
四月の風 (6)
この時期になると必ず聴きたくなる曲がある。
エレファントカシマシの「四月の風」
4月になると世間は新しいモードに入る。
新学期
新入生
新年度
新入社員
新番組
新生活
など。日本において新年とは別な社会的な新スタートが始まるのが4月である。
狙ったわけではないが、今から遡る事11年前の4月。私は師匠、立川志の輔に入門を許された。
厳密に言うと私が生きる落語の世界は
見習い→前座→二ツ目→真打
という肩書き、身分制度が成り立っている。
割と最初の「見習い」というところが省かれて、世間的には前座→二ツ目→真打。と認識される事が多い。
「見習い」とは芸名がない状態である。
要は、立川志の太郎ではなく本名の状態。
着流しの着物も着ることは許されない。
※前座になると芸名を師匠から頂き着物も着れる。更に黒紋付、羽織、袴を身にられるのは二ツ目から。私は現在二ツ目
落語界の説明を書くと長くなるので興味ある方は調べて頂くとして。
私の思い込みかもしれないが、この世界はあまり「新弟子」という言い方をしない。
「新弟子」と言うと角界のイメージが強くなるのかもしれないが、、、。
「見習い」というのは、完全には弟子ではないのである。言ってしまえば試用期間。
なので、自分を紹介する時も「見習いの○○(本名)です。」と挨拶をする。
それが東京で落語家を志す人の全ての新しいスタートなのである。
私は埼玉の中部あたりの生まれであるが、入門と同時に都内で一人暮らしをする事になった。
想像の通り、埼玉県民にとっては「池袋」が玄関口。
新宿を越える事は滅多にない。(もちろん人にもよる)
私はその新宿の更に先のエリアである渋谷区、港区、目黒区辺りに住む事になった。
(当時、師匠の事務所が恵比寿にあったのでその近辺に住む事になる)
急いで五反田の不動産屋を予約し数件の「1R」を紹介してもらった。
とにかくその数件の中で1番恵比寿に近い物件に即決したのだがいかんせん、土地勘もなく多少なりの不安もあったのは事実である。
とりあえず液晶テレビと家具が届くまでの数日間を凌ぐための煎餅布団を持参して引っ越し先に乗り込んだ。
6畳一間で角部屋だったためベランダ側の窓以外に壁際に一つ小窓があったのだが小窓を開けると数百メートル先に綺麗に東京タワーが見えた。
「あぁ東京で一人暮らし、落語家生活が始まるんだな」と実感するとともに、数年後自分はどうなっているんだろう。と全く予測がつかない世界に飛び込んだものとも実感した。
実際3月の末に入居して、初めて師匠から呼び出しがかかるまで2週間ほどあった。
呼び出しがかかるかもしれないので念のため8時に起床し備えている時に、朝窓を開けるとカーテンを四月の風がふわりと持ち上げて乾いた風を運んでくる。
期待と不安が入り混じった心の中を風が通り抜けていったあの四月がまたやってきた。
あぁ何処へ行くのやら♪
明日は何があるのやら♪
そんな11年前を思い出し、今年もエレファントカシマシの「四月の風」を聴きながらの12年目のスタートである。
という、今回のお話。