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白河桃子さんと考える家族の役割 #ミレニアル政策ペーパー 【PMI ThinkTank】

本記事は、4月27日のClubhouseのトーク内容を編集してお送りします。

●モデレーター
・白河桃子さん(相模女子大学大学院 特任教授)
・大門百合子さん(ジャパンタイムズ 執行役員 )
・石山アンジュ(PMI 代表理事)
・田中 佑典(PMI 理事・総務省)

このClubhouseのきっかけ

白河(相模女子大学大学院 特任教授):
アンジュさんたちPMIの「ミレニアル政策ペーパー」が素晴らしかったと4月22日にツイートしたのが、今日(4月27日)のこのClubhouse開催にいたったきっかけです。

少子化対策などを長くやらせていただいてる中、「こういう考えの人たちが『こども省』の有識者会議などに呼ばれたらどんなにいいだろう」って思ってツイートしたんです。

今日は元ジャパンタイムズ執行役員でジャーナリストの大門小百合さんも入ってくださっています。

アンジュ(PMI代表理事):
PMI(パブリックミーツイノベーション)は、アンダー40の国家公務員弁護士やロビイストなどが協働しながらペーパーを作ったり、イノベーションメイキング領域でコミュニティやメディア運営をしたりしています。
私も、シェアリングエコノミー協会という業界団体の活動をする中、この領域におけるミレニアル世代の声がなかなか政策の現場に動かないと感じていました。官民の壁を溶かして、ミレニアル世代の当事者として議論し、提言を作ろうと、PMIの活動を始めました。

田中(PMI 理事・総務省):
PMIシンクタンクのセンター長を務めている田中です。
僕自身も官僚として6〜7年くらい勤めている中、いくつか官僚の難しさを感じることがあったんです。

一番感じたのは、官僚は何か問題が起きて「現状を積み上げて考えていく」のは得意なんですが「50年後を想像して、今こうしよう」と、未来から逆算する考え方は普段しないんです。だから、議論する場もないんです。

ドラスティックに将来のビジョンを描くことが、国でやるのが難しいなら、外部に提言する場があってもいいとPMIシンクタンクを作ったのが、大まかな背景です。

「積みすぎた方舟」

田中:
「ミレニアル政策ペーパー」第一弾は、「家族」に焦点を当てました。
白河さんのご専門の「働き方改革」「選択的夫婦別姓」「同性婚」など、個別トピックがたくさんある中で、それを包括して「家族」の未来はこうなっていたいという部分を、なかなか自分自身も描き切れていなかった、という思いがあったんです。

実はミレニアル世代の人たちには、家族関係で苦しんでいる人が多いな、というのがヒアリングの中で分かってきたんです。

「なぜだろう」と考えた僕たちは「家族に関する制度と、家族に関する価値観に『ギャップ』が生じているんじゃないか」という仮説を立てたんです。

そもそも生涯、結婚しない人も増えているし、共働き世帯が2倍になれば専業主婦の数はその分、激減します。「家族を単位とした支え合い社会」にしか答えがない状態って、すごく生きづらいなと感じ始めていて。

一方で、同性婚や選択的夫婦別姓に対して、世論調査ではポジティブな回答が増えている。つまり僕ら世代の家族に対する考え方は、柔軟になっています。けれども日本の家族制度には確固たるものがあって、そこに収まらない人は「はみ出し者」に見られてしまう。

白河:
はみ出し者というより、「制度外」になっちゃうんですよね。
「ごめんなさい、この制度では救ってあげられないんです」ってやつですよね。

田中:
まさに、おっしゃる通りです。
旧態依然とした制度と、現代の若者の家族に対する価値観に『ギャップ』がある。
そこで僕らは、家族はこれまでどういう機能を担っていたのかをまず知ろうと思いました。そして家族の役割を9つに分類してみました。

それをていねいに見ていくと、もはや家族という枠組みの中で担わずに社会全体で負担していった方が、逆に家族も社会もハッピーになるんじゃないか、と思える機能もあると思うです。

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白河:
この「家族の9つの機能」、SDGsの表みたいですね。カラフルで見やすい!

