見出し画像

9mmで最も長い曲を聞いて思ったこと~人生の意味はすぐ明かされない

皆さんは邦楽ロックバンド、9mm Parabellum Bullet(以下9mm)の楽曲で、短い曲と長い曲、どちらが好きですか。短い曲は2~3分程度、長い曲は4分程度の時間です。メロディーの起承転結がはっきりして、だらだらした時間構成にしたがらない、ロックバンドの作風ゆえに、平均2~3分の楽曲が多いです。

9mmの楽曲で、現時点で最も短い楽曲は、2010年のアルバム曲である、49秒の『Lovecall From The World』です。一方で、最も長い楽曲があります。それは5分21秒になる、アルバム曲の『Faust』(ファウスト)です。
これは、以前に紹介した2008年のアルバム『VAMPIRE』の1曲です。この楽曲を初めて聞いた時は、とにかく長くて、アルバムの途中でだらだらした雰囲気で、異質な作品に感じました。でも、歌詞をじっくり読むと、有名な戯曲を引用しながら、人生という旅の答えを語る、深いテーマに感じました。

この記事では、9mmで最も長い楽曲『Faust』について、たっぷり考えたことをまとめました。初めて1曲のみに注目した記事です。人生で大事な答えについて、つづりました。
9mmのメンバーは以下、ボーカリストの卓郎、ギタリストの滝、ベーシストの和彦、ドラマーのちひろと呼びます。



★朝まで響く悪魔のもとは

『Faust』は、ドイツの戯曲『ファウスト』を扱った、ロックバラード楽曲です。戯曲『ファウスト』は、ドイツを代表する、詩人ゲーテの代表作です。悪魔と契約した錬金術師の壮大な悲劇を描いたストーリーです。人間を見下す悪魔は、現世にいる錬金術師と契約して、その人間を悪の道へ誘いこもうとします。錬金術師は、楽しいこと、悲しいことを味わう契約を悪魔と交わしました。彼女との恋と死別、憎しみによる殺人を体験して、とてつもない悲劇となりました。錬金術師はその後、国の皇帝のもとで、献身的に、国家の経済政策に取り組んで、成功します。そして、錬金術師は悪魔とともにギリシャ神話の世界へ向かい、女神と恋に落ちますが、生まれた子供の死に悲しみます。
最後は、錬金術師は死んだ時に、幸せを望みます。死んだ彼女の祈りで魂が救われます。人間を悪の道へ行かせようとした、悪魔との契約は破られたのです。

以上が戯曲『ファウスト』のあらすじです。9mmの楽曲『Faust』は、有名な戯曲をもとに、人間の本能と生きる意味を問う主人公を描いた、ロックバラードです。

9mmの歌詞は、時々いろんな古典的作品、小説を引用した曲名や歌詞が登場します。作品をもとに、暗くて、人間の闇や悲しみを描いています。9mmの作詞を担当する、ボーカリストの卓郎は、読書好きで、そのような作風になっています。
この『Faust』の作詞は、卓郎と、ドラマーのちひろとともに書きました。作曲は、ギタリストの滝と、同じくギターを演奏する卓郎が担当しました。9mmで初めて、ちひろが作詞に関わった楽曲です。同じアルバムに収録された『Trigger』も卓郎との作詞です。

不特定の対象を中心に、独特な比喩を描く卓郎の歌詞と比べて、ちひろの作詞は分かりやすいです。架空の世界のなかで生きる人間の感情を描いた内容が多いです。この『Faust』は、まだ分かりやすい歌詞に見えます。


★図り切れない人生の長さ

日傘さして歩く一万マイル
風も理由もなく落ちたリンゴ

9mm Parabellum Bullet『Faust』(2008年)

歌詞の主人公は、人生で迷う様子でいます。時々、心に潜む悪魔が現れて、それはずっと主人公に悪の道へ誘おうとしています。
「1万マイル」は、ブリたちがよく使う距離の単位、キロメートルに直すと、1万6093キロメートルです。東京から地球を1周して、東京に戻れます。とんでもない距離です。国外では、日本から南米まで行ける距離です。飛行機で南米へ向かおうとしても、途中でアメリカの空港を経由していかないと、行けません。飛行機で南米までは1~2日はかかります。
この曲では物理的な距離を示しているわけではなく、「とにかく長い道のり」を示した比喩表現なので、具体的に考えなくていいです。

邦楽界のヒット曲を振り返ると、「本」「写真」「映画」「音楽」などに表した、人生を描いた名曲が多いです。何冊分の本、キロメートルのフィルム、音符の数など、単純に壮大さを出した表現があります。9mmの場合、地球1周分の距離を出して、「とにかく長い道のり」と示した歌詞がおもしろいです。

しかし、人生の長さは全員同じ距離ではなく、運悪く短いところで途絶えてしまった人々がいます。「死」という限りがあっても、それはいつ来るのか、不安や恐怖が常にあります。
「落ちたリンゴ」は、人生で起きる偶然を表しています。物事は時に変わったり、ひょんな偶然が起きて、転機、困難が待ち受けます。自分が望んだわけではなく、分からないものなのです。


