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35年前のチャゲアスのプライドを聞いて思ったこと〜時代を越える音楽

皆さんは、邦楽ポップスデュオCHAGE and ASKA(以下チャゲアス)のアルバム表題曲で、印象に残っている題名は何ですか。チャゲアスのアルバムで、表題曲があるのは21枚中、16枚です。彼らがヒットしたアルバムでは、必ず表題曲が収録されています。チャゲアスファンの間で、最も知られている表題曲があります。

今回は、以前紹介した『ENERGY』の次のアルバムを挙げます。1989年8月25日に発売された、12枚目のアルバム『PRIDE』(プライド)です。こちらも表題曲が入っています。収録シングル曲は、『LOVE SONG』『WALK』です。これらはチャゲアスの代表曲です。ジャケットには、卵からかえる青い鳥が、もうすぐ羽ばたくイラストが描かれています。

CHAGE and ASKA『PRIDE』(1989年)

『PRIDE』は、2024年で発売35周年を迎えました。8月25日といえば、チャゲアスのデビュー記念日です。チャゲアスファンにとって、大切な日として知られています。このアルバムが発売された当時のチャゲアスは、デビュー10年目のアーティストとして、キャリアを積み重ねていました。一方で、CHAGE(以下チャゲちゃん)とASKA(以下あすちゃん)の想いに、変化が起きていました。

このアルバムは、チャゲアスファンから人気の高い作品です。以下のように、良い感想が語られています。

「表題曲は励まされて、勇気づけられる」
「アルバムの流れが素晴らしい」
「J-POPの名盤」
「チャゲアスファンは絶対聞くべきアルバム」

アルバムについてチャゲアスファンからの反応

このアルバムは、1990年代のチャゲアスが好きな人にとって、作風に大きな違いはないので、おなじみのチャゲアスを楽しむことができます。

「J-POPの名盤」と呼ばれたこのアルバムは、邦楽界でチャゲアスの存在が目立ってきて、彼らがようやくヒットしてきた名盤になりました。この記事では、ブリが『PRIDE』を100周聞いて、思ったことをまとめました。歌詞は、あくまでもブリの独自解釈なので、一つの例として読んでください。歌謡曲からJ-POPが誕生した時代で、彼らが歌ったプライドと挑戦心を感じました。



I. J-POPの誕生

1980年代後半の邦楽界は、新たな変化が起きました。1970年代に栄えたニューミュージックが衰退して、1980年代には歌謡曲が終わりに近づいていました。ソロアイドルのブームは、まだ続いていました。
「歌謡曲」「ニューミュージック」と呼ばれた邦楽は、日本国内外で輸出され、世界の音楽に影響されて、多彩な文化に進歩して、「J-POP」と呼ばれるようになりました。「J-POP」はラジオ局のJ-WAVEが呼び始めて、広まったジャンル名です。リズム重視の作風、複雑になったメロディー進行、アルファベットの曲名や歌詞が増えた作風が特徴です。ブリたちが聞く、邦楽ポップス全体をそう呼んでいます。
1980年代後半には、バンドブームが起きました。ブリの2000年代の推しバンドたちに影響を与えた、偉大な邦楽ロックバンドたちが名を上げてきました。バンドブームは、アイドルたちを押して、盛り上がりました。
一方で、後に1990年代に活躍するB'z、DREAMS COME TRUE(ドリカム)、電気グルーヴなどのアーティストたちが、この頃に結成、デビューしました。彼らはブリにとって、偉大な推しデュオたちです。後に、J-POP黄金期に活躍するアーティストたちが育っていました。

(ニューミュージック、邦楽ポップスの変化についてはこちらのアルバム記事で簡単に説明したので、どうぞ)

音楽の聞き方に重大な変化が起きました。アナログレコードの需要が減り、音楽CD(コンパクトディスク)が普及し始めました。レコードより耐久性と音質が向上し、小型化した音楽媒体が広がってきました。CDコンポ、CDの携帯プレイヤーがじょじょに普及しました。

1989年の邦楽界の様子図

1989年は、日本社会にとって、大きな変化があった年でした。63年間続いた元号「昭和」が終わりを告げました。その年から新しい元号「平成」が始まりました。ここからブリの世代が生まれてきました。邦楽ファンは新しい時代に期待と不安を持ちながら、音楽に注目していました。
新たな時代が始まったばかりのなか、チャゲアスは精力的に音楽活動に努めていました。


