鰻じぃ

どーも、みんなが好きなものは大体好きなおれです。

と言うわけでこの時期になると、
「今年の土用の丑の日は〇〇!」
「今年は不漁!(or豊漁!)」
「国産に偽装が発覚」
「このままだと絶滅しちゃうよ!」
「完全養殖が〇〇まで進みました!」
「××をこうすれば代用できる!」

…などと話題が次から次へと出てくる鰻。

子供の頃から高級品ではあったように思うが、ここ10年くらいは拍車がかかりまくって超高級品に変貌しまくっている。
もはや一般庶民には手が届かないシロモノと言っても過言…は言い過ぎだが簡単には食せないモノにはなっている。

子供の頃、地元ではとーちゃんに連れられ数年に一回の頻度で鰻屋に連れて行ってもらった。
店の裏口みたいなところからズカズカと入って行って、とーちゃんかっけーな、通だなと思っていたものである。

冷静に思い返すと数年に一回レベルで常連という訳でもなさそうだし、本来の入り口からなぜ入って行かなかったかはいまだに不明で、店側からしたら「変な子連れ入ってきた!」と戦慄していたに違いない。

そして、待つ間にポリポリ食べる骨せんべいもまたいとをかしで、コレがあるから待つ時間も苦ではない。
なんなら、骨せんべいが残っているのに鰻が来てしまうと、「まだ子供が骨食べてんでしょーが!」となるレベル。

※ちなみにせんべい感はないが、googleで「鰻 骨」で調べたら"骨せんべい"と出たので、そう表記する。

待った後に食う鰻のうまいこと。
店により鰻の産地や焼き加減、タレの濃淡などあるだろうがそんなこと関係なくどこもうまい。
ここは炭じゃなくガスだからアカンと宣う食通の方々もいるが、ガスでもうまい。なんならレンチンでもうまい。しょうがない。

と前置きが長くなったが、ここいらで本題である。

学生時代、それはそれは豊かとは程遠い生活をしていた。
昼にカップラーメン、夜にカップラーメンの汁を使った炊き込みご飯といった、今ならSNSでプチバズりしそうな暮らしをしていた。
※100%しない。

"男子専用学生アパート"というこの世の地獄だったため、アホな友人は多くできたが誰もが金を持ってなく、誰かの実家から食料が送られてきたらそれを仲良く食べるという貧乏ながらもアホ楽しかった。

そんな夏のある日、あるアホ友人が原付を路上駐車で取り締まられ、街の外れの保管所に収容されてしまった。
友人は「あちーし取りに行くのだりー」と言って、謝礼払うから取りに行って欲しいとおねだりしてきた。

普段であれば「そんなもん自分で行けや」と一蹴するのだが、謝礼5000円を提示してきたのである。
学生の5000円は言うまでもなく大金であり、小一時間でその金額がゲットできるのであればとおれはすぐに掌を返しまくった。
実に友情に厚いおれ。

保管所はかなりの遠方で、おれのバイクにもう1人乗せて行き、帰りはそいつに原付を運転してきてもらうという作戦にした。
そのパートナーはアパート内で1番のアホとも称されるJである。

そんなに覚えていないのでほぼ割愛するが、2人で保管所に行き、違反金を払い、心を一才込めていない(込めようがない)ごめんなさいをして、無事にミッションはコンプリートした。

そして謝礼金の使い道である。
Jと2人で、たまたま得たあぶく銭だし普段食わねーもんパーっと食おうぜということで、皆さんの脳裏にこびりついているだろう鰻を食いに行くことにした。

駅近くに鰻屋があり、2人で食べても5000円以内に収まりそうだったためそこにしたのだが、夏の盛りもあってか店内は満席。
店員から「相席でもよろしいですか?」と聞いてきて、無愛想なじーさんと相席することになった。

「相席すみません」「あぁ」みたいなファーストコンタクトだったように思う。
おれたちは「あちーな」と言いつつお茶をガブガブ飲んだりしていたのだが、手持ち無沙汰になりJがタバコに火をつけようとした。

当時はいろんな店でタバコが普通に吸えたのだが、そこは気遣いの鬼、おれ。
相席しているじーさんに聞かなきゃとJを制し、じーさんに「吸ってもいいすか」と聞いてみた。

じーさんは「うちは誰も吸わねーんだ」と一言。
Jはわかりやすく「んん」とイラだったが、「ですよねー吸わないっす」と我慢することにした。

そこからポロポロとじーさんが話しかけてくれるようになった。
「どこの学生だ?」
「〇〇っす」

「今日はどうした?」
「友人の手伝いしてお礼もらったんで2人で鰻食いに来ました、楽しみです」

「うちの嫁が〇〇で大変なんだよ」
「それはめっちゃ大変すね!」

「最近食が細くなってきて」
「そんな時はやっぱ鰻っすよね」

Jもアホなのでイラッとしたことは既に忘れ、3人でそのような他愛もない会話をした。
じーさんは先に鰻が来て、食べながらも話していた。
最終的には「お前らはうちの嫁よりも話せるな」と言わせた程である。

しばらくしておれらの分も来た。
2人で「うめーうますぎる」「ここが天国だったか」「鰻サイコー」とテンション高めに鰻を楽しんだ。

そんな時、じーさんは「じゃあ先行くわ」と言って会計に向かった。
「どーもっす」などと返した矢先、じーさんは会計の店員に「あの2人の分も」と言った。

その声を聞き、席を立ち「いやいや、そんなんダメっすよ」と食い下がったが、じーさんは「いーから」と言って支払いをしてくれた。

おれらは「すみません、ありがとうございます。ご馳走様でした。」と結構大きな声でおじぎをした。
店内に響き渡ったと思う。

じーさんは振り返らず、片手を上げ颯爽と店を出て行った。
今でもその光景が焼き付いている。

その背中が圧倒的にカッコ良くて、おれはいつかじーさんになったら同じことを金無しアホ学生にしてやりたいと思った。
作り話のようだが実話である。

その後、残った5000円をどうするかJとケンカになりかけたので、しっかりと折半した。
奴は嬉しそうにエロ本を買いに出かけた。

夏になると毎年思い出すステキなお話。
誰か鰻おごってください。

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