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ダイニングチェアに込める想い
みなさん、普段どんな椅子に座っていますか?
椅子にこだわりとかありますか?
今回の記事では、椅子についてお話ししようと思います。
僕は、DIYが高じて木工が好きになり、家具が好きになり、
家具製作の学校に通うまでになり、
そして今、個人事業主として家具を作ったりしています。
ちなみに、僕が一番好きな家具は椅子です。
僕が椅子が好きな理由の一つは、
椅子が一番長い時間自分の身体に寄り添っているからかもしれません。
正確に言えばベッドが一番長い時間かもしれませんが、
起きている時間に関していえば、
椅子が一番長い時間、自分の体を預けるものではないかなと思います。
「座り心地」「疲れにくさ」「背もたれのあたり心地」など、
結構気にする方も多いのではないでしょうか?
実際、僕自身もその項目をかなり神経質に設計しています。
そして、椅子が好きなもう一つの理由は
「空間を作る上での椅子の存在感が僕の中で、なんか大きい」
という曖昧な理由です。
超ざっくりいうと、「椅子はかっこいい」という一言に集約されるかもしれません。
テーブルや照明なんかの方が、よっぽど空間を作る上での役割は大きい気がしますが、
なんか、椅子はたたずまいだけで僕に何かを語りかけてる気がするんです。
めちゃくちゃ言語化しにくいんですが、こんな感じの意味不明な理由です。
一方で、作り手としての視点から見ると、
椅子は設計がとても難しいんです。
僕は椅子を設計するときに、
先ほど書いたように、機能性だけでなく、たたずまいの美しさにもこだわっています。
ここで、忘れてはいけないのが椅子の強度です。
椅子についてそこまで深く考えたことがない人がほとんどだと思いますが、
椅子は家具の中でもかなりハードな使い方をされる家具です。
人の体重がかかって、
時にはぶつけられ、
時には後ろに傾けて後ろ足だけでバランスをとってみたり
なんてしちゃったり。
デザイン重視で華奢な椅子にしてしまったら、
簡単に壊れてしまう可能性もあります。
美しさと強度と機能性のバランス
家具の中でもこれが一番難しいのは椅子なんじゃないかなって思います。
前置きが長くなりましたが、
今回の記事は、お客さんにとっても僕にとっても特別であるダイニングチェアができるまでの過程を紹介しようと思います。
ちなみにこのダイニングチェアができる前に、
ダイニングテーブルが出来上がっています。
こちらのnoteの記事でダイニングテーブルが出来上がるまでの話を紹介しています。
【2021年1月5日 追記】
長い記事は読むの疲れるんじゃー!という方。
ざっくりとですが、作っている風景を動画にしてみました。
動画は動画で長いんですが、ぼーっと見ていられると思います。
焚火動画系だと思ってください。
【以上ここまで追記】
ダイニングチェアのデザイン設計
まず、ダイニングチェアを作るにあたって、
どういうダイニングチェアがいいのか、
お客さんと相談しました。
この時に伺った要望としては、
色は濃い茶色
掃除の際に、椅子の肘掛をテーブルの天板に乗っけて足元を掃除しやすくできるようにしたい
座面は少し低めでファブリックが良い
デザインはお任せ
ということでした。
デザインお任せというは、僕としてはやりがいがありますが、
同時にプレッシャーでもあります。
お客さんの期待に応えないといけないというプレッシャーが半端ないです。
この要望をもとに、いくつかラフスケッチをして、
自分が納得したものを見せてOKをいただきました。
樹種はウォールナット
背もたれと肘掛が一体化している笠木
普段は肘掛はテーブル天板の下に収まり、
掃除の時に肘掛を天板に乗っけられるように。
デザインが決まったので、それを図面に落とし込みます。
設計の難しさ
スケッチを図面に落とし込む作業は簡単なようですが、
僕にはなかなか難しいです。
特に、今回の椅子は背もたれとアームが一体化しており、3次元的な曲面があります。
3DのCADを使えない私には、正直かなり複雑な形状です。
図面として数字に落とし込みにくい
作る時に、どこを基準とすればいいのか
などなど、かなり苦労しました。。
あーでもない、こーでもないと、
かなりの回数、図面を描き直しました。
2次元の図面にはなんとか落とし込めましたが、
作るのは3次元のものです。
3次元の曲面は図面にすることができなかったので、
最終的に僕はどうしたかというと、
自分のイメージに近いように感覚で削るという方法です。笑
4脚作るので、
いろんな角度から見て、手で触って、同じ感覚になるように削り、
同じ形にしました。
超アナログ的な方法です。笑
まずは試作
今回の椅子は複雑な曲面をイメージ通りに削りだす必要があるため、
一度試作をしてみることにしました。
この辺はミニチュアを作って確認する人もいると思います。
今回の椅子場合は、設計上、強度的な問題がないかということも確認しておきたかったので、
1/1スケールで試作しました。
あと、曲面を削りだす工程がめちゃめちゃ時間かかりそうだったので、
そこにどれくらい時間がかかるか
削りの工程を短時間にできるポイントは果たしてあるのか
ということも含めて未知数だったので試作したかったという側面もあります。
