映画感想ep1:SUMMER OF 84
こんにちは、倒です。
映画感想の記念すべき1回目となります作品は、2017年制作、2019年劇場公開の映画『SUMMER OF 84』です。
鑑賞した旨をSNSに投稿したところ、学生時代の友人のアイコンが通知欄に続いたので、「たしかにこの人の好きそうな作品だった。さてはもう見たな?」とにやつきながら話しかけたところ、「気になっていたがまだ見ていない。流行病が無ければ一緒に行くはずだった映画だったからだ」と言われました。友だちでいてくれてありがとう。
SUMMER OF 84
監督:フランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセル
あらすじ:1984年の夏、カナダ郊外の小さな町では少年が狙われる連続殺人事件が発生していた。警察が発表した犯人像から、15歳の少年デイビーは彼の近所に住む警官マッキーこそが連続殺人犯なのではないかと疑い、友人達と独自の捜査を始める。ホームセンターで毎週買い求める大量の土、花の咲かない庭、そして家の地下室にはいったい何が隠されているのか…。
※以下映画本編に触れる内容を含みます。
映画のあらすじを読んで『スタンド・バイ・ミー』をイメージする方が多いのではないでしょうか。私もまったくその通りで、この記事を書くにあたりポスターを見て「あっこういうかんじね」と驚いたくらいでした。瑞々しく爽やかな印象があったのは、少年たちのひと夏の冒険物語という、ひとつのフレーズとして覚えていたからかもしれません。確かに間違いない、なにも間違っちゃいないのですが、椅子に縛りつけられて「あっこういうかんじね~!」を体感させられていくような映画でした。
件のポスターには、明かりの灯る一軒家、神妙な面持ちで懐中電灯を手にする4人の少年たち、背景には夕暮れを覆う黒い雲と、そこから浮かび上がるドクロが描かれています。一軒家が警官マッキーの家、そしてこの4人の少年たちが今作の主人公となります。彼らは鬼ごっこが大好きで、頻繁に集まっては電灯もない町の中を懐中電灯片手に走り回っています。少年を狙った事件が多発してるのに夜に鬼ごっこなんかするな…!とシンプルに大人目線になってしまいましたが、今にしてみれば、映画を印象付ける大事なシーンだなあと思います。子供の遊びとしての鬼ごっこ、いつどこから現れるかもわからない鬼に背後を追われ続ける鬼ごっこ。
今作はホラーやサスペンスでは欠かせない要素となる、緊張感を出す演出やびっくりさせる演出がふんだんに使われています。特にデイビーが自宅にやって来たマッキーと対峙するシーンでは、マッキーの笑顔の後ろで絶えず流れる弦楽器の不協和音がデイビーの感じる不信感を如実に表していました。また、画面上部からゆっくりと降りてきて軋む屋根裏部屋の梯子のシーンがとても怖かったのですが、来ると分かっていてなお迎えざるを得ないような恐怖の演出は邦画ホラーに近いなあなんて思います。叫びだすギリギリまで緊張感の糸を張って、脅かすところはしっかり脅かす。怯えさすことに余念がないんか?
町のお祭りで出払ったマッキーの家の地下室に忍び込むシーンは特に緊張しました。鍵のかかった部屋にはマッキーに向けたメッセージが書かれた野球ボールが飾られており、それを見た少年たちは、そこがマッキーが幼少期を過ごした部屋だということを知ります。そうなんですよね…錠のかかる子供部屋が地下にあるってどういう状況なんだと、後半はそればかり考えてしまいました。さらにその部屋を抜けた先にバスルームがあり、そこで被害者を監禁・殺害していたわけですが、これだけ一軒家の風呂場が地下にあるわけはないし、幼少期のマッキーは家族からあまりいい教育をされてこなかったのでしょうね。この事件は彼の決して良かったとは言えない家庭環境への反発や、家族への願望や妬みが引き起こしてしまったものなのかもしれません。物語終盤、森の中でマッキーがデイビーを追い詰め「俺の人生を奪いやがって!もうここには二度と帰ってこれない!」を憤慨しますが、彼の思考がこうも歪んでしまっているのは家庭環境によるものなのか、それとも。元からこういう思考だから隔離されてしまったのか…。
同じくマッキーが「想像するんだ、俺が再び目の前に現れる日のことを。俺は必ず戻ってくる」と迫る場面ではパトランプの赤い光がマッキーの顔を赤く染め、恐怖や悪魔といった印象を与えます。こんな風に少年に宣言をして去っていき、実際に本編が終わるまで戻ってこないし、その後主人公サイドの状況が前向きな方向に転換することがないというエンディングは、自分の数少ない鑑賞経験の中では新しいものでした。友人は死んでしまうし好きな女の子は引っ越してしまう。
主人公は「人は本性を隠して生きている」という学びを得たわけですが、彼のすっかり大人びてしまった冷めた表情を見て、これからの人生は少なからずこの1984年の夏に追われ続けるのだなと思うと何とも言えない気持ちになります。
それにしてもこの映画、本当に無駄がないんですよね。伏線のちりばめ方や回収がとても巧みで違和感が全くないから、クライマックスシーンでも引っかかる点が無く集中できる。マッキーの尾行シーンでウッディが運転できるという情報が事前に提示されているから、「パトカーまで戻れ」で「ああ運転して助けを呼びにいけってことね」と納得できますもんね。凄い。
一見してサスペンスホラーや青春映画へのオマージュを感じる作品ですが、ヒューマンドラマや、恋愛映画、様々なジャンルの要素を感じましたし、ものすごく見ごたえがあります。
『ホット・ファズ』しかり、本編が終わったあとにタイトルがバァンと出てエンドロールを迎える映画って総じておもしろいなあと思うのですが、この『SUMMER OF 84』も、タイトルが出た瞬間に感嘆の声が漏れ出てしまう映画でした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?