IoT風鈴『RIND.』 「Creative×Technology」で生まれる新しい癒し体験【プロジェクトメンバー座談会】
2021年、+tech laboが開発・実装に着手しているのは、IoT風鈴『RIND./リンドット』です。Creativeが想像した未来を、Technologyが創造したプロダクトです。
コロナ禍で旅行や帰省が難しくなって約1年半。家に1人でいる時間が増え、孤独やストレスによる心の負担が大きくなった人も少なくないでしょう。+tech laboでは、そんな人々の心に癒し・安らぎを感じてもらうために、これまでにないIoTプロダクトを開発しました。今回はIoT風鈴『RIND.』の開発プロジェクトメンバーによる座談会の様子をお届けします。
『RIND.』プロジェクト・座談会メンバー
コロナ禍で溜まる心労。「Creative×Technology」の力で軽減できれば
――まず、IoT風鈴『RIND.』を開発することになった経緯を教えてください。
菊池:2020年春の1回目の緊急事態宣言の前だったと思います。「コロナ禍の世界に対して、クリエイティブの力で何かできないか?」と、電通テック社内のクリエイター20~30人がアイディアを持ち寄って「IDEA STOCK」という形にまとめました。そのアイデアの中から選んだもののひとつが、狩野さんの考えたIoT風鈴だったんです。
狩野:風鈴のアイディアは、コロナによって変化したことを書き起こしていくうちに浮かんできたんです。私もそうですけど、いまはどこでも“換気”しているじゃないですか。でも換気って春はいいけど夏はクーラーの冷気が逃げて暑くなるし、冬は逆に寒い。割と換気そのものが私たちの心の負担につながっているんじゃないかと思ったんです。IoT風鈴はそんな換気のストレスを音で軽減させる可能性があり、また日本ならではの風鈴という魅力も引き出せるかもしれない! と思って、発案してみました。
菊池:アイディアは他にもたくさんあったので、それらをシートに30個ほどまとめて電通グループ内に共有したんです。ただ、クリエイティビティにテクノロジーが絡むものって興味はあっても開発できないよね、みたいな空気が漂っていて……。でも、自分の中でクリエイティビティとテクノロジーの融合は大切なテーマだったので、社内の開発チーム+tech laboに相談したんです。
遊佐:当時のこと、覚えていますよ。「IDEASTOCK」のことは僕らも知っていて、興味を持っていました。チームでもテクノロジーとクリエイティブの掛け算で1つ形にしたいとも思っていました。丁度そのタイミングで菊池さんから話をもらったところから取り組みがスタートしたんですよね。
――数あるアイディアのなかでIoT風鈴が採用されたのは、どういう理由からだったんですか?
北村:僕の基準としては「面白そうなもの」ということばかりでなく、「実現可能なもの」「+tech laboのブランドリフトにつながるもの」というフィルターをかけて選んでいましたね。それらを踏まえて探したときに、一番良かったのがIoT風鈴だったんです。
遊佐:コロナ禍での「換気」という行動に注目し、それを促すアイデアを風鈴というプロダクトとの掛け算で形にする。それが、心に響く琴線に触れるものにもなっている。つまり、生活者との接点をどうポジティブな体験に変えていけるかということでもあると思います。プロモーションのプロとして、我々が取り組むことで生活者との接点に新しい価値を生むことができるのではないか?という挑戦でもあります。実際に開発エンジニアのメンバーからは、「従来のプロダクト発想からは出て来ないアイデアですね」といった声もありました。
『RIND.』の機能性、造りの質を維持しつつ、風鈴が本来持つ“情緒”も大事にしたい
――『RIND.』の開発を通して、大事にしてきたことはなんでしょう?
菊池:僕が大事にしてきたところは、聴覚体験によってさまざまな景観が頭に浮かんでくるようにするという点ですね。虫の音をセットすれば山辺にある家、波の音をセットすれば海辺の家が想像できるみたいな。現時点でアイディアが技術的に裏付けされるようになってきているので、「どんどん理想の形になっているなー」と実感しています。
狩野:私は前提として、コロナ禍における換気のストレス軽減を大事にしていました。ただそれだけでは、きっとコロナ禍の国民の生活に取り入れられることは難しいなと思っていて。『RIND.』を見た人が「あ、これ良いな!欲しい」とか「いい感じの風鈴かも」のように、感覚的に欲しくなってもらうような要素も取り入れるべきだなと思ったんです。それが商品自体の魅力にもなるはずですし。
あとは、風鈴が本来持っている“情緒的”な部分も打ち消さないようにしました。それはいまも変わりません。情緒的な部分を引き継いだまま、いまの時代にあったものとして実装させていければと思っています。
北村:僕の場合はまず、それらの条件を満たす以前の問題として、機能面やつくりの面を考えなければいけない立場だったので、大切にしてきた部分は少し異なります。
機能面で大事にしていたのは、ユーザーの使い心地ですね。そもそも『RIND.』はセンサーで検知する風の強さによって音の大小が変わるものですから、それらを踏まえた上でユーザーに心地よく使ってもらえるかを考えることが重要でした。また「生活における聴覚体験の、どの部分を狙うのか」や「バッテリーと電源のどちらで動かすのか」にも注視していました。
つくりの面に関しては、風を感知するセンサーの設置場所にこだわりました。また『RIND.』をIoTサービスとしたとき、毎月のサーバー代などの運用コストをどうビジネスとして設計するのか、という点についても検証を始めています。
遊佐:実際にプロトタイプを使ってみて、この『RIND.』は「使って感じることで、言葉にできない体験価値がある」と感じました。それは、「スーっとなんとなく集中してた」とか、「癒される」などに近い状態なんですが、表現が難しいんです。なので、実際に使って体験してもらいたい。ビジネスとして成立させるための事業計画を前提に開発は進行しますが、まずはプロトタイピングして使ってみることもとても重要だと思います。モノを手にして初めて分かることが沢山ありますから。
日常生活の中で『RIND.』に出会いたい。さまざまな所で目にできれば
ーー『RIND.』は今後どのように広まっていってほしいと思いますか?
