【意見交換会レポート】元つくば副市長と都市経営の可能性について議論しよう
はじめに
様々な主体がパブリック(公)に参画する「新しい公共」が議論されるようになって久しいですが、副首長の公募など自治体行政の中心に外部からの人材を取り入れる動きも近年活発化しています。
営利企業とは異なる財源、事業目標の下で機能しているとされ、プロパー職員やそのOB・OGを中心とした運営が現在も主流である行政の分野では、経営思考の導入による効率化や事業の推進力向上など、都市経営を進めていく余地が大いにあると言えます。
PMI Bureaucrat Communityでは、経営思考を取り入れた都市経営の実践とはどのようなものか、また、中央官庁からの出向やセカンドキャリアで自治体行政に携わる際どのような貢献が可能かなどを議論する意見交換会を開催しました。
1.意見交換会概要
本意見交換会は、2021年5月28日(土)19:30~21:30にオンラインで行われました。PMI Bureaucrat Communityに参加している総務省・外務省・国土交通省などの官僚、約15名の参加で開催されました。
メインスピーカーの毛塚幹人様は、財務省入省後主計局等でのご経験を経て、2017年4月から2021年3月まで最年少副市長としてつくば市副市長を務められました。その中で積極的に推進された市の組織改革や、スタートアップ・研究者との連携を題材にし、官僚の参加者個々人の興味関心も寄せてもらいつつ意見交換の場が持たれました。
2.毛塚様の講演
イベントの前半では、毛塚様のつくば副市長としてのご経験を約50分、60ページ超のスライドで密度高くご共有いただきました。
①副市長の業務概要・②つくば市の状況と課題
副市長の業務について、法制度や近年の人材登用のトレンド、在任期間中に感じた各方面からの期待などの観点から導入していただきました。毛塚様は市長から指名を受け、市長と役所組織との橋渡しをしつつ、政策イノベーションなど「攻めの行政」とされる分野を主に担当されました。次に、つくば市の現況と課題について、大卒者の流出や研究人材の活躍の観点を中心にお話いただきました。
③官民連携の仕組みづくり
参考)
「実証実験は一事例目をつくば市で獲る」ことをモットーにした官民連携の枠組み構築についてご紹介いただきました。
●無料での実施を条件に社会実験のニーズのある事業者と市の課題をマッチさせ、自治体初のRPA導入などを実現してきた「つくばイノベーションスイッチ」
●事業選定に先んじて予算を抑え、徹底的に透明化した事業選定によってコンスタントかつ迅速に実証実験等を行えるようにした「社会実装トライアル支援事業」
について、市行政における新事業実施への障壁を克服する枠組み作りや対外発信など、副市長の立場からの働きかけを交えつつお話がありました。
④4年間での展開
初の100日間で地盤を固める助走として、着任前から官民の知人と議論を重ねて100の政策集の優先順位を決めたり、自身で海外まで足を運んで有識者の協力を取り付けたりという準備のお話がありました
着任後はアイディアソンの開催や市長公約の工程表作成における担当職員との地道な調整などで連携の枠組みを固め、国の助成金等も最大限活用しながらスタートアップ拠点とチームの立ち上げに成功。研究者にもなじみやすいイベントの開催や、研究者にもリターンのある市民との交流活動支援など、参加しやすい枠組みで連携を強化されたそうです。
360度評価という人事評価方法の研修でのトライアル導入や、採用上限年齢撤廃による市外の人材の獲得、新たな基金の設立によるこどもの貧困対策などの組織改革についてもご紹介いただきました。
3.ディスカッションの紹介
毛塚様の講演の後はフリーディスカッションへ移りました。
総務省官僚を中心とする参加者から、様々な質問や感想が溢れ出してきました。主な議論をご紹介します。(※ 以下、「」で紹介している各発言については、事務局による要約です。)
参加者
「新しい取組を行うに当たって、どのように議会の理解を得たのですか。」
毛塚様
「つくばイノベーションスイッチなどしっかりと制度を作り、職員個人のリスクテイクではなく仕組みによって選定を行うようにするとともに、予算への配慮という点では、無償化や極力国の助成金等を活用するなど、新規の財政負担が少額で済むようにしました。議論のメンバーに議会からも参画していただいたり、都内で行ったスタートアップ関連のイベントに参加頂いたりしながら理解を拡げていきました。」
参加者
「役所内部との調整についてです。霞が関でも、取りまとめ担当とは調整がついても、実際の事務負担をする原課・原局との折り合いがつかないことはままあるなと考えながら伺っていました。自治体向けにアドバイスがあればお願いします。」
毛塚様
