければ、マークのようにいずれ話を聴いてくれる人に出会えるという希望を与えるのも重要だ。
子どもへの性教育も大事だけど、大人が性教育の基本を理解していなかったら、子どもに伝えられるわけがない。
性教育の基本は、力関係が不平等な状況での望まない性行為の予防と対策をいかに学ぶか。NOが言えない状況で、YESの感覚がわかるわけがない。社会の性に対する主流な学びの方法は、足し算引き算の前に三角方程式を教えているようなもんだ。対等な関係性の上での同意がある愛情表現ではなく、非平等な立場を利用した支配欲から生まれる性行為を感覚的に学んだ被害者および加害者は、愛情と支配をごっちゃにして捉えてしまうから、悲劇が拡散される。
だから、あいうえおやABCより先に、やめてとNOの発声練習。
性犯罪者は「信頼」を築いた上で犯行に及ぶ構造を理解する。
信じてもらえないことを覚悟した上で誰かに話し続ける勇気。
護身術でいう目つき、金的蹴りの練習も身を守るために有効。
自分自身の体と尊厳を守れない人は、他人を思いやることもできない。
人類がこのままでいいはずがない。
これまでやってこなかったことを実践したら、被害者も加害者も増産されない社会を作ることはできるのではないか。
子どもへの性的支配、近親姦、売春、ドラッグ、ギャング、ホームレス、精神障害者、貧困……。
LAにあるアメリカ最大級のスラム街を中心に、社会の底辺にいる人らの生い立ちから聴き始める顔出しインタビュー動画集「Soft White Underbelly」は、主流メディアが伝えないアメリカの現代社会の闇をありのままに見せている。
それをたった一人で制作しYouTubeなどで配信しているのが、大企業の広告を撮影してきた超一流カメラマンのマーク・レイタ。
大企業を更に繁盛させる手助けよりもっと重要なことをするため、社会の問題に意識を向けるために配信している。
「意識を向けなければ、問題は拡大し悪化する一方だ。耳を傾けること、理解しようとすること、認めること、行動を変えることをすれば、変化が起こるかもしれない。次世代の親がお手本として子どもたちに希望を与えられるよう手助けができればと思っている」