狩野:私は、日常生活の中で『RIND.』に出会えるくらい広まってくれたら嬉しいなと思いますね。「このホテルに飾ってあるー!」とか思えたら最高です。あとは、展示会のように『RIND.』をダイレクトに感じてもらうブースを作るのも面白いかなと思っていて。もちろん人々の生活に取り入れてもらって楽しんでいただくのが1番良いんですけど、前段階として『RIND.』を知ってもらう、実物で体験してもらうことも広がりの一環になると思います。
菊池:2019年にミラノサローネ(※イタリアのミラノで開催される世界最大規模の家具見本市)に行ったんですが、『RIND.』はそこに展示してあったものと比べても遜色ないと思います。いずれ完成したらミラノサローネに出展することも目指したい思っています。そこに出せば、海外に日本の風鈴の良さを分かってもらえる良い機会にもでしょうし。
日本国内であれば、老人ホームや入院施設に置いてもらって、遠出ができない人のためのIoT風鈴として使ってもらえると嬉しいです。
北村:狩野さんと菊池さんのお話にもあったように、『RIND.』って個人だけじゃなくて公共のスペースに置くこともできるIoTなんですよね。活躍の幅が広いというか。なので、突き詰めていくなら、人のイライラやストレスがたまる場所・シーンをピックアップして、そこに『RIND.』を置いていく広げ方もアリなのかなと思ってます。
『RIND.』に対するマーケットの反応を見てみたい。その上でより進化できそうな企業とタッグを組めれば嬉しい
――最後に。今後の展望などを教えてください。
遊佐:『RIND.』は風鈴とIoTを掛け算した、これまでにない全く新しいプロダクトになると考えています。その意味では、従来の風鈴市場を狙うというよりも、新しいマーケットを作って行きたいです。また、僕らの開発するものは、一度使うとやめられない、これまで使ってなかったことが不思議に感じてしまうようなプロダクトを目指しています。これまでの当たり前を、生活者を中心に据えて今の時代に照らし合わせてリフレーミングしてみる。そこで発見した気づきを元に、クリエイティブやテクノロジーの力で生活者の体験をアップデートしていく。『RIND.』を通じて、僕らの取り組みや目指す方向性に共感していただける方達ともどんどん繋がっていきたいと考えています。
僕個人の展望としては、個人的な利用はもとより、公共スペース、更には地域や市町村ともつながっていけると良いと思います。まだ野望レベルですが。文化庁がテクノロジーで日本文化の魅力を広める事業の募集をしている(※1)ので、そういった政策へもエントリーをしてみたい。各地域の観光業界とコラボが出来たら面白くなるかもしれませんし、『RIND.』の可能性も広がると思います。
菊池:僕も似たような展望を持っていて、日本各地の旅行先の音なんかを自分で録音して楽しんだり、だれかとシェアできたらいいなと思っています。それだけでも、音のネットワークはより広がるんじゃないでしょうか。
また、風鈴を作成する段階からコラボできるのも面白いかなと。風鈴文化が根付いている地域や伝統工芸があるところとタッグを組んだらハード面でも幅が広がる気がします。最終的には海外のブランドやデザイナーともコラボできたら嬉しいですね。
狩野:現状のシチュエーションとしては、窓の外の風景や自然に近い音を起こすのがメインじゃないですか。もっと開発が進んできたら、他のシチュエーションを考えてみてもいいのかなと思っています。例えば、1人暮らしの人で家庭音が欲しい人向けに、母親が料理をしている音とか話し声を取り入れるみたいな。菊池さんがおっしゃったように、これらの音を自分で拾って『RIND.』に取り入れるっていうのもありですよね。
北村:僕は、今後の展望として光がいじれるようになったら面白いなと思います。例えば、風が弱くて風鈴の動きが小さいときは、音がリラックスするものに変わるのと同時に照明の光も落ちるみたいな感じです。自分の意識外にあるものに翻弄されるのを楽しむ余裕ができてきたら楽しいんじゃないかな?
でもそのためにも、どんどん作品を世に出している企業の方々と組みたいですね。狩野さんのアイディアにほれ込んで応援してくださる声やメーカー様の声が欲しいです。
構成=トヤカン