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21世紀の空想科学少年ポルノグラフィティを聞いて思ったこと

皆さんは、邦楽ロックバンド、ポルノグラフィティ(以下ポルノ)を知っていますか。
バンド名から、決して色っぽいものはありません。ポルノは、ボーカリストの岡野昭仁(おかのあきひと、以下昭仁)と、ギタリストの新藤晴一(しんどうはるいち、以下晴一)の2人組でなるバンドです。デュオではなく、バンドです。ポルノは、ロックを軸に、幅広いジャンルの楽曲を展開するバンドです。まっすぐ力強い昭仁の歌声、さまざまな感情と人物を描く晴一の作詞、2人の覚えやすい個性的な作曲が特徴です。

ポルノグラフィティ、2024年の写真
写真左から晴一、昭仁

バンド活動の初期は、ベーシストの白玉雅己(しらたままさみ)、当時のアーティスト表記「Tama」として(以下タマ)、3人組バンドとして活動していました。3人体制の頃はヒット曲を飛ばして、知名度を上げました。現在の昭仁と晴一によるポルノも、数々の代表曲とライブ活動を重ねています。

ポルノグラフィティ、3人体制の写真。
写真左から、晴一、昭仁、Tama

バンド名の由来は、晴一が好きなアメリカのロックバンド、エクストリームのアルバム名から借りました。晴一は「曲でもライヴでも、スリリングできわどい感じのものにしたい」というイメージで、このシュールなバンド名になりました。略称である「ポルノ」は多くの人々に知られて、邦楽界を代表するバンドになりました。名前が恥ずかしい時は「バンドのほう」と言ってください。

ポルノは2024年9月8日に、デビュー25周年を迎えました。25周年記念のオールタイムベストアルバムが発売されて、彼らの故郷である広島県の因島(いんのしま)でライブイベントが開催されました。
彼らがデビューした1999年9月8日は、世紀末の様子でした。邦楽界は1990年代のCD全盛期が落ち着いて、新しい時代へ変わる時でした。新しいアーティストたち、名曲が生まれていきました。ポルノもその1組でした。

今回は、ポルノが3人組だった頃のアルバムを紹介します。2001年2月28日に発売された『foo?』(フー)という、2枚目のアルバムです。薄桃色のタイルの壁に、小さくアルバム名があります。収録シングル曲は、『ミュージック・アワー』『サウダージ』『サボテン』の3曲です。これらはポルノの知名度が上がった代表曲です。これらの代表曲が収録されたアルバムは、CDのミリオンセラー記録を残しました。

ポルノグラフィティ『foo?』(2001年)

このアルバムは、ポルノを初めて聞く方にぜひおすすめしたい作品です。代表曲だけではなく、今に通じるメッセージ性、力強さと優しさを感じる良い楽曲が満載です。今のポルノを知る方には、ちょっと荒い昭仁の歌声、時代を感じる打ちこみが変だと思われますが、なじめる作風なので大丈夫です。

この記事では、ブリが『foo?』を100周聞いて、思ったことをまとめました。21世紀の邦楽界の勢い、若きポルノの人気上昇、代表曲の良さを振り返りました。歌詞の意味は、あくまでもブリの独自解釈なので、一つの例として読んでください。



ひ…21世紀のJ-POP

21世紀を迎えた邦楽界は、CD全盛期が落ち着いていきました。1990年代のCD全盛期で盛り上がった、ビーイングブームも、小室ブームも流行の変化で去っていきました。それらのブームで育った一部のアーティストたちは、変わる時代に乗って、活動を続けていました。
音楽の進歩によって、音楽のデジタル制作環境が普及しました。エレクトロニカな作風が流行して、アップテンポで、打ちこみ主流の楽曲が増えました。音楽のインターネット配信は今のように快適ではありませんでしたが、アーティストの活動を伝える手段として、インターネットは普及していました。

