安全運転2:血塗られた免許

どーも、さっき杖をついたおばーちゃんが小走りしてるのを見たおれです。(本当)

というわけで、1人1台+αの土地で育ったため、高校卒業する前後で友達はみんな車の免許を取り始めた。
勉学を疎かにしたツケで浪人生にジョブチェンジしていたおれも、「浪人になったのは来年入学するまでに免許を取っておけということだな」と絶対優先ガールばりに前向きに捉え、どう取るかの画策を始めた。

高校時代に貯めたバイト代はいつのまにやら減っており、教習費用には到底追いつかない。
ここからバイトをして月3万ほど稼いだところで、貯まるまでには次の受験の時期になってしまう。
ここで受験中はほぼ使われなかった頭をフル回転させ、悪魔の計略を紡ぎ上げることに成功した。

作戦は至ってシンプルで、コチラの損害を盾にした不等価交換、ゴネ得狙いである。
「おれが飼うのは嫌だと言っているのに、妹にペット代30万を使って飼ってしまったのはおかしい。毎日ストレスで受験勉強もできない。おれも30万分の免許合宿を支払ってもらうのがスジだ」という狂い言である。

「しかし、この必死に探してきた免許合宿なら3週間、さらには25万で取れる。頼むから行かせてくれい。」とほんのちょっぴりの妥協とおねだりも横に添えて追撃を行なった。
3週間もコイツから離れられるならいいかと思ってくれたのか、意外と断られることなくかーちゃんからOKをもらえたのである。

当時、かーちゃんはマニュアル車に乗っていたため、借りることを見越して教習もマニュアルで申し込んだ。
男は黙ってとか、オートマ限定でいいっしょとかの議論の余地なく、マニュアル一択なのであった。

合宿では、みんなで大部屋で過ごすのがセオリーかと思うが、なにやらその教習所が「追加料金で新築の個室プランもあります」とのことで、迷うことなくそちらにした。
たしか追加2万くらいで、自分で出したように思う。

初日に入校式なるものが行なわれ、そこで説明していた先生が、「ここは日本一卒業生の事故が多い教習所です。そうならないよう気を付けて運転しましょう」と衝撃発言をぶっ放した。
たしかに周りを見ると、九九を全部言えそうなのはおれくらいしかいない。
ビールみたいな色の金髪率が異様に高く、眉毛は細いか無いかの2択だった。

おそらく大部屋というよりもタコ部屋に近いはずで、個室にして心底良かったぜと自分の決断に深く安堵した。
なお、その個室はと言うと、もはやビジネスホテル。
ベッド、ビデオ付きのテレビ、冷蔵庫、(自習できる)テーブル完備で、男女フロア別を除けば素晴らしい環境だった。

しかもタコ達は入れないようセキュリティもしっかりとしており、夜中にドンドン叩かれたりサイフの中身が減っていることもない安心仕様であった。
(おそらく、女子の安心対策)

そんなこんなで講習が始まったのであるが、順調すぎて特に記憶に残っていない。
唯一挙げるとすれば、毎回乗車前にボンネットを開けてチェックさせられたのだが、どこをチェックするかわからんまま「OKです」を最後まで言ってたくらい。
ちなみに、いまだにわからん。

あとは、近くの山で坂道発進、高速教習の合間のPAで休憩なんかはうっすら覚えている。
やり直しもなく良い感じに進んでいたので、教官が"S字カーブとクランクをバックで行ってみよー"という試練をくれてそれはできなかったくらいである。

個室ホテルの方では数日後にやってきた同じ年齢の3人組と仲良くなった。
たしか、通路だか喫煙所だかにイスが置いてあって、座ってたら「それ、いいべ?向こうから持ってきたんだ」と話しかけられた。

そこから仲良くなり、一緒にメシを食いに行ったり、レンタルビデオ屋でC級ホラー映画やらAVを借りに行った気がする。
3週間の内に友達ができて本当に良かった。
※県外から来ており、免許取得後に向こうの地元に遊びに行ったりもした。

そんなこんなで延泊もなく、おれは卒業し免許試験も 1発で受かった。
1点差で落ちたとか、朝の闇講習に行ったなどのネタもなく、淡々と受かった。

そして、免許を取って多数の人間がすることは「海に行く」ことである。
特に用事も、することもないのだが、友達を連れて海を目指すのが重要なのである。

おれも例に漏れず、かーちゃんから車を借りて友達を迎えに行き、地元から離れた海に向かった。
エンストすることもなく無事に駐車場に入ったのだが、折しも休日の夜、駐車場にはシーマなどの恐ろしい車が大量に集まる一大ナンパ会場だった。

そしてかーちゃんの車はマニュアルのクセに、パステルブルーの軽自動車。
トラやライオンの檻の中に子鹿のバンビが闖入したようなもんで、怖いお兄さん達に中を覗かれ、あぁん!と凄まれるという経験をした。

「ふざけんな男じゃねーか」と車およびおれをボコボコにされなかっただけでもラッキーである。
その日のラッキーカラーはパステルブルーだったに違いない。
そして体感160km/hで即逃げるしかなかった。

教習所ではガソリンの入れ方と、土日の夜に海に行ってはいけないことをしっかりと教えて欲しいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?