デザインの勉強をしたことがない木工作家5年目の僕がやっているアイデアの発想方法3選ー後編ー
この記事は「デザインの勉強をしたことがない木工作家5年目の僕がやっているアイデアの発想方法3選ー前編(イントロダクション)ー」という記事の続きになります。↓
前回の記事の概要
ものづくりの世界、クラフトや工芸(特に木工)の世界に生きている人が陥りがちなデザインや思考プロセスの原因
ビジネス界隈で言われて思考プロセスの紹介
アイデアの作り方の紹介
前編の記事では、なぜクラフトの世界は似たようものが多いのか僕なりに仮説を立てて話を展開していきました。その中でビジネス界隈で言われている思考プロセスを紹介しました。
この記事では実際に僕がどのようにアイデアをひらめき、形にしているのかを紹介しようと思います。
後半は有料になりますが無料部分だけでも十分に楽しんでいただけると思います。
※あなたが素晴らしいアイデアを出せる保証はゼロです。
あくまでいくつかの方法をまとめただけです。そして人によって合う合わないがあると思います。
ご自身が一番自分に合う方法を見つけ出すための参考になれば幸いです。
そしておそらく特別目新しい情報というものはないかもしれません。
念のため言っておきますが、僕は一切デザインの勉強をしていないので参考になるかどうか不明ですが、こういう人もいるんだなーくらいで考えてもらえると嬉しいです。
PLYLIST的なデザイン思考の例
では、僕がデザイン思考(前編の記事で紹介したプロセス)とブレストを利用した「トング」の発想に至るプロセスをご紹介します。
このトングの特徴は分解して両手でも使えるということです。
こちらの動画を見てもらえるとわかりやすいかと。
まず、トングを作ろうと思ったきっかけは、自宅で使っている100均で買った金属製のトングを使っている時でした。
「トングって引き出しにしまうと、意外と嵩張ってジャマだなー」
「二つに分離できたら両手で持って和える時にも使えるのに」
という料理をする人としてのぼやきというかちょっとした不満がありました。
そして、この小さな不満を感じている人がおそらく他にもいるのではないか?と思いました。
きっとこの小さな不満を解消したら喜んでくれる人がいるのでは?
という「他人」に共感されるであろうという希望的観測でトングをデザインしようと思いました。
ということでトングのデザインのゴールとして
分解して両手でも使える
畳めて嵩張らない
という2点をクリアできるものを設定しました。
分解できるトングの思考プロセス
では具体的にどのように発想したのか。
まず、分解できるというところを起点にしてブレインストーミング的な連想ゲームをしていきました。
分解→くっついて外せる→磁石
みたいな感じです。
ここで磁石というキーワードが出たので、磁石を使ってうまいことデザインできないかな?と具体的な着脱機構を考え始めました。
ここでまた、ブレインストーミング的な連想ゲームを頭の中でしました。
最初の出発点と途中経過がどのようなものだったか忘れてしまいましたが、どこかで「シーソーのようなテコの原理が使えないかな?」という発想が出てきました。
それで、軸を滑らせてトングの末端に磁石を仕込めば、磁力で常にトングの先端が開いた状態になり、握るとパチパチと開閉できるんじゃないか?と閃いた気がします。
そこからスケッチをして図面を描くという作業に移行しました。
この際に具体的な販売価格や具体的な作業工程を想像しながら実現可能なものをデザインしていきます。
今回デザインしたトングで想定した具体的な数字は6000円〜8000円以内の販売価格。
手加工、特に南京鉋を使用し、削りっぱなしの状態で塗装までする。(サンドペーパーは使用しない)
ということを条件としました。
南京鉋縛りをしたのは単純に南京鉋を使いたかったから。
というとても非合理的な理由です。
南京鉋で削れるRを考えて深いくびれのあるようなものは避けました。
なるべく少ない南京鉋の本数で削れるようにしたかったので、大きいRで構成するようにしました。
個人的な経験ですが、南京鉋を使って短時間で仕上げ、作業効率を上げるポイントは「なるべく南京鉋を使う本数、種類を減らす」ということです。(完全に個人の意見です)
小さいRと大きいRが入り乱れた形状の場合、そのRに合わせた下端の形状の南京鉋を使い分ける必要があります。
スプーンのようなくびれが深かったり、くぼみが深かったりする形状のものなど、場合によっては南京鉋では削れないこともあります。
そういう場合は繰り小刀や彫刻ノミなどを使う人が多いですが、こういった道具の使い分けが必要なデザインになると削り作業に時間がかります。
そのため大きいRのみで構成されたフォルムを意識してデザインしました。
そして、もう一つ重要なポイントがあります。
手道具で削る場合、左右対称に削るというのは地味に難易度が高いです。
これは実際にDIYなどをされたことがある人やスプーンを削ったことがある人でないと想像しにくいかもしれませんが、人は小さいものほど微妙な「非対称性」に敏感に気付きます。
ここからがとても難しいところなのですが、機械加工が主の場合、左右対称のデザインの方が効率的に加工できることが多いです。
しかし、手加工の場合は逆に非対称の方が仕上がりの微妙な差異が気にならなくなり、精度のゆとりと言いますか許容範囲が広がります。
今回は機械加工の効率よりも手加工の効率を上げた方が良いと判断したため、左右非対称のデザインとしました。
こんな条件出しを色々としながらスケッチをしてトングの幅や長さ、フォルムの検討をしました。
片側を斜めに直線的にカットした非対称の形は、加工時間の短縮だけでなく、テーブルに置いたときにドレッシングの液などが天板に付着しないようにという機能性もあるデザインにしようと考えました。
(曲面を下にして食材を掴み、使った後はひっくり返して直線の方を下にして置く)
トングの長さと開き角度は実際に実寸で図面を起こし、実際に試作品を作って使い心地を比べてみて決めました。
おそらくこのあたりの設計は使う人によって心地よさは違うと思います。
手の大きさ、握力、よく作る料理などによって最適なものは異なる気がします。
僕がデザインするときに設定するペルソナは完全に自分なので自分が使いやすい、そして奥さんが使いやすいという基準で決めています。
あとは実際試作してみて、磁石の磁力の強さ、サイズなどを検討し、微調整を何回かして最終的な設計に反映させました。
最後は型作り、ジグ作りをしてそれらを使って販売用のトングの制作をしました。
試作をしたときにちゃんと価格が想定内に収まるかどうかを確認しますが、勢いで確認せずにやってしまうこともあります。
今回はオーバーしてしまいましたが、初回ロットだけお客さんの反応を見るために少し安い価格にしてクラフトフェアで販売しました。テストマーケティング的な意味も込めて。
ここで反応がイマイチであればその後の販売はしなかったり。
今回のトングに関してはお客さんの反応はなかなか良かったので、その後も販売することにしました。
ただ、価格は上げざるを得ず、今は8500円で販売しています(本当はもう少し値上げしたい)。
どうでしょうか?
「こんなことは自分もやっているよ」という人は多いのではないでしょうか?
でも、ここまで細かく文章にしている作り手はあまりいないような気がします。
ここからは有料記事になります。
有料記事で書いている内容はスパイスミル、子ども椅子、コーヒードリッパーができるまでの思考プロセスです。
過去の記事にもプロセスを書いていますので無料で読みたい方はそちらをどうぞ。
ここから先の有料記事にはそこでは書ききれなかったもう少し詳細な話や、もう少し体系立てた話を書いていますが、概要は過去記事で十分理解していただけると思います。
今回、時間をかけて構成を練って結構な文字数でこの記事を書きました。(結局1万4千文字くらい・・・)
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