★人生の意味は

構わないよ 変わらないよ
どっちにしても
同じぐらい苦しいものさ
構わないよ 変わらないよ
どっちにしても
おれは歩き続けるから

雨上がりの空と土の匂い
心の中響く 悪魔の声

9mm Parabellum Bullet『Faust』(2008年)

この辺りは、ドラムとギターの叩きつけるようなリズムに迫力があります。
どの道に行っても、悩み、苦しみは絶えずあると感じます。それでも選んだ道を生きないといけないと、歌詞の主人公は悟ります。人生は複数の選択肢がありますが、生きることは、一つの命で一つの道を歩いていくような感覚です。

主人公には、心の弱さにつけこんだ悪魔がひそんでいます。世の中には、良い話を出してだまそうとする人間がいます。または、「人生でうまく行く方法」とうたって、自己啓発を教える人がいます。しかし、人生には教科書はなく、自分で考えて、生きる方法を探し続けます。それは死ぬまで続くのです。
時にはうまくいかない自分が嫌になります。でも、自分や誰かを愛するのは、人間の喜びです。苦しみや悩みから、本当の自分を見つけ出して、心から自分を肯定できるようになります。最初から自分を愛せる人はいません。人生の道のりで、自分や誰かを理解して、肯定感と愛を持てるようになります。
人間は動物と違って、知性と感情があるゆえに、悩みや苦しみをともなう生き物なのです。

どれだけ歩き続けても
ここにいるただの自分が
抱きしめられない
抱きしめたいのに

9mm Parabellum Bullet『Faust』(2008年)


★生きる意味は誰にも分からないけど

どっちにしても
おれは探し続けるから
構わないよ 変わらないよ
どっちにしても
迷いながら生きるものさ

明かさないで 見つかるまで
明かさないで 答えはまだ

9mm Parabellum Bullet『Faust』(2008年)

ギターとベースとドラムの盛り上がりが激しく、歌声も叫ぶように、感情があふれていきます。歌詞の締めくくりは、結局答えが出ません。ここまで長く歌って、答えがないなんてムダな時間と思ったリスナーがいるでしょう。もし答えをはっきり出した歌詞だったら、それでは歌詞の深さが足りないでしょう。

9mmの歌詞は、基本的に何か考えや思想を主張をする内容が少ないです。メンバー自身の人生観、体験が現れたような歌詞がありますが、この楽曲の場合は戯曲をもとに、人生のストーリーを描いた内容です。

もし人生に「答え」がはっきりあって、その「答え」にそって生きて行こうと思っても、つまらないでしょう。予期せぬ出来事、偶然があって、人生は思い通りになりません。思い通りの人生計画になった人はそんなにいません。結局、さまざまな出来事の後の答え合わせから、「答え」が出ます。ゲームのように、最初からはっきりしたゴールはないのです。
人生は答えや未来がすぐに分からないから、生きる喜びが大きいのです。


★ついに最長記録を更新

9mmは『Faust』を制作した時、こんな冗談を語りました。

「4分超えたら、解散だ」と。この楽曲以前に、4分を超える楽曲はなかったからです。

『Faust』は、9mm史上最も長い楽曲でした。後に出たシングル曲『命ノゼンマイ』、『カモメ』も、5分にわたる楽曲として現れましたが、『Faust』を超えませんでした。
ところが、2024年に発表されたアルバム『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』では、『Faust』を超える長さの楽曲が出ました。5分28秒にわたる、『朝影 -The Future We Choose-』です。こちらが現時点で最も長い楽曲になりました。

ついに、9mmは16年ぶりに最も長い楽曲の記録を更新しました。もう出ないと思われた長い楽曲が、久しぶりに登場しました。冗談で言っていたバンドの解散は起きず、現在も活動を続けています。滝の身体的故障があって、卓郎たちは迷いながら考えましたが、滝は復帰して、音楽活動ができています。

次は『Lovecall From The World』が記録した、楽曲の最短記録を更新できるのか、今後の活動を楽しみにしています。


★まとめると人生は答えがすぐ見つからなくて当然

以上、9mmでかつて、最も長い楽曲『Faust』について、まとめました。
気になった1曲について、たっぷりつづっていくと、1曲のなかにこめた深い意味に気づきました。
多くのバンドたちは、音楽活動を始めたきっかけ、長い活動の歴史について、「昔から音楽が好きだった」「運命だった」「メンバーと出会えてよかった」と答える人がいます。実際にバンド活動をやったから、出てくる答えです。9mm自身も、最初から音楽活動をしていく未来は分かりません。結成から20年も活動して、同じメンバーとともにいるとは、想像できませんでした。バンド活動のなかで、多くの喜び、困難がありました。これからのバンド活動はどうなるか、メンバーも、ファンも分かりません。ブリたちは、「答え」を考えながら、生きものなのです。



いいなと思ったら応援しよう!