田中:
意識しました(笑)
この家族の9つの機能の中で、皆さんが一番イメージを持ちやすいのは
扶養機能」だと思います。子供や高齢者、障害者のケアです。

この機能は、共働き世帯の増加に伴って、家族だけでやるのは難しくなっています。それでも「親の面倒は子供が見るべき」という社会の規範みたいなものが世の中にあったりする。

また日本の平均寿命が延びているので、かつて高齢者のケア労働は5〜10年間で終わっていたのが、20〜30年間も続くことも起きてくる。そうなると、さすがに家族の絆の中だけで見ていくのは難しいと思うんです。

白河:
分かります。社会学的には「積みすぎた方舟(はこぶね)」って言うんですよね。
昔は大家族だったから良かったんです。でも日本はある時から核家族が増えてしまった。これでは家族の船は重くて沈没してしまうと。

田中:
「積みすぎた方舟」という表現は、僕らが考える課題と合致していると思います。「期待しすぎた」あるいは「逃げ場がない」とも言えます。

アンジュ:
「共働きしながら、子育ても介護もやるのって無理じゃん」と感じているミレニアル世代はたくさんいます。まさに積みすぎた方舟状態になっています。
でも同世代の声をヒアリングしていると、家族のいくつかの機能をテクノロジーで代替していたり、自分らしくカスタマイズしている人もいるんです。

むしろ一番のボトルネックは、上の世代との価値観のギャップなのではないかと。上の世代から「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」的な、昭和的な家族モデルを押し付けられているような感覚でしょうか。

家族ではなく個人単位で

白河:
去年、コロナ禍で政府が給付金を配りましたが、あれって「世帯主」に対して配ったんですよね。その時に問題になったのは、DVで世帯主から逃げている母子でした。夫に連絡できないから給付金がもらえなかった。
結局、事前に申請すれば個人の口座に振り込んでもらえる、という対応になったのですが、なぜ最初から「個人単位」で出来なかったのか。

実は東日本大震災の時も支援金は世帯主に振り込まれたんです。東北で「おじいちゃんが世帯主」という家も少なくなく、おじいちゃんが知らぬまに他の親戚に配っちゃったとか、孫の教育費に出してくれなかったとか、結構いろいろな問題があったんですよ。

あの時に1回経験してるのに、今回のコロナで「また世帯主?」でした。
やはり、思考が家族単位なんですよね。

田中:
僕たちの家族に対する視点が2つあります。1つは「家族の解釈を広げる」というものです。「婚姻」の概念を広げていくことによって、いろんな人がそこに収まるような社会を目指していくこと。同性婚や選択的夫婦別姓の議論も、ベースはそれです。

でもそれでも「家族要件」からこぼれ落ちてしまう人が実際はいる。ならばいっそ、家族単位ではなく個人単位で考えよう。これが2つ目の視点です。

その2つ目の視点から導き出されたのが、「婚姻」と「給付金などのベネフィット」の議論は、一度切り離し、そしてベネフィットは個人に対して行っていくべきだという提言です。

白河:
この政策ペーパーにも、「 ”普通の家族”というスタンダードがない状態をスタンダードに」って書いてある。昔ながらの家族像を大事にしたい人はそれでもいいけど、とにかく国が押し付けないことが重要ってことですよね。

田中:
そこがキー・メッセージです。

アンジュ:
私も事実婚なんです。夫とは住所も同一にはしてないし、「口約束」だけで、勝手に結婚している状態です。

白河:
何か不自由なことはありますか?

アンジュ:
基本的に不自由なことはないです。もしかすると子供を産んだら何か出てくることがあるのかもしれないけど。制度的な不自由はないけど「なんで籍を入れないの?」っていろんな人に言われます。

拡張家族ってこんなのです

アンジュ:
今、「拡張家族」という生活をしていて、今のパートナーに会う前からそもそも家族が100人いるっていう状態なんです。
渋谷のシェアハウスで一緒に生活して、子供も5人ほど住んでて、私も子供のお弁当を作ったりお風呂に入れたりします。上は60代までいて、長い時間軸の中で一緒に生活しています。

白河:
拡張家族っていう概念はよく聞くけれど、実態を初めて知りました。何人で暮らしているのですか?

