【PublicNotes】これからのルールメイキングを語ろう 〜 弁護士と官僚 それぞれの役割と可能性とは?
【Public Notes】イノベーターに知ってもらいたいイノベーションとルールメイキングに纏わる情報をお届けする記事です。
本記事は、11月19日に開催されたPMI Legal Community表題のイベント(イベント概要は、即時レポートでも読むことができます)から抽出された、これからのルールメイキングを考えるエッセンスをお届けしていきます。
イノベーションが進んでいく中で、省庁を横断する政策・法令が増えていくなど、弁護士は政策現場において新たな役割を求められる可能性があるのではないか。一方、イノベーションとルールメイキングの現場において官僚もまた新しい視点やスキルを求められているかもしれない。
今回のテーマは、 「これからのルールメイキングを語ろう〜“弁護士と官僚”それぞれの役割と可能性とは?」です。
ルールメイキングの最前線〜官僚と弁護士
今回のイベントでは、PMIのLegalCommunityManagerである南弁護士がモデレータを務め、個性豊かな経歴を有するルールメイカーに登壇いただきました。
落合孝文 弁護士
大学院で数学を学ぶ傍ら、司法試験を受験。2006年から森・濱田松本法律事務所の東京及び北京オフィスで国内外の企業法務を取り扱い、2015年から渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に参画。金融、ヘルスケア、不動産業界を中心に、新しいテクノロジーを利用したビジネス構築・法規制対応の支援に取り組むほか、不動産、モビリティ、医療関連の業界団体等の立場での法制度、業界の自主規制策定にも取り組んでいる。なお、各省庁の委員会で、委員やアドバイザーも務める。
星野悠樹さん (PMI Policy Owner)
元内閣府・現外資系コンサルティングファーム勤務。東京大学医学部にて医師免許を取得した後、同大学院博士課程で2年間、分子生物学を研究。2016年に同大学院を中退し、内閣府入府。同年より内閣官房に2年間出向し、働き方改革、人生100年時代構想(人づくり革命)などの総理官邸直下のプロジェクトに従事。2018年夏より内閣府にて幼児教育・保育の無償化の法改正を担当。2019年夏に内閣府を退職。現在はコンサルタントとして企業の経営戦略の立案に従事。
更には、民間企業に就職後、現在は現役官僚として規制改革政策などに携わるPMIメンバーも登壇しました。
ルールメイキングのプロセス〜法律の生まれる「タコ部屋」
イベントでは、以下の5つのトピックを中心に議論していきました。
まずは、「これからのルールメイキング」を語る前提として、「ルールメイキングのプロセス」について紹介します。
法律・制度ができるまでの大まかなプロセス
①スキーム検討(ヒアリング・審議会等)
②内閣法制局
③国会
法律の場合、まずはスキーム作りのための情報収集として、多様なステークホルダーから現場の声を聞き取ったり、審議会等で外部の有識者の意見を聞くのが法律づくりの第一歩目(①)。その後、法律の条文案を作成したうえで、法律案を審査する内閣法制局に時間をかけて通い詰め、参事官→部長→次長→長官の確認を受けます(②)。この段階で、「この条文のこの文言はこのように直すように」という注文が出され、該当箇所を修正するという工程を繰り返すことで、審査を通過させていきます。
このプロセス中は、昔ながらに「タコ部屋」と呼ばれる部屋が設けられるのが一般的です。その「タコ部屋」で、缶詰めになりながら条文案を作成します。この際にはデータベースを用いて法律の用例等を調べ尽くす等の大量の作業が発生します。この段階では、法制局以外にも、各省からの大量の質問に短時間で返答するなどの作業もあり、これらも経ながら、条文案のブラッシュアップをしていきます。
その後、法律案が国会に提出され、国会審議に移ります(③)。国会に法律案を提出するところまで漕ぎ着けたら、法律に紐付く政令や省令もセットで作成する準備に入ります。省令は省内の確認で足りますが、政令は別途、法律同様内閣法制局の審査を乗り越えなければなりません。また、法律が国会で成立するためには国会議員の方々に理解を深めてもらうことも欠かせません。
これらのプロセスを経て最終的に国会で可決・成立した後、ようやく法律は施行されるのです。
ルールメイキングは霞ヶ関だけによる特権ではない。社会における多様な立場の方々が競業し合って創るもの。
星野さんのこのメッセージから、セッションは始まりました。
「官僚が取り組む仕事は?」と問われると、思わず「森羅万象」と答えるほど説明が難しいと言います。しかし、敢えてそのような仕事を分類すると、「霞ヶ関の外における仕事」と、「霞ヶ関の中における仕事」の2つに分けることができます。
前者は、不慮の事故に対する対応や国会対応で、後者は、例えば「この点は省内でアクションを起こした方が良いのではないか」、「この委員会に対しては、このアイデアを提案してみたらどうか」という行政内で完結する仕事が挙げられます。