「つくば市でも同様の事態はよくありました。まずは雑に原課に繋がないことが大切だと思います。具体的には、必ず取りまとめ担当や自分が初回の打ち合わせまでは同席して案件を繋ぎきるようにしたりしていました。また、担当として置いたら案件をたらい回しにさせず、自分たちで担当しきるようにすることも大事だと思います。また、職員のモチベーションを最大限生かすということも意識していました。役所内のRPA導入などでは、導入先の部署は手上げ方式で行なっており、職員自らの手でシステムも組んでもらっていました。」
参加者
「お話を伺っていて、副市長は市長のエージェントとしての色合いが強いと感じました。首長との関係が非常に重要だと思いますが、良好な関係を築けそうかどうかはどのように判断すればよいでしょうか。」
毛塚様
「実際副市長の打診を受けた方からご相談いただくこともありますが、極力色々な人、できれば自治体行政にその周辺地域で携われている方々から情報を集めるのが良いとお答えしています。自治体の予算の議決プロセスなど、公開されている資料からも首長の人柄や議会との関係性がなんとなくつかめる場合もあります。」
参加者
「課題の吸い上げをはじめとする経営思考はどのように身に付けられたのですか。」
毛塚様
「色々な経営者と意見交換をさせていただくというのは、それこそ一日に二回飲みに行くくらい積極的にやっていました。立ち回りのアイデアはほとんどスタートアップの方との交流から得たものです。課題の吸い上げという点では、役所職員の間にも『もっとこうすればいいのに』という改善の手がかりが蓄積されています。心理的安全を確保しながら、職員を守りつつ情報を吸い上げられるようにしていました。」
参加者
「自由度の高い予算の確保というボトルネックを解消する取組があってこその改革だと思いながら伺いました。自治体での取り組みから国が学べること、模倣できること、あるいは自治体だからこそできることはあるでしょうか。」
毛塚様
「法制度の立て付け上は自治体でできることは国でも実装できると考えています。ただ、国の場合は年度をまたぐ財源としての基金の設立への制限がより厳しい側面はあるかもしれません。どの自治体も民間連携の枠組み自体は作れると思いますが、いかに事業者に応募してもらうか、どう成果をアピールするかで活性度合いに差が出てきている印象です。」
参加者
「つくば市でのご経験を経て、既存の役職にとらわれずこのような役割の人がいてほしかったということや、今後増えてくると思われる人材活用についてお考えを伺いたいです。」
毛塚様
「霞が関でよく言われる『自分の二つ上の立場の人の考えを思い描きながら仕事する』ことを実践し、市長やその先の多様な市民のことを考えながら仕事をしていました。同様に、副市長と市長、部長と副市長など副市長の立場を考えながら動いてくれる人材は重要でした。今後の動きとしては、スタートアップ出身のような首長が増えてくると予想しています。コロナ対応などから現職や従来の政治関係者へのチェックは厳しくなっている側面もあり、若年層の首長も増えてくるかもしれません。」
参加者
「現在県庁に勤めていますが、どうしても現状から少しずつしか動けない保守的な側面があると感じます。大きく変革するところと、従来の姿勢を守るところのバランスのとり方について伺いたいです。」
毛塚様
「自分は『ポリティカルリソース』を常に意識していました。変革をするときにも、優先順位をつけて関係者の信頼と小さな成功を積み重ねながらやることが大事です。ご自身の業務のプロセスや記録の残し方のちょっとした改善から始めてみることもできます。県庁の外、市町村などに改革の意識が高い人脈が築ける可能性もあると思います。」
4.おわりに
記事には書ききれないほど議論が白熱し、非常に濃密な会となりました。
様々な分野の人材が知見を結集させて都市、ひいては国家を動かしていくこれからの時代、スタートアップ経営者の知見をあらゆる取組で推進力としつつ、行政官時代のご経験も生かして役所組織と効果的に協調していった毛塚様の取組は先駆事例として様々な人の参考になるものと思われます。
PMIでは、官僚(現役・OB/OG)や官僚志望者を中心に、日本社会の現状や未来像について思考と教養を深める「PMI Bureaucrat Community」という会員制コミュニティを運営しています。今回の意見交換会のようなイベントをはじめ、個別具体の政策に限らないこの国の行政の在り方について議論する場をつくっていきます。
▼PMI Bureaucrat Community
間もなく公開!
今後も継続的に議論・発信を続けていきますので、ぜひご覧ください!
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