アンジュ:
全国に拠点があって合わせると100人ほどなんですが、私は渋谷で約40人で一緒に住んでいます。私のルームメイトはゲイの男の子です。

今の夫と会ったのもそこで、「結婚する前から俺たち家族だよね」って話しています。その中で「結婚とは何か」をすごく考えました。

私の中での結論は、性的な関係を持つ相手は夫だけ、つまり先ほどの「9つの家族の機能」の中の「生殖機能」だけは夫にだけ求める。でもそれ以外のことは、ここで一緒に住む家族のメンバーに対して、求めるものは夫と変わりません。

大門さん(ジャパンタイムズ 執行役員):
その100人のメンバーはどのように決まったんですか。「拡張家族」における家族の定義というのはあるのでしょうか。

アンジュ:
100人の家族は本当に多様です。「家族」を定義した瞬間に、分断が生まれるし、誰かが傷つくんです。だから私たちが大切にしているのは「家族とは何?」という「問いを分かち合う」ことだと思っています。

家族メンバーは、肩書きがどう、とかではなく「お互いの価値観を認め合えるか」どうか。「自己変容」と呼んでいるんですが、相手に合わせて「自分を変える意志」があるかどうかを考えて決めています。

まるで100人と夫婦関係をしている感覚です。みんな価値観が違うから、ケンカもする。でも夫婦と一緒で、好きだから、別れたくないし別れられない。そうすると自分が変わらなきゃいけないことに気づく。「もう関わらないようにしよう」じゃなくて、対話を続ける。それを100人とやっているんです。

白河:
新鮮ですね…。国はそれをどう「家族」として定義するんだろうね。
周りの方たちの受け止め方にも、いろんなものがあったでしょう?

アンジュ:
概念的に「拡張家族」って聞くと「なんか気持ち悪い」っていう反応も普通にありますよ。でもNHKで密着取材してもらったりなど、メディアに出て、圧倒的にそれが「幸せ」そうに見えたら、誰も否定する理由ってないんじゃないかと思っているんです。

幸せな姿をどんどん見せていこう

アンジュ:
LGBTQに反対している人のなかには、「イデオロギー的に反対」っていう人もいます。でもLGBTQの当の本人たちが幸せな家族像を築いている状況を目の当たりにした時に、「理屈を超えて」理解してもらえる瞬間って、あるんじゃないかと思うんです。

今回インタビューした、新しい家族像を作っているミレニアルの人たちは、なにも「社会課題解決」のためにそういう家族像を実践してるわけでもなんでもなく、ただ本当に自分たちが幸せだと思うことを自然にやっている人たち。それが若い世代なんです。こういう生き方をどんどん見せていくことで、何かのきっかけになればいいな、と思っています。

白河:
私、いろんな場で(トランスジェンダーで、さまざまな社会活動をしている)杉山文乃さんのご家族の話をするんです。彼らのように、幸せな実生活を見せるのって、すごく大事だと思います。

大門:
すぐ隣で幸せに生活しているのを見たら「あ、いいじゃん」ってなりますよね。どんどん、見える化していくのが大事なんだと思います。

アンジュ:
特に政治の現場が、この感覚から最も距離が遠いと思ったんです。それが私たちがPMIを立ち上げた背景のひとつです。若い、新しい価値観の声が政治家に全然届いてない。対話をする機会がない。若いプレーヤーがいない。

白河:
政治家の方々も「家族」に関しては圧倒的に「自分の家族像」を持っていますよね。「父親の育児参加」ですら、まだ理解がないんですよ(笑)。
特に男性の政治家たるや、育児などせず365日仕事するのが当たり前だろうという考え方が主流ですね。