II. 10年目の変化

デビュー10年目を迎えたチャゲアスは、幅広いジャンルの楽曲への展開、他アーティストへの楽曲提供を通して、キャリアを積み重ねていました。一方で、デュオの知名度が上がりそうで上がらない状況が続いていました。バンドブームやアイドルブームに押されて、地味な存在に思われていました。でも、ライブコンサートの動員数は伸びていました。他アーティストへの提供曲で、アイドルグループの光GENJIの代表曲『パラダイス銀河』のヒットから、彼らの音楽は少しずつ評価されていました。

1979年のデビュー当時、フォーク青年だった彼らは、サングラスと帽子、スーツを着て、大人の雰囲気へ変わりました。歌声も成熟した個性になりました。次第に、チャゲちゃんとあすちゃんは、デュオとは違う、それぞれの音楽性に集中したい挑戦心が芽生えました。
あすちゃんは、1987年にソロ活動を始めました。音楽活動の他に、俳優活動に挑戦したことがありました。他アーティストへの楽曲提供、海外アーティストとの交流から、彼はアーティストのイメージを変えたいと思っていました。それはチャゲアス自身、彼自身にとって、音楽性の向上を目指していました。
(ソロ名義のあすちゃんについては、別記事へどうぞ)

続いてチャゲちゃんは、1984年のデュエット曲『ふたりの愛ランド』以来の別名義の活動を始めました。自分のルーツであるロックを奏でるバンド、MULTI MAX(マルチマックス、以下MM)を結成しました。MMはチャゲちゃん、チャゲアスのバックバンドの一員だったギタリストの村上啓介(むらかみけいすけ)、チャゲちゃんがスカウトしたボーカリストの浅井ひろみ、3人組で結成されました。1年だけの活動を予定していたMMは、1997年までチャゲアスと並行して、活動しました。
(MMでのチャゲちゃんについては、別記事へどうぞ)

チャゲアス各名義の活動図

チャゲちゃん、あすちゃんが別名義で活動する様子が目立って、一部のメディアでは彼らはデュオを解散させるのでは、と噂が立ちました。その噂はさらに広まり、まるで解散キャンペーンが起きていると騒がれました。彼らはデビュー10年目のライブコンサートで、最後のライブではなく、解散しないと語りました。この解散騒動は、彼らの知名度を上げるきっかけになってしまいました。

騒動で注目されて、知名度が上がってきたチャゲアスは、新しいアルバムの制作を進めていました。今までの彼らとは違う、多彩な楽曲が詰めこまれました。デビュー10年目の想いをこめた楽曲が生まれました。


III. 響かせるプライド

表題曲『PRIDE』は、人生での挫折や自信を歌ったオーケストラバラード曲です。ピアノのイントロから始まり、ギターと弦楽器が重なり、壮大感を広げます。
歌詞の主人公は、恋人との別れに落ちこみ、自分の心に問いかけます。「思うようにはいかないもんだな」という言葉から始まり、主人公は交差する感情のなか、救済の光を受けます。まるでマリア像の優しさのような朝の光から、自分自身の葛藤や周りの困難に負けずに奮い立たせます。どんなことがあっても、努力と前向きな想いを持ちながら、くじけない「プライド」を持ち、立ち上がるのです。
一人の人間のドラマを壮大に描いた、独特な歌詞をチャゲアスの歌声とハーモニーで響かせました。老若男女問わず共感する歌詞です。

この楽曲は、アルバム制作前から作られていました。でも、あすちゃんは歌詞に迷っていました。『PRIDE』という曲名について、こう語っていました。チャゲアスの活動記録本のスタッフの話から、この言葉が印象に残り、楽曲と重なりました。音楽雑誌のインタビューから、あすちゃんが剣道の構えの「大上段」(だいじょうだん)に例えるのが、剣士である彼らしいところです。

単行本(チャゲアス活動記録本)のスタッフから、「ふたりをインタビューしていると、よく“プライド”という言葉が出てくる。本のタイトルはこれでいきたい」という申し出があって。そのときにこの曲を思い出して、プライドという言葉が曲と瞬間に結びついたんだ。一歩間違うと大上段(だいじょうだん)に思われるテーマだけれど、とてもポップに仕上がったと思う。

ASKA、ヤマハ『ミュージックシティ』1989年9月号より

チャゲちゃんも、あすちゃんも、音楽活動の道でさまざまなことがありました。フォーク作風から始まり、幅広い音楽ジャンルを広げて、多くの人々に音楽が届いてほしいと、歌い続けました。周りから売れない、良くないと言われても、音楽にこめた挑戦心とプライドを持ち続けました。
ブリたちは、音楽の世界にいるチャゲアスとは事情が違いますが、仕事や生活で、困難や自分自身に負けない気持ちに共感します。

