9mmのボーカリストが卓郎である理由4つ
皆さんは、菅原卓郎なるボーカリストを知っていますか。ロックバンド、9mm Parabellum Bullet(以下9mm)のボーカリスト兼ギタリストです。9mmメンバーの中では、身長が高く、天然パーマが目立つ見た目です。バンドでは、ギターを弾きながら歌い、9mmの楽曲の作詞を手がけています。ファンからは「卓郎」と呼ばれています。ソロとしての活動もしています。
まっすぐと妖しい独特な歌声を持ちます。彼の歌詞は、架空の世界を舞台に、幻想を描いたものが多いです。共感を求める内容は一切ありません。
そんな幻想的な世界観がある卓郎ですが、9mmが現れた当時のリスナーからの感想は、微妙な意見ばかりです。歌詞に対して、「共感が少なくて冷たい」と突っこまれました。そして、周りによく言われたのはこれです。
「下手で、好きになれない歌声」
初期の9mmは、卓郎が粗い歌声で、少年のような青いフレーズで、上手いとは言えないような感じです。次第に声の方向が安定して、上達していきます。ブリは、9mmのアルバムを聞いてきて、卓郎が試行錯誤して、歌声を磨いてきた様子が楽曲から見えるように思います。彼本人は、「好き嫌い分かれる歌声」だと語っていました。ブリは好きです。なぜなら不思議とかっこいいと思ったからです。そして、ブリが周りから言われて、一番驚いたある発言が、この記事を書く動機になりました。
「彼をボーカリストにしたリーダーが悪い。もっと良い歌声の人がいたはずだ」と。
9mmのリーダーは、ドラマーのかみじょうちひろです。ちひろが9mmなるバンドを結成し、バンド名を考えました。ちひろは、同じ大学に通う卓郎と滝善充、後輩の中村和彦を、音楽サークルで結成した9mmに誘いました。滝はギタリスト、和彦はベーシストになりました。
卓郎は高校時代、ロックバンドに憧れていました。バンドを組んでみたい夢を持ちながら、大学に行きました。そこで偶然、バンド活動をしていたちひろに会いました。ちひろは卓郎を気に入り、彼をボーカリストにしました。
もし、ちひろが卓郎ではなく、別の人をボーカリストに選んでいたら、どうなっていたでしょう。ここでは、9mmのボーカリストは、卓郎である理由を4つにまとめました。リーダーであるちひろの決断は、全く悪くないと分析します。
★歌声が個性的だから
卓郎の歌声は、独特なフレーズがあります。声区をあまり変えずに、芯のある中音域でまっすぐ歌います。しゃくりやビブラート、ロングトーンはなく、フレーズにこぶしを入れます。歌詞を語る、邦楽ロックの響きに特化した歌声です。C(ド)からF(ファ)あたりの音域で歌います。
ちひろが卓郎をボーカリストに選んだ理由は、「声質に惹かれたから」と語りました。ちひろはロックバンドに興味あって、大学の音楽サークルで、バンドをいくつか組んでいました。その中で結成されたのが9mmです。実は、ちひろは9mmを結成する前に、独学でボーカリスト兼ギタリストをしていました。しかし、ちひろは自分に歌の才能がないことに気づきました。後にドラムの魅力に吸いこまれて、ドラマーになりました。
卓郎は、子供時代から歌うことが好きです。中学時代にギターを弾き始め、曲をコピーしていくうちに、ロックに興味を持つようになりました。卓郎は「いろんな音楽が好きだけど、ロックで得られるものは違う。自分に向いているのはロックだ」と語りました。
ちひろは、音楽サークルに入った卓郎を9mmに誘いました。ある日、バンドオーディションで「ボーカリストが弱い」と指摘されました。活動していくなかで、ちひろは、9mmで卓郎が重要な存在だと気づきました。ちひろが表現したいバンドの方向性が、卓郎からきっかけになりました。滝も和彦も団結しました。後に卓郎は、さらなる歌声の向上に努めました。
歌声は上手いだけではうまくいきません。バンドだとメンバーの関係と相性が大事になります。歌声はスキルが全てではなく、あらゆる個性が必要になります。
★見た目が強いから
初めて9mmの写真を見た人から、卓郎の顔を見て、「すごく怖そう」と言われることが多いです。目力が強い顔をしているのが特徴です。ブリは、記憶に残る顔で良いと思います。彼の象徴である、天然パーマは本当にかっこいいです。彼本人は、多くの人からアフロだと勘違いされていました。歌う時に怖そうな顔をしていますが、普段の彼はのほほんとした雰囲気です。
