月曜日が来ない #3
月曜日は私にだけ来なかったのかもしれない。そう考えると、すべての辻褄が合っているように感じて来た。そうだ、もし本当に月曜日が来ないなんてことが起きたのならば、テレビだってネットだって大騒ぎなはずである。しかし、街はいつものように毎週来るはずの日曜日が来ただけにすぎないのだ。だから、私の身にだけ、月曜日が来なかったのだと考えるのが極めて自然である。しかし、私の身にだけ月曜日が来ないということは、世間は本当は月曜日を生きているわけで、その月曜日はどこへ行ったのだ?私の身体だけ一日前にタイムリープしたということなのか?自分でも何を考えているのかよくわからなくなったところで名案が浮かんだ。
今日が昨日と同じ日曜日ということは、本来昨日行われるはずの予定がそのままになっているのではないか。太陽の光が差し込み、だんだんと海へと近づく電車に揺られながら、私は、昨日会った友人の一人に連絡を入れた。
「今日何時だっけ?」
するとすぐに友人から返信が来た。
「え?」
「今日飲む予定だったよな?」
「そうだっけ?」
企画したのはこの男のはずなのに、まったく記憶にないようだった。昨日は確かに彼から連絡を寄越してきたはずだった。実際にやりとりを遡ると、昨日の午前中には、18時にお店に集まるようにと書かれていて、律儀にお店のページのURLも貼り付けられていた。何か怪しまれるのも嫌だったので、彼には勘違いだったと伝え、今度飲もうと送っておいた。やはり、私にだけ月曜日が来なかったのだ。
片瀬江ノ島駅に着いて電車を降りると潮の匂いがした。都内の喧騒に包まれていると、こんな開放感を味わうことなど滅多になかった。一旦、今が何曜日で、明日が何曜日なのかは考えることをやめ、潮の香りがする方へと歩を進めた。冬を間近に控えた江ノ島の海には、あまり人がいなかった。海の家の跡地が並んでいて、より寂しさを主張しているようでもあった。私は、砂浜へとつながる階段に腰かけ、しばらく海を眺めていた。寄せては返す波が、砂浜を濡らす範囲を少しずつ広げていった。
スラックスを膝下までまくりあげて、足を海水に浸している男がいた。この寒いのによくやるもんだと私は思った。潮の高さを足で測っているかのように、その場所から微動だにしなかった。男と目が合った。見覚えのある顔だ。会社の上司であった。その上司は、私の方をじっと見つめ、足を濡らしたまま立ち続けていた。なぜだか私も目を逸らしてはいけないと、じっと上司の目を見つめた。すると、後退し髪の毛の薄くなった上司の頭に変化が起きてきた。波のリズムとともに、後退していたはずの髪の毛が増えてきたのだ。私は驚き、上司の頭を凝視した。しかし、上司が髪の毛を取り戻したのは束の間、すぐに波とともに上司の髪の毛はまた後退していった。まだ上司は私を見つめ続けている。また、次の波が押し寄せて来た。予想した通り、上司の髪の毛も後方から押し寄せて来た。そして、波とともに元の姿へと戻っていった。髪の毛が押し寄せて来た姿の上司は、わりといい男のように思え、笑ってしまった。
また、夢を見てしまっていた。波の音に包まれてうとうととしてしまっていたらしい。夢というのは決まって奇妙である。いや、夢ではなかった。実際に夢で見たのと同じ場所に、スラックスをまくった男が足を海水に浸して立っていたのだ。男は先ほどの上司と違い、腰を折り、海水面を覗き込むようにしていた。男が顔を上げこちらを向いた。先ほど電車で目が合った、鮮やかなグリーンのネクタイをした男だった。
続く