チャゲアスの活動記録本『10年の複雑 PRIDE』
(1992年上下巻)
作詞家の石原信一が、1980年代のチャゲアスの活動を
メンバーやスタッフに取材したインタビュー。
本の題名に楽曲名『PRIDE』が使われた。


IV. 君へのLOVE SONG

収録シングル曲『LOVE SONG』は、歌を奏でる主人公が、本当の音楽を伝えたいと、愛の言葉に乗せたポップス楽曲です。盛り上がるバンドブームの中で発売されたこのシングル曲は、勢いまかせの安い音楽に対する考えと、純粋な愛情を伝える歌詞をつづっています。チャゲアスファンに向けたようなメッセージとして見える、彼らの代表曲です。

ASKA、歌詞カードでの写真

カップリング曲『Break an egg』は、立体音響を扱った音作りになっています。夢や人生に生きる人間の生き方を羽ばたく鳥に重ねて、命の生まれ変わりを考えさせられる楽曲です。チャゲちゃんはもともと2曲で作っていたものを1曲にしました。ギターと重ねた、ドラムとシンセサイザーが心地いいです。

リズミカルな楽曲が満載です。終始カタガナの歌詞で、テンションが上がる様子を描いたサイケなギターロック『SHINING DANCE』(シャイニング・ダンス)。ノイズ加工されたチャゲちゃん、あすちゃんの声がおもしろいです。アウトロにはアルバムの楽曲の一部、DISC2の再録された名曲の一部がかすかに流れています。
ホテルの部屋で情熱的な営みに浸る、秘密の恋を描いた、ジャズ風ポップスダンス曲『HOTEL』。韻を踏んだ歌詞が散りばめられています。燃えるような愛と刺激的な交わりを求め合う恋人たちを歌った、ツイストなギターロック曲『絶対的関係』。ロマンチックで、色情が描いた作品が濃いです。その一面が、チャゲアスの芸術性を感じるところです。まるで感情を解放させるように、ブリを誘います。過激な言葉はありませんので、ご安心ください。

チャゲちゃんだけが歌い、夜に失恋で悲しみにくれる女性の姿を歌った、スローテンポなレゲエ『さよならは踊る』。子育てに奔走する親と、子供のむじゃきな表情を歌い、可愛らしいメロディーで奏でた、『Don't Cry, Don't Touch』。恋愛曲だけではなく、多彩な主人公とストーリーを描いたテーマがあります。
夢や恋に迷い、思いっきり素直に変わりたいと願い、砂時計の動きに重ねた表現を歌う、ピアノのミドルバラード曲『砂時計のくびれた場所』。不器用ながらも、愛情を伝えたくて、付き合う恋人の様子を歌ったポップス楽曲『天気予報の恋人』。愛情は天気予報のように、心を左右するものと思います。
チャゲちゃんの優しい歌声と、あすちゃんのコーラスで、甘い夜のひとときに優しい言葉を歌うスローバラード曲『流れ星のゆくえ』。うっとりするチャゲアスの歌声に、リスナーは浸ってしまうでしょう。

CHAGE、歌詞カードでの写真

アルバム最後の曲である、シングル曲『WALK』は、6分もあるポップスバラード曲です。せっかちなリスナーは飛ばさずに聞いてみてください。底から浮き上がるシンセサイザーの長いイントロから始まり、大切な人を想い、相手と未来を生きたいと願う、重厚感ある大作となりました。一歩ずつ進むようなテンポのシンセサイザーのメロディーが心地いいです。歌詞の主人公は、弱さがあっても、大切な人を守ることで強くなれると描かれています。曲の後半でコーラスが入り、チャゲアスの歌声が広く響きます。

そして、アルバム本編はここで結ばれます。


V. 生まれ変わった名曲

このアルバムは、チャゲアス史上、最も収録曲が多いものになりました。CD2枚組になったアルバムは、DISC1がアルバム本編、DISC2が過去の名曲を再録したものになっています。新曲と再録、新しく変わったチャゲアスを楽しめる内容です。

DISC2は、1980年代前半のチャゲアスの名曲が再録されました。
1984年のシングル曲『MOON LIGHT BLUES』、1981年のアルバム曲『嘘』、1980年のアルバム曲『終章(エピローグ)』、1982年のシングル曲『熱い想い』、これらが新たに生まれ変わりました。