結果としては作業日数7日で1脚完成しました。
ちなみに、この椅子を作るための道具「治具」を大量に作ったのですが
この治具作りの時間は作業日数にカウントしていません。
なので、治具作りを含めたら、多分10日〜14日くらいかかっていたような気がします。
出来上がった試作の椅子がこちら
お客さんに実際に座ってもらって、座り心地を確認してもらいました。
お客さんからのフィードバックと僕なりの課題点を洗い出し、
図面を修正、改善して、本番に挑みます。
本番のカットはいつも緊張
大きなウォールナットの1枚板を今回は2枚使用しました。
材木屋さんからは「椅子にするなんてもったいない!」
なんて言われてしまいましたが、知ったことではありません。
僕は「このウォールナットが椅子にぴったりだ!」と判断しました。
ということで、「いざ、カットしていくぞ!」
となるわけですが、
まあ、緊張するんですよね。
家具を作る時に、この瞬間が僕は一番緊張します。
というのも、一枚板の「どこ」を椅子の「どのパーツに使うか」というのを、
めちゃくちゃ考えながら決めるからです。
椅子の姿を想像しながら、木目の流れや模様を見て決めます。
図面を見ながら、寸法は間違っていないか何回も確認します。
そして切ります。
失敗は許されません。
例えば、図面にある寸法よりも短く切ってしまったらアウトです。
短く切ってしまったものを長くすることはできません。
あと、これはどうしようもないんですが避けることができない場合もあります。
切ってみたら、木の中が割れていたという場合です。
あとは切ってみたら、木の中に節があったという場合もあります。
こういうのは切ってみないとわからないので、困るんですよねー。
ちなみに今回使ったウォールナットの板では何回かこれがありました。
節が埋まっていたのと、割れが内部にありました。
割れの方は、なんとか問題ない程度でしたが(後の工程で取り除けるレベル)
節が埋まっているのが判明したのは、
かなり最後の方の工程でした。
これについては、記事の後半で。
椅子のパーツを作る
さて、一枚板の状態からパーツごとのサイズにざっくりと切り出したら、
爆音で動く機械を使って厚みや幅、長さをそろえていきます。
次は、椅子のフレームの接合部分を加工していきます。
まずは穴を開けます。
接合部分は「オス」と「メス」の部分があるんですが、
まずは「メス」にあたる部分ですね。
で、穴を開けたら今度はオスの加工です。
0.05~0.1mm単位のシビアな精度が求められます。
接合部分の加工が終わったら、
次は曲線になるように切り出していきます。
そして、角を丸くしていきます。
機械を使って丸した後に、鉋を使って曲面を滑らかに仕上げます。
ちなみにこの不思議な形の鉋は「南京鉋」と言います。
曲面を削る時に僕はよく使います。
木工ガジェット好きな2019年僕的ベストバイは
この杉田創作製南京鉋(ZDP−189全鋼)ですね。
椅子のフレームはだいぶできあがったので、
次は背もたれをつくっていきます。
背もたれをつくる
背もたれは4層のパーツで構成されています。
それを接着して一つの木の塊をつくります。
接着して木の塊をつくったら、
それを今度はざっくり曲面になるように切り出して、
そして削っていきます。
この時です。
切り出していたら例の節が出てきたのです!
もうかなりショックで写真を撮るのも忘れてしまいました。
なので、もうここまでいくと作り直すというのは納期的に不可能でした。
それに、材料ももったいないです。
木材って世間一般的な認識よりも高価です。
特に、今回使ったウォールナットなんて、
ホームセンターにあるような材料ではありませんから、
それはもうかなりお高い、高級材です。
今回、節以外は問題がありませんでしたので、
節を取り除き、代わりに樹脂を詰めることで修復することにしました。
接着する
次はいよいよフレームを接着して、
背もたれと合体させていきます。
ここまでくると、だいぶ椅子っぽくなりました。
ここからはほとんど機械を使わずに作業していきます。
曲面をひたすら削る
接着したフレームの曲線が滑らかにつながるように
小刀を使って削ったり
背もたれの曲面をさらに滑らかにするために、
鉋を使ってさらに削り込んでいきます。
とにかく削りまくりました。
鉋屑やらおが屑を出しまくりました。
この作業が一番アナログで一番時間かかります。
そしたら、研磨の作業に入ります。
結構繊細な曲面をサンドペーパーを使って研磨していきます。
この作業でさらに滑らかですべやかな木の肌をつくります。
金物をつくる
研磨の作業が終わったら、
座面を椅子のフレームに取り付けるための金具をつくります。
市販品もありますが、
正直、見た目が安っぽいのであまり好きではないのです。
やはり特別な家具には特別な金物がふさわしいと思います。
今回は、椅子をひっくり返さないと見えない場所に取り付けるんですがね。
それでも、いずれは椅子の座面を張り替えるという日が来るわけで。
5年後か10年後か分かりませんが、
「その時が来た時に初めて分かる」
ちょっとしたサプライズみたいな感覚です。
僕はそこまでこだわりたいという意地になっているだけなんですがね。
ということで、
真鍮で自作の金物つくりました。
塗装
あとは、塗装です!