全省庁合わせた何万人規模の人が働く組織、それが霞ヶ関です。その「何万人」の官僚の自発的な動きを起こすことができるという点は、官僚の仕事の中でも特に創作的な仕事であると、星野さんは語りました。
他方、弁護士としてルールメイキングに関わる落合弁護士は、民間側での関わり方と行政側での関わり方、両者の立場でその形成過程を経験しています。そのそれぞれで、どのような関係者がカウンターパーティになりそうかアンテナを張りつつ、情報・情報源を提供し、時には組織の利益を相手側に交渉するといった場面をリードしてきました。
その中で大切にしていることが、「実現までの全体図を描きながら、利害関係者に対する発言を模索する」というスタンス。ルールメイキングの中で直面する利害衝突が「どんな理論構造になっていて、どこで争っていて、どこで着地するか」を考えることで、全体を見通す意識を持つようにしています。論理の積み重ねを勉強してきた弁護士の特徴として、つい全てをロジックで説得しようとしてしまいがちですが、「理論武装をした上で『絶対に大丈夫』と断言すること」が弁護士の役割ではありません。むしろ失敗すれば、業界を潰すことに繋がりかねない。そういった責任を持ちながら、関係者に対して「社会にとって、この点はプラスになる」といったアドバイスを発信し、その間、「使えるところで理屈を使う」というさじ加減が重要であると言います。
法律は変えられる〜ルールメイキングの醍醐味
そもそも、「法律や制度を変えない」と言うこともルールメイキングの選択肢だと考えると、「ルールメイキング」とは何を指すのでしょう。霞ヶ関の中と外、両者の波打ち際で活躍する登壇者たちのようなルールメイキング経験者は、まだまだ少ないと言えます。
そこで、実際に登壇者の方々が実感しているルールメイキングの醍醐味について語っていただきました。
「真っ白なキャンバスにあらゆるスキームを描く」。星野さんはルールメイキングをこのように表しつつ、官僚時代は「描いたものが、人々の生活を支える」という責任感と、常に背中合わせだったと言います。幼児教育無償化では、新たに認可外保育園を制度内に組み込む際、利用者や市役所、保育者など、それぞれの立場の利害調整に葛藤したそうです。営業利益、株価を上げていくという民間での戦い方とは異なり、100点満点に向かった点の取り方ではなく、適切な点のバランスを考えるという「霞ヶ関ならではの戦い方」は、葛藤のある一方で、非常にやりがいを実感するものだったと言います。現役官僚のPMIメンバーも、「ステークホルダーの利害調整は大変だが、その経験を自信に変えられるところが官僚のやりがい」であると、ルールメイキングにおける「利害調整」の持つ存在感について語りました。
落合弁護士は、弁護士として法律適用のアドバイスをするのみならず、関係者と「社会にとって役立つことをした」と感じる瞬間を一緒に分かち合えることこそが、ルールメイキングならではのやりがいだと言います。依頼人の利益を守るために動く案件とは異なり、社会全体の利益を想像しながら働くことができる点は、ルールメイキングにおいて、官僚も弁護士でも同様です。
「官僚でなくても、多様な立場の人々が霞ヶ関へ働きかけ、役所へのチャネルが生まれてきている。ロビイングもその方法の一つ。どんな立場であっても、『ルールメイキングに関われるんだ』、『ルールは変えられるんだ』という意識を持って欲しい」。
登壇者の方々から強く残されたこのメッセージで、セッションは幕を閉じました。
#これからのルールメイキング 〜会場からの声
医学部で勉強していた経歴を持つ星野さんは、「『俯瞰して分析する力』は、医学と霞ヶ関において要される、共通のスキルだ」と話していました。「頭に症状があると思ったら、お腹に原因がある」と発見する医師のように、どこか一点を注視するのではなく、各視点を適切なバランスで見通す力は、これからのルールメイキングにおいても重要な力です。
実はセッション中、モデレータの南弁護士から、会場内にいるPMI官僚メンバーへとマイクが渡る一幕がありました。「これからのルールメイキング」を考える上で、ルールメイキングをアップデートするために必要なことは何か。PMI官僚メンバーからは、以下のような声が挙がります。
ルールメイクされたその後、実際に、そのルールがきちんと現場で機能しているかを確認する機会が中々ない。フィードバックの機会を設けることが、より良いルールメイキングに繋がるのではないか。
法律を成立させる本数に限りがあることから、「時代は変わっていくのに、法律は順番待ち」という現状がある。政令や省令に委任することで、法律を変えやすくするなどの工夫が必要ではないか。
「適切な規制こそが最大のイノベーションを生む」という上司の言葉がある。「適切さ」というものを考える中で必要なのが、現場感を捉えること。業界と対立関係を作るのではなく、対話を基にロジックを組み立てることこそが、イノベーションを進めるルールメイキングに繋がるのではないか。
更に、セッション後の質疑応答では、参加者の方々からも「これからのルールメイキング」をアップデートすることに繋がる視点から問いが投げかけられました。
Q:アソシエイトなどの若い弁護士の育成面で、ルールメイキングをどう伝播させていくか?