21世紀への期待と不安を持つ、邦楽ファンが過ごすなか、新しい音楽とアーティストたちが現れました。最も人気が高まったのは、「歌姫」への人気でした。特に注目されたのは、シンガーソングライターの宇多田ヒカル(うただひかる)です。宇多田は、デビュー当時からR&B(リズム&ブルース)を軸にした、リズム感ある音楽性でヒット曲を連発して、幅広い世代に注目されました。略称「ヒッキー」として呼ばれています。
一方で、独特な歌声とファッションを魅せる、シンガーソングライターの浜崎あゆみ(はまさきあゆみ)も、アップテンポ曲からバラード曲まで、人間の感情を描いた楽曲で若い人々から共感されて、人気と流行を作り出しました。略称「あゆ」と呼ばれています。
日本を代表する女性アーティストたちが注目された頃でした。ヒッキーとあゆの他に、倉木麻衣(くらきまい)、MISIA(ミーシャ)、aiko(アイコ)も、個性あふれる歌声と音楽性で注目されていました。ここで挙げた彼女たちは、現在も活動しています。

2001年の邦楽界の様子図

歌姫だけではなく、ロックバンド、ダンスグループ、ヒップホップも盛んでした。新しい時代でも、J-POPは多彩なジャンルで、季節を歌い、人間の感情を描いた音楽があふれていました。そんななか、因島から上京して、メジャーデビューした若きポルノは、新しい邦楽界で育つ、活動2年目のロックバンドでした。あゆやポルノに夢中になっている、ブリの子供時代は、アーティストの世代交代によって、邦楽界が移り変わる頃でした。


ふ…若きポルノの春光

ポルノは昭仁、晴一、タマの3人組ロックバンドとして活動していた頃でした。1999年のデビューシングル曲『アポロ』の注目から、彼らは一発屋のバンドと思われていました。2000年の夏に3枚目のシングル曲『ミュージック・アワー』を発売して、飲料水のポカリスエットのCM曲に選ばれると、売上と人気が伸びてきました。夏の次は、秋に4枚目のシングル曲『サウダージ』を発売しました。こちらもさらに売上が伸びて、そして冬は5枚目のシングル曲『サボテン』を発売しました。これら3枚のシングル曲は全てシングル曲のランキングで、トップ10内に入りました。『サウダージ』はCDミリオンセラーを記録しました。「夏」「秋」「冬」の代表曲が生まれ、もはや一発屋のバンドではないと知られました。

ソニーミュージックの音楽雑誌『WHAT's IN』
ポカリスエットミュージックリーグ2000の特別フリーペーパー。
ポルノはCMつながりで音楽イベントに参加した。


ポルノのライブ活動も、シングル曲のヒットとともに活発でした。メジャーデビュー初のライブハウスツアー、初めてのホールツアーは成功しました。学園祭ライブ、音楽イベントへの参加、音楽番組の出演も盛り上がりました。ポルノは日本全国の少年少女の間で、人気が高まりました。ファンが増えて、2000年に公式ファンクラブ「loveup!(ラバップ)」が作られました。このファンクラブ名から、ポルノファンの呼称「ラバッパー」が作られました。

注目度が上がるなかで発売されたのが、2枚目のアルバム『foo?』でした。アルバム名の由来は、日本語の「ひい、ふう、みい(1、2、3)」の数え方から、2枚目のアルバムなので「ふう」と付けました。晴一は、英語で「誰」を意味する「who」にひっかけて、アルファベットにしました。晴一は「誰と聞かれて、ポルノグラフィティと言えるように」という想いをこめました。
アルバム制作は、前作の2000年のアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』より、制作時間が短くなって、早く完成しました。タマは、「クオリティが下がったわけでもなく、むしろ面白い作品が作れた」と語りました。

ポルノ『foo?』発売告知ポスター


み…21世紀を見つめる天使と少年

全体的にこのアルバムは、前作の2000年のアルバム『ロマンチスト・エゴイスト』と比べて、打ちこみの楽曲が増した気がします。前作は力強いギターロックが多い感じで、今回は打ちこみとギターロックの作風、幅広いジャンルの楽曲が豊かになりました。歌詞は、主人公とストーリー性がおもしろい内容です。シングル曲に負けないアルバム曲が満載です。

