工程別分業方式の致命的な欠陥

(プロマネ亭コラム#9)
 近年オフショア開発の進展に伴って、要件定義はベンダー、設計は国内下請け会社、製造は海外オフショア会社、評価は国内下請け会社もしくはオフショアなどと、一つのプロジェクトの各工程を複数の会社で分業するような開発形態が増えてきました。この分業体制には多くのリスクや問題点があります。実際この「工程別分業方式」による開発で多くのプロジェクトが失敗しているのを見てきました。この方式の最大の問題点は、情報の共有が極めて困難であるということです。以前の開発体制は、ベンダー側にてプロジェクトの統合管理、要件定義およびシステムの基幹部の開発および評価を担い、不足要員を国内下請け会社で補う形が一般的でしたが、現在は外形的にはベンダー側における開発や評価業務は下請け会社にシフトされており、特に製造工程はコストメリットの追求のために海外オフショア会社に発注されている場合が多いようです。 この工程別分業方式の致命的な欠陥を以下に示します。

1.各工程が異なった会社に分離・分散されたことによる共有すべき情報の分断化
 一社で全ての開発工程を担う場合に比べて、複数社で分割した工程を担うことは極めて難しいことは誰にも容易に分かるはずですが、多くのベンダーにおいてはその認識が極めて薄いようです。ソフトウェア開発は、一社で全てを実行しても失敗する危険性が高いのにもかかわらず、どのようなリスクがあるのか深く考えず、単にリスク分散だとかコスト削減だとかの旗印のもとに複数社に分割発注することは正気の沙汰とは思えません。工程別分業方式における主なリスクを以下に示します。

□ 統合管理および統合コミュニケーションの欠落
 元請会社において下請け各社の進捗管理や品質管理をまとめる統合管理および統合コミュニケーションの実行がなされない場合があること。
□ ドキュメント・ベースの開発の喪失
 ベンダーも含めた各社における妥当な要求仕様書や設計書などのドキュメントに基づく開発および評価の実行がなされない場合があること。
□ 統合的プロジェクト体制の構築失敗
 ベンダーも含めた各社における開発力、すなわち必要な人材や体制の投入に関する検証の実行がなされない場合があること。
 ベンダー側において統合プロジェクト管理を実行していなければ、仕事も責任も放棄した丸投げ発注となり、プロジェクトは必ず失敗するでしょう。ベンダーの下に有機的に統合された分業体制を「共有分業」と呼ぶならば、そうでない分業体制は悪しき「分離分業」と言えます。
 プロジェクトにおける統合管理、情報共有、ドキュメント・ベース開発および適切な開発体制の構築は、分業の有無にかかわらず本来一つの開発組織においても実行されていなければならないプロジェクトを成功させる重要な要因です。下請け会社においては、ベンダー側において欠落している組織機能の補完を行う行動をとることが新たなビジネスチャンスになるでしょう。

2.文化・言語が異なる海外オフショア会社との間のコミュニケーションの阻害
 十分な統合管理もできず、ドキュメント・ベースの開発もできず、さらに十分な開発体制の構築もできないような組織において、文化も言語も異なる海外の会社に設計・製造・評価などの工程を発注したらどうなるかは誰にでも分かることでしょう。すでに分離・分断されている工程間にさらに深い溝を掘ってしまう結果になります。要求仕様書の行間を読めというような非科学的な姿勢しか持ち合わせていない人たちが作成した貧弱な仕様書に基づいて設計や製造を発注されたオフショア会社においては、きっと書かれているものだけしか設計・製造できないでしょう。おまけにあいまいな日本語は非ロジカル言語であり、その日本語で書かれた貧弱な要求仕様書は中国やベトナムの技術者にとって意味不明なしろものなのかも知れません。まともなプログラムができなくても当たりまえでしょう。それを補うために新たにまたブリッジSEなる職種を作りだしたり、プログラムの受け入れ検査組織を作ったり、補修するための新たな技術者を用意したり、結局オフショアのコストメリットが無くなるばかりか、赤字に陥り、劣悪な品質や納期遅延の結果を生んでしまうことでしょう。
 オフショアのみならず開発を成功させることのできる開発組織は、前記の統合管理、ドキュメント・ベース開発および優れた開発能力をもった組織だけだと言えます。


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