歌声や世界観が良くても、外見が微妙だとつまらないです。9mmが現れた頃の邦楽ロックバンドたちは、メンバーがショートヘアー、ボブの髪型の人が多く、どれも似た人ばかりで、ブリは全く覚えられなかったです。そこらの人と変わらない外見では、音楽を聞く前に、興味をなくします。アーティストで大切なのは、音楽だけではありません。どの世界でも外見の印象は大切です。
★人柄が良いから
9mmメンバーのインタビュー記事、取材映像やコメンタリーを見ると、卓郎はもしかすると、人柄が良さそうだと思いました。9mmメンバーの雰囲気を穏やかにしたり、他バンドのメンバーの様子を気にかけたり、優しさを持っているように思います。時々、天然な発言をして、おもしろいところがあります。和彦いわく「おっちょこちょいなところがある」と。
歌声と外見が良くても、人柄が良くないと、バンドはうまくいきません。優しそうでも、状況によって、不親切な面を見せる人もいます。音楽の世界は、音楽好きでいるだけではいられません。人間関係が活動を左右します。バンドメンバーは、相性が良い人を探すために大変な労力がかかります。
実は、9mmに最後に入ったメンバーは和彦です。ちひろは後輩の和彦を気に入り、バンドに誘いました。演奏して、シャウトを発する和彦が良さそうと思いました。卓郎は和彦と話して、和彦はバンド加入を決めました。和彦は楽曲で、シャウトを発するところがあります。
9mm結成の頃、バンドメンバーがお互いにもめた時期がありました。そんな時はちひろが鎮火させました。滝は、メンバーとぶつかり合うことがありました。そんな時に卓郎は滝と一緒にいたら、落ち着きました。卓郎は相手と話す、バンドの入口になりました。卓郎がいなかったら、和彦や滝はバンドにいなかったかもしれません。ちひろは卓郎の良さに気づいたと思いました。優しさで人をつなぐ話だと気づきました。
★歌詞の世界観がバンドと合うから
卓郎は、読書が好きです。好きな作家は、村上春樹、太宰治です。彼の読書好きは、9mmの歌詞に現れています。いろんな作品をもとに、無慈悲で、幻想的な世界観を表現したものになっています。もちろん邦楽ロックも好きです。彼が尊敬しているバンド、BLANKEY JET CITY、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTから影響を受けています。時々、彼らのオマージュを出した歌詞もあります。
聞く人によって、何かの比喩になるような歌詞があります。主に人間が抱える、「孤独」を描いた内容が大半を占めます。人間、命、愛、夢、自然、それらの中にある孤独を描き、ロックの轟音に乗せて歌います。リスナーにメッセージを与えたり、共感を求めるような内容は一切ありません。歌詞内に、固有名詞も、俗語も、出ません。無慈悲な世界観が、9mmのカオスなロックと合うのです。
もし、卓郎がボーカリストでなかったら、9mmは全く違う雰囲気になっていたと思います。良いメンバーがそろっても、何をするバンドか、リスナーに示さなくていけません。ちひろは9mmについて、「速い、暗い、日本語」が特徴のバンドだと語っていました。早弾き奏法と、マイナーコードあふれる作風がある滝と、邦楽ロックに影響された卓郎が、9mmの世界観を作っています。
以上、9mmのボーカリストが卓郎である理由4つでした。ちなみに、卓郎は9mmなるバンド名に対して、ちょっと迷っていました。9mmに入り、活動を振り返っていた卓郎は、「9にまつわる人生になるとは思わなかった」と語りました。卓郎の誕生日は7月19日。卓郎が生まれた山形の郵便番号は990から始まったりと、9がつく偶然が生まれました。2009年9月9日に初めての武道館ライブをしたり、9月9日を「9mmの日」と呼んだり、結成9周年になるとお祝いライブをしたり、アルバムの9曲目にこだわったりと、「9」にとにかくこだわるバンドです。
もし、ちひろが彼を選ばなかったら、バンドに憧れる彼の名が知られず、滝と和彦はバンドに入らなかったでしょう。卓郎の邦楽ロック愛から始まり、彼の人柄が9mmを結びました。