収録シングル曲について、紹介します。夏のシングル曲『ミュージック・アワー』は、ラジオDJが恋愛に悩むラジオネーム「恋するウサギ」に向けて、勇気を贈るやり取りを描いた、アップテンポのポップス楽曲です。ポルノのライブでは、「変な踊り」と呼ばれる特有の振付ができて、盛り上がる定番曲になりました。
秋のシングル曲『サウダージ』は、ポルトガル語で「哀愁」を意味する曲名です。女性が男性に向けて、別れの言葉を伝えながら、未練と愛情の間で揺れるラテンロック楽曲です。終始、女性の言葉でつづられた、情緒的な歌詞が苦しいくらい響きます。ここからポルノの得意なラテンロック作風の楽曲ができました。
冬のシングル曲『サボテン』は、インディーズ時代から温めていた楽曲でした。雨の中で、恋人の別れのさびしさを歌う、ロックバラード楽曲です。冷めた愛情を窓際のサボテンに重ね、恋人のさびしさを描いた歌詞は、涙なしで聞けません。
これらのシングル曲は、アルバムのために少しアレンジされました。

ポルノ夏秋冬のシングル曲

アルバムの始まりに、一つひとつの電子音が流れるイントロから、昭仁のラップへ加速していく打ちこみポップス楽曲『INNERVISIONS』(インナービジョンズ)。英語の単語の組み合わせで、「心象風景」を意味する曲名です。
失恋体験を引きずる男性が、夜中のコーヒーショップで恋愛の複雑な感情を語るアップテンポなポップス楽曲『グァバジュース』。恋愛に頼る男性をこっけいに描いた晴一の歌詞が、とても素晴らしいです。途中に入るコーラスが楽しいです。晴一の作詞は、比喩とメッセージ性がこめられている特徴です。

昭仁が揺れるカーテンを見て、感じたイメージをこめたロックバラード楽曲『愛なき…』。愛が失われる時代を嘆く男性が、生々しい感触と愛情の叫びを歌うものでした。聞き終わるたびに何も言えないくらい、歌声の迫力を感じます。昭仁の歌詞は、分かりやすく、人間の感情や日常を描いたものが多いです。
鋭い打ちこみとギターとベースが響く、アップテンポで風刺的な歌詞を歌う楽曲『オレ、天使』。タマの作風でよくある、一定のビートを刻む音楽性と、ダークな世界観があふれる楽曲です。人間を良いほうへ導く天使の戯言から、いつの時代も変わらない人間の愚かさを描いています。

アルバム後半は、バラード楽曲の後、アップテンポな楽曲がつまった内容です。
「俺は男だから」と男性の性格や特徴を歌い、恋人に思いやりと頼りになる想いをコミカルに伝えたスローテンポなポップス楽曲『Name is man ~君の味方~』。晴一の実体験から、老人と孫のやり取りを通して、死生観を語るピアノバラード楽曲『デッサン#2 春光』。歌詞の中に、ポルノの故郷である因島にある、「瀬戸内の海」が登場します。

瀬戸内海(せとないかい)。
ポルノの故郷、広島県の因島に接する海。

特に、ブリが注目したのは『空想科学少年』というテクノロック楽曲です。人間関係の悩みを抱える少年が、未来の技術進歩に憧れて、あらゆる悩みから解放される想いを歌った楽曲です。少年が浮かんだ未来の世界は、感情や個性が失われて、本音を隠す曖昧な考えが人間らしいのか問いかけます。晴一のひねくれたような少年を描いた歌詞、ユニークなメロディーが独特です。

Utopia 感情なんてもういらないよ
大嫌いさnothing nothing
曖昧に濁した答えもやさしさなのかな?
Utopia 丈夫な心が欲しい痛いのはもう嫌なんだ
トビラを開けて下さい穏やかな明日へ
純情をぶつけた見返りがMonkey Dance!

ポルノグラフィティ『空想科学少年』(2001年)

昭仁の「ユートピア」の発音が心地よいです。メロディーは、晴一が昭仁とタマにお願いしてプレゼントされた、ヤマハのモバイルシーケンサー「QY100」で作りました。この楽曲は、ポルノファンの間で名曲の1つとして知られました。

ヤマハのモバイルシーケンサー「QY100」


『Report 21』はギターが熱いロック曲です。21世紀の世界で生きる人間に向けて、熱意を贈るメッセージ性をこめた歌詞です。技術進歩が起きる都会で、失敗を恐れる人間に向けて、励ますように歌います。挑戦と失敗の繰り返しから、目標を実現する精神力は、機械にはない、人間ができる力なのです。2000年代の新しいアーティストとして、活躍するポルノが若いリスナーを導く姿と重なります。後にポルノは、時代の変化とともに、さまざまな技術進歩で生きる人間を描いた楽曲を作ります。
アルバムの最後にある、『夜明けまえに』は、日付が変わる前に、大切な人に会いたい一途な気持ちをこめた、ギターバラード楽曲です。個性的な楽曲たちの後に締められる、最後の楽曲として、爽快感があるストレートなメロディーです。


