PANCETTA LAB 2024 SUMMER "Gouche"を振り返る②

振り返り①はこちら


PANCETTA special performance "Gouche" の配信を行います(10月末まで)。ぜひ、ご覧ください。



Special performance “Gouche”

ということであっという間に一ヶ月が経ちましたが、”Gouche”について振り返りたいと思います。

今回は、宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」を原作に、新たなゴーシュを生み出しました。PANCETTAでは初めての原作ありきの作品となり、いつもと違った面白みがたくさんあったのではないかと思っています。


美術デザイン tupera tupera

普段のPANCETTAでは、ツナギを着て、舞台上には装置などがほぼなく、人の身体と楽器のみという形が多いのですが、今回は、美術デザインとしてtupera tuperaのお二人に参加していただきました。

tupera tuperaの二人とは、2年前にせんがわ劇場で上演した「へんゼルとグレーてる」の際にご一緒したのがきっかけで、ただ、美術の分野としての提案だけでなく、作品づくりを一緒になって面白がってくれる二人でした。おかげで自分では思いつかないようなものや、展開が生まれ、非常に刺激的な創作になりました。その時がとても面白かったので、またやりたいとお願いしたところ、快諾していただき、今回の創作となりました。とても忙しくされている二人なのに、ありがたい限りです。

tupera tuperaの二人は、まず台本を読んでイメージを広げてくれます。過去にも宮沢賢治作品は携わったことがあるそうですが、今回は私の手が入った賢治です。二人とも面白がってくれ、そのイメージからこんな原画を作ってくれました。

tupera tuperaによる"Gouche"原画


子どもだけでなく、大人も楽しめるというコンセプトもキャッチしていただき、かわいさの中にもちょっと影のあるような絵ですね。よく見ると(よく見なくても)とても細かい作業なのが分かります。個人的にはたぬきとカッコウが好きです。これらをグラフィックデザイナーの齋藤俊輔さん、愚川知佳さんの二人が素敵に組み合わせ、デザインし、こんなにかわいいフライヤーになりました。

絵 tupera tupera      デザイン 齋藤俊輔、愚川知佳


衣装では、PANCETTAの特徴的な衣装であるツナギをベースにそれぞれの人物や動物をかわいく表現してくれました。私からこうして欲しいああして欲しいのオーダーでなく、tupera tuperaの二人がどんどんと提案してくれる時間がとても面白かったです。

tupera tupera による衣装、舞台美術のアイデア


美術全体のモチーフとして、音符を使おうという提案も興味深いものでした。様々なところに音符や音楽記号が使われていましたが、みなさん気づきました?個人的には音符のお花がとてもかわいく好きでした。これなんてただの8分音符なのですが、くるっとひっくり返すだけでお花に見える。そして劇中で子どもたちが(大人も)このお花を渡してくれるのがかわいくてかわいくて。劇場全体で楽しめるアイデアとなりました。

お客さんから、お花をもらうゴーシュ(撮影 市川唯人)


また、作品の最後には、照明を通してtupera tuperaの描く動物たちも登場しました。照明の黒太剛亮さんが、アルミの板を細かく細かくくり抜いて作ったものです。今だったら映像を投影すればなんでもできるのに、敢えて照明でやるというのが良かったですね。紹介しきれませんが、各セクションのスタッフの工夫が詰まって、かつみんな楽しんで(くれているように私には見えました)一緒に作品をつくってくれているのが嬉しかったです。

ラストのシーンの照明(撮影 市川唯人)


原作 宮沢賢治

「セロ弾きのゴーシュ」は、以前にも触れたことのある話なのですが、いざ脚本を書いてみると頭を悩ませました。この話、「」が多いのです。既に決められたセリフがあるというのは、楽なようで難しいものでした。逆に、元々描かれていないセリフを足さねばならぬところもあり、賢治の描く人物や動物のニュアンスを汲み取りながらも、私なりに面白くなるようにとかなり頭を抱えながら書いた記憶があります。

そもそも、既に面白い作品になぜ加筆する必要があるのか、書き加えることで本来の物語の味わいが損なわれてはいないだろうか、など、思うところはたくさん。なかなか書き進めることが出来なかった時に浮かんだアイデアが、セロを人がやるというものでした。

佐藤竜が演じるセロと、志賀千恵子が演奏するチェロ(撮影 市川唯人)


このアイデアで考え始めてからは、脳がスッキリし、やっと前に進めたような気になりました。なぜゴーシュは古いセロを使い続けているのだろうか、という部分も、原作にはない、セロは父が大事にしていたものを譲り受けたという要素を加えることで、自分の中では腑に落ちました。ゴーシュは一人黙々と練習していたからこそ、動物という存在が声をかけてくれたのでしょうが、セロと二人三脚で歩んでいくことで、ゴーシュの救いにもなるような気がしたのです。もちろん、実際にセロと会話することなど出来ないのですが、動物と意思疎通できるのなら、楽器と意思疎通することができてもおかしくはありません。

セロであり、父でもある。一人二役を演じる佐藤竜(撮影 市川唯人)


原作の魅力でもあり違和感でもある、物語の終わりについても悩みました。「ああかっこう。あのときはすまなかったなあ。おれは怒ったんじゃなかったんだ。」という言葉。分かるようで、分からない。なぜかっこうにだけなのか、なぜ今気づいたのか、そしてこの言葉で物語は終わるのです。いやいや、終わり?ともなります。もちろんこれが魅力でもあるのですが。舞台にするにあたり、なんかもやっと終わるのは嫌だなと思い、そして、この先のゴーシュに想いを馳せ、ラストのシーンを描きました。個人的にも好きなシーンになりました。

見守っていてくれた父(撮影 市川唯人)


出演者、音楽家たちは、精一杯作品に向き合ってくれ、常に新たな何かを模索していたように思います。私はゴーシュとして舞台に立ちながら、包まれる多くのものたちを感じていました。これは結構幸せなことなのかもしれません。そして、客席のみなさんからの手拍子や、花束のプレゼント、子どもたちの声にもたくさん力をもらいました。

終演後の音符の感想は、たくさんのお客様に書いていただきました。楽譜にそれぞれの思いが乗っかり、それが音楽隊の演奏により曲となり、作品を彩ってくれました。それにしてもあの楽譜を毎回素敵に演奏してくれた音楽隊には脱帽です。簡単そうにやってのけますが、実はとても大変なのだとか。

ピアノ 加藤亜祐美  チェロ 志賀千恵子  サックス 鈴木広志(撮影 市川唯人)
お客様が書いてくれた感想の音符。これを見ながら演奏します。


兎にも角にも、PANCETTAにとっては初めての二週間に渡る企画は無事終わりました。ご来場いただいたみなさま、関わってくださったみなさま、本当にありがとうございました。

集合写真(撮影 市川唯人)


2024年度後半も、さらにギアを上げて走り抜きます。まずは、スズナリでの「声」から。

絵 松本亮平  デザイン 齋藤俊輔


心よりお待ち申し上げます。また劇場にてお会いしましょう。

一宮周平

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?