「良い公演は、ホールよりオープンスペースでこそ磨かれる」という仮説
「良い公演は、ホールよりオープンスペースでこそ磨かれる」というテーマは、クラシック音楽に限らず、あらゆる公演の本質に迫る問いかけだと思います。
良い公演を「観客を集められること」と定義したとき、その評価基準は、場所や環境によって変わります。ホールとオープンスペース、それぞれの場が持つ特性を紐解きながら、公演のあり方について考えてみました。
良い公演とは
色々なご意見があることは承知の上で、ここでは"主催者目線"で、集客力のある公演をが「良い公演」だと仮定してみます。ここで重要なのは「どうやって集客するのか」という点です。
ホールで行われるコンサートの場合、観客は事前にチケットを購入し、時間とお金を投資してその場にやって来ます。演奏そのものよりも、むしろ事前の告知や宣伝、口コミが鍵を握ります。SNSでの情報発信や過去の実績がどれだけ興味を引けるかが勝負とも言えます。
一方、オープンスペースでの演奏は、通りすがりの人たちの関心を引きつけ、足を止めてもらうことが重要です。その場での瞬間的なパフォーマンスがすべてです。予備知識のない聴衆に対し、たまたま耳に入る音楽だけで引きつけなければなりません。
同じ「集客」という目標でも、その過程や評価のされ方は大きく異なります。
ホールとオープンスペース、それぞれの特性
良い公演(集客数)という点では、ホールでの演奏は、「これまでの努力」が評価される場所です。ポイントは、公演そのものではないということです。事前に、どれだけ多くの人に認知され、興味を持っていただき、チケットを買っていただくか。それは、アーティストが元々持つ演奏技術やプログラムの内容はもちろん、マーケティング戦略やブランディングが大きな役割を果たします。
一方、オープンスペースでの演奏は、「その瞬間の公演(演奏、トークなど)」が評価される場所です。あるピアニストがオープンスペースで演奏したとします。その音楽が、ふらりと立ち寄った買い物客や散歩中の家族を足止めさせるなら、その瞬間の公演は成功と言えるでしょう。とはいえ、「キャッチー」な曲ばかりに頼るなど、聴衆に受け入れられるために演奏の内容が安易になりすぎると、パフォーマンスの本質が薄れてしまう可能性もあります。
みなとみらいピアノフェスティバルの試み
みなとみらいピアノフェスティバルでは、ホールとオープンスペースという異なる場を組み合わせることで、新しい形のクラシック音楽の集客に挑戦しています。
オープンスペースでは、パフォーマーの「好き」や「こだわり」を重視しています。もともと興味がなかった人の心に届く演奏は、熱意が伴ってこそ可能です。そこに偶然立ち寄った人々が、思いがけずクラシック音楽の世界へ足を踏み入れる――これが狙いです。
一方で、ホールの公演は、集客そのものが大きな目的です。来場者に事前の期待を抱かせるためには、マーケティング戦略やブランディングが欠かせません。「偶然の出会い」ではなく、計画された興味喚起が必要になるのです。
2つの手法、そして未来
クラシック音楽は、集客が難しい分野だと感じます。その中で、ホールとオープンスペースという対照的な場を活用することは、マーケティングとパフォーマンス評価という2つの異なる手法を試す実験のようでもあります。
現在はまだ手探りの段階ですが、この取り組みから得られる学び(計画的偶発性)は、クラシック音楽に限らず、他の分野にも応用できるものと信じています。
※ 画像は、みなとみらいピアノフェスティバル Day3. オープンスペース公演 第5部の様子です。