よ…タイルにうつる影

『foo?』のジャケットをよく見ると、人影のようなものがタイルに薄く映っている様子が見えます。この人影は、タオルを肩にかけたタマの姿です。歌詞カードには、昭仁も晴一もタオルを肩にかけて、上半身裸の姿で撮った写真があります。ジャケットのタイルは、お風呂場を表しているようです。ここで写真を載せるとnote記事の表現上、誤解されるので、あなたの目で実物をお楽しみください。タオルには、「ぽ」と書かれた日の丸が描かれています。バンド名の一文字から取った、ひらがなでかわいいです。


い…カセットテープ版もあった

『foo?』は発売当時はCDとして発売されましたが、実はカセットテープ版もあります。日本国内ではCD、カセットテープ版は東南アジア向けに発売されました。カセットテープ版は、ソニーミュージックのタイ社が、タイ国内で製造して、発売したものです。正規品が存在します。
ブリは今まで知りませんでした。中古市場では、まれにこのような日本国外盤の媒体が流れつくことがあります。日本国内ではカセットテープの販売は終わっていました。東南アジアの国々では、日本よりCD媒体の普及が遅れていたため、安価で普及していたカセットテープが使われていました。
ポルノは後に、数々のアニメ主題歌によって、アジア圏で知られていきます。

ポルノ『foo?』カセットテープ版。
ソニーミュージックのタイ社がタイ国内で製造、発売したもの。


む…ポカリスエットCMに選ばれ続ける

『ミュージック・アワー』は夏のポカリスエットのCM曲に選ばれました。ポカリスエットのCM企画スタッフから、『サウダージ』も気に入って、こちらもCM曲になりました。
後に2人組体制になった頃、2006年に発売されたシングル曲『ハネウマライダー』も、CM曲に選ばれました。全国のZepp会場で、抽選でポルノの特別ライブコンサートが開催されました。

ポルノ、2006年のポカリスエットの
特別ライブコンサートのフライヤー


な…まとめると新時代への熱意をこめた若きポルノの名盤

以上、ポルノのアルバム『foo?』について思ったこと、21世紀を迎えた邦楽界について、まとめました。
ポルノが日本を代表するアーティストとして、知られるようになった代表曲がつまったアルバムです。代表曲に負けないアルバム楽曲も、メンバーの個性があふれて、音楽ジャンルが豊かです。簡単にまとめると、「若きポルノが有名になったきっかけの名盤」として、おすすめします。

歌詞から感じたのは、21世紀へ向けた熱意と不安が見え隠れした雰囲気です。『空想科学少年』『Report 21』の歌詞は、その雰囲気を感じる内容でした。若きポルノは、新しい時代を生きるリスナーに向けて、人間の強い精神を信じていこうと、音楽を通して伝えました。ポルノ自身も、音楽活動で挑戦と失敗の繰り返しで、夢を実現しました。

インターネットが身近になった2020年代、人間のコミュニケーションに悩みが絶えません。AIが音楽を作り出し、人間の個性を奪うと議論が起きています。まさに『空想科学少年』で浮かんだ未来に近いです。挑戦と失敗から学んで、目標を実現する精神は、AIではできません。音楽は人間の創作物だからこそ、音楽に共感して、強い精神力へつながるのです。
ポルノはこのアルバムのヒットから、さらなる名曲を作り出し、2000年代の邦楽界を代表するアーティストになるのでした。現在も、彼らが作り出した名曲は、2020年代の今を生きる人々の励ましになるのです。挑戦と失敗を恐れずに生きることで、素晴らしい世代を生み出すはずです。

衝撃のemergencyを迎え撃つのは
僕らしかいなさそう
結論は簡単で難解を極める
極上のgeneration生み出そう

I just change the world
I just change your mind
未来は今

ポルノグラフィティ『Report 21』(2001年)

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