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怪物の引き際 (18)

 先日プロ野球選手、松坂大輔さんの引退のニュースを見た。
※以下敬称略

松坂大輔といえば私のような、昭和60年前後生まれで野球をやっていた少年、青年にとってはスーパースターの1人である。

当時中学1年生で野球部所属の私にとってその年の夏の高校野球は凄まじいものであった。

全国民のほとんどが注目していたであろう大会である。

決勝の横浜高校対PL学園もさることながら、とにかく準決勝の対明徳義塾戦は今後も永遠に語り継がれる試合であろう。

食い入るようにその年の横浜高校の試合をずっと見ていた。もう、私の目はキラッキラに輝いていた。

それぞれの世代に高校野球を沸かせた選手は何人かいるはずだが、後にも先にも私にとっては松坂大輔がNo.1である。

松坂大輔は高校野球で大活躍した後、当然プロ志望を表明する。

横浜ベイスターズへの入団を希望していたが交渉権を獲得したのは西武ライオンズ。

当時のライオンズの東尾監督が口説き落とし、平成の怪物・松坂大輔は西武ライオンズ入団となったのである。

西武ライオンズの本拠地は埼玉。
そう、我が地元に怪物はやってきた。

そらもう、当時、私を含めた周りの野球小僧達は歓喜であり、プロのマウンドにあがる松坂大輔を皆、毎日毎日想像したものだ。

シーズン開幕後、期待通りのスーパースターの活躍を見せてくれ、毎日部活内では松坂の話題で盛り上がった。

そして自分自身がまさかあの試合を生で観れるとは夢にも思っていなかった。
父の仕事の関係でオリックスの試合を年間数試合ランダムで観戦できたのだが、その年、事前に頂いてたチケットが

西武ドームで行われる
ライオンズ対オリックスの一試合であった。

そしてその試合の先発が怪物・松坂大輔。

そして、オリックスにはもう1人のスーパースター、天才・イチローがいたわけである。

球場に着くと超満員。
たぶん過去、私が観に行った野球の試合の中であれほど人で溢れかえった試合はない。

松坂が大歓声の中、マウンドへ上がる。

一回の表、オリックスの攻撃。
1とウグイス嬢がイチローの名前をアナウンスすると、これがまた球場がひっくり返るような歓声と拍手。

鳥肌。鳥肌。鳥肌。
(あのシーンを思い出しながらまた鳥肌がたっている)

そして松坂がワインドアップで振りかぶり一球を投じると、球場全体がフラッシュに包まれた。
ほとんどの人がその瞬間を記録しようと、あちこちでフラッシュが焚かれる。

その凄まじいフラッシュの量で球場全体がまたどよめいた。

中学生だった私はカメラを持っているわけなく、心に焼き付けたわけだが、、、

結果は皆様ご存知の通り
あのイチローの3打席連続三振。

初対決は松坂大輔の完全勝利に終わり、そして松坂大輔は本当の怪物の姿を世の中に見せつけたわけである。

友達と2人で観に行ったのだが
あまりの凄さに帰りは終始無言であった。

そのスーパースター、怪物・松坂大輔の引退速報。

記者会見で松坂の口から出た言葉は
「ボールを投げる事が怖くなってしまった」
という、なんとも人間味溢れる言葉であった。

平成の怪物と言われ大活躍し、手術や紆余曲折あったプロ野球人生の去り際の言葉が本当に本当に人間らしく、測りきれない努力とプレッシャーの中で生きてきた事を改めて想像させられ、私も涙してしまった。

怪物の引き際は実に人間らしく
そして永遠に私のスーパースターである。

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±3落語会事務局
この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com