小説「大阪都からはじまった道州制」第1話
(この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)
2050年、日本には道州制に近い体制となっていた。
この小説は、その歴史を振り返るものである。
道州制の日本
道州制とは、乱暴に言えば、複数の県が合併して大きな地方自治体となる制度である。
大きくなった地方自治体は、そのぶん大きな体力を持つ。
その体力を用いて、地方自治体は国に代わりその地方の内政を担当し、そのぶん国は外交・軍事などに集中できるようにする、という制度である。
2050年時点、日本では州と道県が入り乱れていた。
州として挙げられるのは、
関東州(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県が合併して成立)、
近畿州(大阪府、京都府、兵庫県が合併して成立)、
中京州(愛知県、岐阜県が合併して成立)、
筑肥州(福岡県、佐賀県がが合併して成立)。
その他の地域は県が残っていたが、州となるべきか活発な議論が行われていた。
すべては大阪都構想から始まった
なぜこのようになったのか、それは2020年代に行われた大阪都構想が始まりだった。
2020年11月、大阪都構想の是非を問う住民投票が行われた。
そして25年、体制変更とともに、大阪府は大阪都に名称変更された。
大阪府は晴れて、大阪市に留まっていた大きな財源を一手にすることが可能となり、大阪都として、財源不足で困難だった事業の実現に一歩近づいた。
大阪都では不十分だった
しかし、大阪都構想を主導した政党、威信の会は焦っていた。
なぜなら、大阪都になっただけでは、大阪経済の地盤沈下は止められないと見込まれていたからだった。
つまり、大阪都でも不十分だったのだ。
都構想に続いた改革で大阪のビジネス環境は改善しつつあったが、東京首都圏に追いつく見込みは立っていなかった。
追いつくことができないということは、大阪から東京圏へビジネス拠点を移動する流れや、移住する流れを止められないということを意味する。
大阪経済の地盤沈下は続くということだ。
大阪から東京へ本社を移転する流れは止まっていない。
関東の方が人口規模が大きく顧客が多く、取引先も多く、強力な権限がある中央省庁があり、制度がほぼ同じなのだから、東京に本社を構えた方が企業にとって有利なのは当然ではあった。
大阪が起死回生するには
この流れを食い止めるためには、大阪が東京よりもビジネスをするのに良い場所となる必要がある。
つまり、思い切った制度改革を行い、東京よりもはるかに良いビジネス環境を用意する必要があったが、その制度改革の壁となるのが、腰の重い監督省庁だった。
日本政府の強すぎる規制と、弱すぎる地方自治体の権限にあった。
大阪都が独自の施策を打とうとしても、なぜか霞が関官僚の決済が必要となる。
霞が関官僚の決済を経る家庭で、独自だったはずの政策は、安全志向の無個性な施策になってしまう。
結局、東京圏との違いを出す政策はほとんど打てなかった。
大阪都は、解体された大阪市から大きな財源を手にして、片足の鎖が外れたものの、もう片方の足には国がかけた鎖がついたままだった。
大阪市の解体で財源は得たものの、権限は国が握ったままだったのだ。
威信の会がこの鎖を苦々しく捉えていた。
この鎖から解き放たれれば、大阪をシリコンバレーのような自由なビジネス都市に生まれ変わらせることも可能なのに、と。
次回は、大阪威信の会の野望を妨げる障害についてもう少し詳しく、そしてその打開策について。
お楽しみに。