この塗装の瞬間に家具としての新しい命を吹き込んでいるような気がするんですよね。
木の色が濃くなって、木目と模様が「ぐわーっ」て浮かび上がるんです。
この瞬間に立ち会えることが、作り手にとって最高の幸せで贅沢な瞬間だと僕は思っています。
ちなみに今回の椅子はオイル塗装にしました。
塗装をすると滑らかな曲線が引き締まります。
塗装が終わったら、自作した金物を取り付けます。
そして、座面を取り付けて完成となります。
座面の張り加工は椅子張り屋さんにお願いしました。
僕の地元である下諏訪町でやっているzatowaさんです。
クッションの種類や厚みを何種類も試して、
自分の納得するものをお願いしました。
仕上がりは最高に綺麗でした。
完成
こうしてようやくダイニングチェアの制作が終わりました。
そして、お客さんのお宅に納めた時の様子はこんな感じ。
アームをテーブルの上に乗っけると、
お掃除ロボットが通れます。
お掃除ロボットフレンドリー仕様。
この記事ではかなりざっくりと紹介しましたが、
実際は結構時間かかっています。
僕は結構効率が悪くて、作業ペースも遅いので、
今回、4脚椅子を作るのに、1ヶ月くらいかかってしまいました。
多分、会社でこのペースで仕事していたら間違いなく説教くらうパターンだと思います。
でも、会社という組織ではできないことを僕がやっているのも事実です。
多分、見えないところに真鍮で自作の金物をつけるとかはできないと思います。
あと接合部分のオスメスの加工とかも、
実はあれ、結構手間のかかる丁寧な組み方してます。
手間がかかる分、強度はしっかりしているんですけどね。
そして、作業時間よりも時間がかかっているのが設計。
一見、なんてことのない普通のダイニングセットですが、
見えないところ、気づかないところに
絞りに絞り切った僕のこだわりが詰まっています。
使い心地やフィット感、家具の強度、たたずまい、
そして、お客さんの要望を満たすものになっています。
例えば
ダイニングテーブルは普段は小さく、来客に応じて拡張できる
肘掛けタイプ(アームあり)のダイニングチェアだけど、窮屈感が少ない
椅子の肘掛けはテーブルの幕板に干渉せず、スッキリ収まる。
テーブルの脚と椅子の脚が干渉しない。
そして椅子の座り心地がいい。
などなど
列挙すればまだまだありますが、
おそらく使う人は気づかないようなポイントが多いです。
ですが、こういう地味ポイントに気をつかった積み重ねが、
きっと素晴らしい体験としてお客さんを満足させることができるのではないかと信じています。
そして最後に、なんで僕はこんな非効率な仕事をしているかという後書きをしておこうかと思います。
効率重視、コスト削減重視の資本主義社会へのカウンターパンチ
この辺は作り手としての、理念というかポリシーというか、
譲れないものかもしれません。
モノの寿命を考えたら
制作にかかる時間なんてのは、本当に微々たるものです。
そこを効率やコスト重視で削ってしまってモノの寿命を短くするよりも、
1日や2日の制作時間や手間を惜しまずに丁寧に作ることで、
制作物の寿命が1年でも伸びるなら
僕はモノの寿命が伸びるようにつくりたい。
そういう手間の積み重ねで、1週間、2週間と制作時間は伸びてしまいがちなのですが。。。
それでもその積み重ねによって1年どころか、3年、5年と寿命が伸びたら僕は嬉しいんです。
あとデザインにも寿命があります。
設計やデザインで仮に1週間悩む時間を惜しんでデザインを雑にしてしまったら、
もしかしたら、賞味期限が短くなってしまうかもしれない。
だから僕は、デザインや設計も結構時間かけて調べ物をしたりして
なるべくモノの寿命が長くなるように精一杯努力しています。
周りの人から見たら、僕のやっている仕事は正直遅すぎると思います。
でも、僕はこの辺の自分の正義を折り曲げたくなかったので、
会社みたいな組織に属せずに、個人事業主としてものづくりをしています。
ただ、お客さんには納期が遅くなってい申し訳ないんですが、
僕の理念に共感してくれるお客さんなら、きっと納期のことは気にしないだろう
と
勝手に楽観視しています。笑
ちなみに、僕はInstagramとTwitterにほぼ毎日制作風景を投稿しています。
今回の記事は、SNSにアップしたダイニングチェアの制作風景を一つの記事にまとめたようなものになります。
気になる方はフォローしていただけると、めっちゃうれしいです。
ちなみにnoteは全然仕事と関係ない記事を書くことのほうが多いです。笑
そちらのフォローもぜひぜひお願いいたします。
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