この前も、ある政党でジェンダーの話をしてくださいと言われて、考えて考えて言葉を尽くして、お父さんの子育て参加がいかに大事かを資料と合わせて1時間半もプレゼンしたんです。でも最後に一番の重鎮の方が「でも僕は子育ては一切やってこなかった。僕の妻は偉かった。」って!(場内、苦笑)

でも私は粘り強くやっていくしかないと思っています。あとは、若い世代の人たちが「それっておかしくない?」って、どんどん声を上げるしかないんだろうと思う。

政治家も味方に

白河:
「寡婦控除」という、それこそ明治時代からある制度があります。夫と死別、離別したシングルマザー手当みたいなものですが、それを今までは、選択的シングルマザー、つまり婚姻をしないで出産したシングルマザーには手当が実施されなかったんです。

NPOキッズドアの渡辺由美子さんらが主導されて声をあげたんですが、そこに自民党の女性議員さんが、税制調査委員会に乗り込んでくださったんです。稲田朋美さんなど、どちらかというと保守的と思われていた議員さんたちが、です。

父親の育休(6月3日に国会で可決された男性育休促進法案)も、NPOフローレンスの代表理事 駒崎弘樹さんなど民間の方たちの尽力を、官僚の方たちがしっかり拾ってくれましたよね。議連が立ち上がり、みんなで協力してどんどん推し進められましたよね。
そんな風に、どんどん議員さんを巻き込んで推し進めていくと、いろんなことが、少しずつですが確実に動いていくと思いますよ。

アンジュ:
私たちのペーパーを、いろいろな活動をされている方や業界団体の方たちが引用してくださることが、広報活動になります。私たちはロビー活動の機能をもちません。中立公平なシンクタンクとして、私たちの提案を皆さんの議論の題材に使ってもらえるような、そんな役割になるのが私たちの目指すところです。

星野(内閣府を経て現在コンサルファーム所属):
元内閣府で働きPMIではポリシーオーナーをしている星野です。私は「働き方改革」の総理の会議の事務局メンバーだったんです。白河先生には、毎月のように官邸にお越しいただいて、その節はありがとうございました。

あの場で、白河先生や有識者の方々が提案して下さったこと、なかなか官僚のリソースが難しい中で、政策として実現できていないことも多く、どうスピーディーに対応していくか、常々思っていたところです。

私は内閣府、田中さんは総務省、あと厚生労働省のメンバーもいて、PMIには違う観点から「家族」というテーマに仕事で関わっているので、多方面から検討できるのは、我々の強みだと思います。

田中:
たとえば「家族」というテーマを行政で考えるのが難しいのは、家族って「概念」であって「機能」じゃないからなんです。

「婚姻」や「扶養」という機能に落とし込んで初めて、それぞれの省庁に落ちてくるんですけど、「家族」の全体像を描き、未来から逆算して考えるのが行政の構造上難しいと、先ほどもお話しました。

でもPMIには、それぞれの個別分野に詳しく、かつ「そもそもの家族の全体像を描きたい」と思っている人間が、多くいる。

白河:
私は(働き方改革の)実現会議をやっていた頃、家に帰ったらすぐ自分の話したことをSNSなどにアップするようにしていました。国の審議会って議事録は出ますけれどそんなの誰も読まないし(笑)。そういう小さなことも、審議会の委員としてやれることの一つかなと思います。

星野:
本当にその通りで、白河先生は当時から発信力がすごくおありで、「実現会議でこんな議論があった」とすぐに発信して下さり、内容が拡散され、それをきっかけに議論が広がるので、本当に我々としてはありがたいなと思っていました。

白河:
アンジュさんも国の審議会の委員をされていますよね。その場も最大限に利用していただきたいです。そして「拡張家族」をはじめ、実際に幸せに生活している実例、実態をどんどん発信していただきたいと思います。この政策ペーパーを作られたPMIには、官僚さんたち、ミレニアル世代の繋がりもある。本当に頼もしいです。
ではそろそろ時間になりました。今日は聞いてくださった皆様、ありがとうございました。


記:村松 優里英(PMIインターン)

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