再録された名曲を聞いて思ったのは、チャゲちゃん、あすちゃんの歌声が豊かな表現と美しさに変わったところです。当時の『終章』を歌うチャゲちゃんと、再録のほうと比べると、当時のほうは地声が目立つ発声でした。再録は、甘くつややかで、ハイトーンが美しくなりました。
『MOON LIGHT BLUES』は、発売当時と再録を比べると、発売当時はまっすぐ歌うあすちゃんですが、どこか歌い慣れないような雰囲気でした。再録では、あすちゃんの粘っこい歌声と、力強い声量が豊かで、声の表現が甘く色っぽさがあります。
ついにここからブリたちが知る、明るいハイトーンのチャゲちゃん、ネットリと力強く歌うあすちゃんが現れてきました。


VI. 羽ばたく鳥の逸話

『PRIDE』のジャケットに描かれた、卵からかえる鳥のイラストは、デザイナーの西本和民(にしもとかずたみ)さんが描きました。鳥は、メンバーである「飛鳥涼」に引っかけたデザインではありません。彼は、1980年代後半のチャゲアスの「C and A」ロゴマークも、手がけました。立体的なオブジェクトの配置、グラデーション模様が彼のデザインの特徴です。彼はチャゲアスの音楽からイメージしたジャケットを作り、彼らの作品を象徴するものになりました。
西本さんは、チャゲアスの他に、MULTI MAX、B'z、THE ALFEEのジャケットを手がけました。彼は邦楽界を彩ったデザイナーとして知られました。

西本和民が描いた
1980年代後半のチャゲアス
「C and A」のロゴマーク。


VII. 後に使われた名曲

アルバムの収録曲『天気予報の恋人』は、チャゲアスファンの間で人気の曲です。実は、発売から11年後の2000年、テレビドラマの題名に使われました。彼らの楽曲の一部が、挿入歌として使われました。
ちなみにドラマ主題歌は、人気の歌姫である、浜崎あゆみの代表曲『SEASONS』です。ブリは、あゆが大好きで、このドラマを知っていました。ドラマの題名がチャゲアスの曲だったと、気づくまで時間がかかりました。あと、あゆもチャゲアスと同じ、福岡出身のアーティストです。

テレビドラマ『天気予報の恋人』(2000年)
気象予報官の男性と訳ありな女性との恋愛を
描いたドラマ。


VIII. 初めてのCD媒体

『PRIDE』はチャゲアス史上、アナログレコード盤からCDへ初めて発売されたアルバムでした。CD2枚組で発売され、DISC1はアルバム本編、DISC2は再録された名曲で収録されました。さらに、アルバムのケースには写真集が付いて、豪華なパッケージになりました。新しい媒体として発売されたアルバムは、CDの普及とともにヒットしました。
CDとして発売されてから、彼らのアルバムの収録時間が増加してきました。音楽媒体の情報量が増加したことで、彼らが表現したいものが少しずつ増しました。彼らは別名義の活動と並行して、デュオとして、1990年代に多くのヒット記録を作り、J-POPの先駆者として知られていきます。

チャゲアス『PRIDE』のCDパッケージ初盤。
CD2枚、写真集が付属した内容。


IX. まとめるとJ-POPを示した名盤

以上、チャゲアスのアルバム『PRIDE』を聞いて、思ったこと、気づいたことをまとめました。簡単にこのアルバムについて説明すると、「チャゲアスがJ-POPなるジャンルを表した自信作」ということです。J-POPの始まりを感じる、邦楽史で重要な作品だと思います。

デビュー10年目のチャゲアスの挑戦心と、音楽にこめた情熱を感じる楽曲がつまっています。時代や状況が違っても、誰にでもある困難や挫折に寄り添うメッセージが伝わります。守りたい夢とプライドを歌った楽曲は、今も多くのアーティストや邦楽ファンに愛されています。

ブリはチャゲアスに対して、「偉大な推しデュオ」と思いますが、決して万能の存在とは考えません。ブリと同じように悩み、苦しんだ時があったと、今までの出来事から気づきました。悩みや苦しみを知ってきた人間だから、音楽を通じて、ブリたちを励まし、癒やす力を強く感じるのです。音楽の力は、自分自身の成長へつながるのです。

誰も知らない 涙の跡
抱きしめそこねた 恋や夢や

思い上がりと 笑われても
譲れないものがある
プライド

CHAGE and ASKA『PRIDE』(1989年)

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