社会派エンタメにおもうこと
社会派エンタメが最近内容を攻めてきてるなと感じる。
攻めすぎじゃないか。
そこまで攻めるなら発信すると同時に
当事者・視聴者への配慮が必要じゃない?!というお話です。
前提:うつ持ちと希死念慮
普段からこのnoteを読んでくださる方は知ってくだっている内容かもしれませんが、初めて読んでくださる方もいるかもしれないので
私のメンタルヘルスの闘病歴を軽く説明します。
1年半前にうつ病と診断され、薬物療法とカウンセリングで治療をしています。幼少期の家庭環境と人間関係が根深く起因しているため、治療を継続している今も”急性期(病気の初期かつ重い症状)”から抜け出せずいます。
うつの症状の一つに希死念慮(きしねんりょ)があります。簡単にいうと「死にたい、この世から消えたい」と考えてしまうことです。
今回noteにあとで登場するので覚えていてね!
死にたいという声は患者自身(私)のものではありません。
うつによって引き起こされる脳が誤作動です。希死念慮からくる死にたいという気持ちは一時的とはいえ最中はかなり怖いです。
私は飛び降りで死ぬことをよく考えちゃうのですが、希死念慮が強いと気持ちを確かにしないと本当に行動に移してしまいそうで自分自身にヒヤヒヤします。人によっては自殺を行動に移してしまうこともあります。
Dear Evan Hansen Movie - 私は当事者だった。
映画を見てむせび泣いてしまった話
この映画は2017年にニューヨーク留学をする時期、ブロードウェイミュージカルとしてかなり話題になっていました。劇中歌はハートフルかつ、You will be foundといった強いメッセージが取り入れられた勇気を与えてくれるようなあたたかくて強い印象として私も知っていました。
ミュージカルの全体像としては「コミュニケーションが苦手な男の子がSNSを通じて大きな挑戦をする物語」です。2021年の映画版を見に行き、主人公のEvanはうつ病と社交不安障害(Social Anxiety)をもつ男の子だということがわかりました。私は両方の疾患を持っています。
上の写真は映画の冒頭で描かれた、自然に囲まれた感動とともに無邪気に森の中を走り回り、思わず木に登ってしまうEvanの様子です。
フラッシュバックを引き起こした危険な描写
わたしがこの映画を見てあまりにもショックだったのは、冒頭のシーンで木から落ちて腕を骨折したシーンは好奇心で森を走り回っていたのではなく、自死を選んで自らの意思で飛び降りたと彼が自白したことです。
脚本家Steven Levensonは何年もの製作期間を費やしてメンタルヘルスの参考文献と当事者へのインタビューを行い、この作品は多くの人にメンタルヘルスについてよく知るきっかけとなるような出来上がりになりました。それ故に主人公と全く同じ病気を持つ身としてはあまりにリアルな描写に苦しくなり、文字通り涙に溺れるんじゃないかレベルで泣きました。
なぜなら繊細で優しい彼が「木から飛び降りるときに死のうとしていた」と自白する展開がすごくサッパリしていたからです。うつってこんなに軽いっけ?とショックを受けると同時に、私ももう一歩勇気を出せば死ねるかもしれないと考えてしまいました。
後でも書きますが、製作陣はDear Evan Hansenを単にセンセーショナルなお話にしないように注意して描いたそうです。それが自死を重たくならないように描いた背景だと思います。
個人的な解釈が行きすぎてるのではないか、とよく考えたのですが、映画を見て当事者としてネガティブな感情を抱いたことは事実です。
リアルを描くエンタメ製作者がもつ責任
Dear Evan Hansenでは結末で家族の問題や人間関係の問題をハッピーエンドでまとめられ、エンディングで突き放された感覚を覚えました。
アメリカの批評サイトによると、脚本家をはじめ製作陣は「うつの患者の物語をロマンティックで感傷的にさせない責任」を持っていたと書いています。実際に映画を見てメンタルヘルスへの傾倒とエンターテイメント性のバランスに驚きました。
でも限界ってあると思うんです。
この作品ではメンタルヘルス描写への熱い情熱・豊富な知識とハッピーエンドのミスマッチが起きていた気がしてなりません。8割知識で固められて、最後の2割を感情で丸め込んだ無理矢理感さえありました。エンターテイメントは作品として完成させることが求められ、現実をリアルに描写することよりも完成度が優先される世界だからかもしれません。
だからこそ、社会課題をエンタメに落とし込むには当事者への十分な配慮が必要だと私は思います。
13 Reasons Why - 付け加えられた警告
NETFLIXオリジナル作品として大々的に展開された13 Reasons Why(13の理由)は性暴力やドラッグなど若者を取り巻く問題が題材となっています。アプリ上で再生しようとすると以下の警告が出るようにプログラムされています。
2017年に公開された13 Reasons Why Season1では、主人公が13個の理由をカセットテープに録音した後、バスタブの中で手首を切り自殺をします。このシーンは画面越しに主人公の気持ちに飲み込まれそうになるような、感傷的で雰囲気のある映像でした。
ある研究ではSeason1が公開された3月以降、アメリカの10歳〜17歳の自殺が28.9%増加したと発表されています。この研究以外にも自殺率の増加がドラマと直接関係しているか否かが多く議論され、結論は出ていないようです。しかしNETFLIXは公開翌々年の2019年に自殺シーンを削除するとともに、各エピソードの冒頭に以下のメッセージを追加する対応をとりました。
社会派エンタメの新しいルールを
私はDear Evan Hansenにもこのような警告を出し、作品内で取り上げる問題に今その時に苦しむ当事者への配慮が必要だったと思います。
具体的には「このコンテンツには自死を含む表現が含まれます」と最初に示してほしかったのです。Connerの自死が冒頭に出てきたので、最初にこのアナウンスをしてもEvanの木登りシーンのネタバレにはつながらなかったはずです。
自分ごととする当事者を忘れずに
このnoteを書いたきっかけがあります。地上波で放送されているドラマ「となりのチカラ」の次回予告で飛び降り自殺未遂のように見える映像が流れ、いつもの飛び降りたくなる希死念慮がフラッシュバックしたからです。その映像をみた瞬間にメンタルが下がり鬱が来て、何時間も苦しくなったことには自ら驚きました。
社会問題を取り扱うリアリティー系作品が最近流行り的に増えていますが、それは知らない世界を知れる好奇心をくすぶることは一要因として大きいのではないでしょうか?
しかし、社会問題には当事者がつきものです。自分の隣にいる人が同じ作品をみて苦しい思いをしているかもしれません。わたしの周りでもDear Evan Hansenが好きな人が多いためこういうnoteを出すか迷いましたが、だからこそ一人でも多くの人に私のようなケースを伝えたくてnoteにしました。
小さくても声を上げることを諦めたくないです。
- End -