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Short|夜明けのLINE


今日は朝から散々な一日だった。
アラームを起床する時間にセットしたつもりが、どういうわけか一時間も遅く設定されており、飛び起きて準備を済ませ駆け足で会社に到着すると、同僚達からは心配され、上司にも気を遣わせてしまい、この状況で「寝坊しました」なんて言ったら確実に気まずい雰囲気になると分かっていながらも白状すると、呆れて溜め息をこぼされてしまった。

更には追い打ちをかけるように普段はしないミスをしてしまい、最早負の連鎖である。しかし、このままずっと落ち込んで仕事に支障を来すわけにもいかず、気持ちを切り替えて作業に取り掛かる。
そして就業後、気晴らしに行きつけの居酒屋に立ち寄ったというのに、こういう時に限って満席状態。諦めてここから近くにある別の店に寄ってみたものの、臨時休業。少し歩けば何軒か空いてそうな所はあったが気持ちがどんよりと沈んでしまい、最寄りのコンビニでアルコール飲料と肴を買って大人しく帰路に就いた。

「ただいまー……」

返ってくる声はないと知りつつも、まるで自分を労うかのように呟きながら靴を脱ぎ、照明をつけて明るくなった部屋を見渡すなり大きく溜め息をこぼした。

なんだか最近は運に見放されている気がする。



シャワーを済ませて録画していたドラマを見ながら晩酌を楽しむ。好きな俳優が出演しており、内容も自分好みのものでなかなか見応えがある。
次回予告まで見届けた後にあるのは最近始まったばかりのバラエティ番組。ぼーっと眺めているだけではあるものの、時折クスッと笑える時もあるから、なんとなく最後まで見てしまう。

「もうこんな時間か……」

時刻は深夜一時前。
特に何をするわけでもなく、気付けば時間はどんどん先へと向かっていた。テレビに集中していた余韻が残っているのか目が冴えてしまっている。明日も仕事があるというのに、どうしたものか。

その時、スマホの通知音が聞こえた。

『起きてる?』

メッセージを送信してきた相手は、学生時代からの親友だった。
たまに連絡を取り合ってはいるが、こんな真夜中に送られてくるのは最近では珍しいかもしれない。

『まあね』

『通話できそう?』

『少しなら』

送信をタップした数分後にスマホが震えて通話ボタンを押すと、電話で話すのは久し振りーという明るい声が聞こえてきた。

『ごめんごめん、こんな時間に。なんか眠れなくてさー。声が聞きたくなって』

『恋人じゃないんだから』

『まあまあそう言わず。たまには眠くなるまで話そ』

そこからの記憶が朧げで、いつ通話を切ったのかさえも覚えてないまま、はっと顔を上げて時計を見ると時針は早朝を指していた。
いつ眠ってしまったのだろう。疲れが残っている重たい体をなんとか起こしてカーテンを開けると、陽光の眩しさに目を細めた。

すると突然スマホから通知音がして確認してみると、先程まで話していた親友からのメッセージだった。

『元気なさそうだったけど、なんかあった?』

思わず、目を見開いてしまった。
途中から記憶がぼんやりとしているものの、明るく振る舞いながら話しているつもりだった。
声色ひとつで気持ちを察するのは、それだけ長く親交を深めてきたからだろうか。いや、今はそれよりも。

『気の所為じゃない?』

ここで気を遣ってしまうのは自分の悪い癖だ。
しかし、親友には全てお見通しのようで。

『明日、いつもの居酒屋に集合な』

さりげない優しさに思わず笑ってしまった。
この一言だけで、心が軽くなってしまったからだ。ちょっと強引な語調が親友らしく、四の五の言わずに打ち明けろと言ってくれている。

『了解』

すると今度は面白いスタンプが続けざまに送られてきたので、吹き出しそうになるのを堪えながら既読だけをつけてアプリを閉じた。

「明日は奢ってやるか」

昨日までのどんよりした気持ちは忘れてしまおう。
そう思えるくらいに清々しい気持ちになれたのは、きっと親友のおかげ。本人には教えてやらないけれど、代わりにこの一言に気持ちを込めよう。


「いつもありがとう」、と。

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