この問いに対して落合弁護士は、若手の「やってみたい」という自発的な気持ちが前提にあるとして、その上で、実践の場である委員会や審議会に出席させるなど、自分の持つ機会を、直接若手に託すことが、よりルールメイキングを体感してもらえることに繋がると話します。「単にリサーチを手伝ってもらうだけでは、ルールメイキング固有の経験にはならない。業界団体とのやりとりなど、前後の文脈から理解を深め、実際に『プレイヤーになってもらう』ことで、よりリアルなルールメイキングへの関わり方を伝播させられるのではないか。」と提案しました。
Q:役所と業界、真に合致する互いの妥協点を見つけるには、どんなアプローチが必要か?
これに対しては、まず「腹を割って話ができる環境作り」が大切だとのお話がありました。相手との個人的な信頼関係を形成するだけでなく、間に信頼できる弁護士を挟むことで、相手のKPIや求めていることを情報として集めつつ、コミュニケーションを取っていく方法もあるそうです。
「役所に正面から相談するハードルは高いと感じる事業者、面倒を引き受けたくないと感じる官僚。でも役所は本当は現場の事も知りたい」。民間と行政の間には、まるで「両思い」のような状況が存在していることが多いと言います。だからこそ、ルールメイキングに関わる人たちがフラットに集えるプラットフォームが必要であり、お互いの立場を気にせずに繋がりを深め、気軽に相談ができる場づくりが重要になってくると、星野さんは言います。
「今回のイベントも含め、まさにPMIという存在が、その役割として機能できているのではないでしょうか」。
ルールメイキングにおいて、PMIが寄与できる領域についても、改めて認識できるような問いでした。
Q:制度を設計する際、具体的な政策案などについてどのように着想するか?
落合弁護士は、自分の頭の中でイメージするだけではなく、事業者、技術者、有識者と話をして、その対談の中からアイデアを掛け合わせると言います。そのために、対談の場をセッティングすることもあるそうです。
現役官僚メンバーからも、「ルールに関わる対象者とは一見スコープが外れている人にもヒアリングしに行く」という意見が。また、自分の所管とは違う人同士でランチをしながら知見を得るという機会も、視野を広げる上で役立っていると言います。
星野さんは、日頃、スタートアップの人と話したり、意図的に「逆張りの視点」を持つことで柔軟な発想を得ているそうです。より良いルールメイキングを実現するには、多くの人が「普通」だと捉える社会通念だけでなく、少数派の幸福や利益も含めて、社会全体が満足できる解は何かを全方位的に考えることが必要です。そのための着眼点は「逆張り」の発想から始まることが多いと言います。例えば、問題の解決策として、すぐ規制を強める「厳罰化」に頼るのではなく、「その人を犯罪に駆り立てたものは何か」、「そもそも規制する意義とは何か」といった、ルールの根底や裏側を思考することが、より多角的な発想に役立ちます。
PMI LegalCommunityの挑戦
今回イベントを開催したのは、今年、PMIの中から発足された「PMI LegalCommunity」です。このコミュニティは、イノベーティブな弁護士や法務関係者のハブを目指して活動しています。
イベントの最後に、PMIのBIG PICTURE BOARDであり、PMI LegalCommunityを牽引する齋藤弁護士からコメントがありました。
●法律を扱うプロフェッショナルたちが、利害調整の「駒」ではなく、「大義を持った戦略家」として存在していくこと
●「しがらみを受けない中立的な専門家」として、より公益的なリーダーシップを発揮していくこと
リーガルパーソンへの期待を込めた齋藤先生のメッセージは、PMI LegalCommunityの目指す姿とも重なります。
PMI LegalCommunityでは、今回のイベント参加者を中心としたFacebookグループ(招待制)も発足しました。
ぜひ、「これからのルールメイキング」に向けたこれからのLegalCommunityの歩みに、今後ともご注目ください。
記: 八村美璃
現在法科大学院に通う、PMIインターン生。
編集後記)弁護士だけでなく、検察官の方も参加されていた今回のイベント。多様な立場の人々が「ルールメイカー」となり、これからのルールメイキングを共創していくという機運の高まりを益々感じる空間となりました!
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