【台本】土方歳三と竈門炭治郎の書簡。〜もしも、鬼滅の刃の中に土方歳三を登場させるとしたら〜
※一刻(いっこく)が、何分かということについては、現代では便宜上2時間とされているが、24時間方式導入までは、一刻何分という決まった長さはなく、
日の出日の入りなどで、異なっていたときく。だが、ここでは、一刻(いっこく)を2時間とするものを採用する。
補足情報
(五里=19.636344km 一里=3.9272688km)
(三十里=117.818064km 一里=3.9272688km)
登場人物
土方歳三 鬼殺隊 育手
炭治郎に才能を見出し、敵討ちをしたい
炭治郎を鬼殺隊へ誘い、入隊させる。
炭治郎の不在時、父親代わりとして住む。
炭治郎の母と兄弟を今住んでるところから、五里先の町へ引っ越しをさせる。
竈門炭治郎:鬼殺隊の継子。土方に才能を見出されて、鬼殺隊に入隊。
家族の敵を討ちたい。
竈門禰豆子(かまどねずこ):炭治郎の妹。
四男 六太(ろくた):炭治郎の弟。
炭治郎の母:炭治郎をはじめとする6人兄弟の母。
店のひと:手紙を出しがてら、朝餉(あさげ)を食べようと寄った店のひと。
禰豆子似の店員 途中から癒美(ゆみ)という名で登場。同一人物。
宿の世話係
〜ここから〜
炭治郎:じゃあ。行ってくるよ。
禰豆子(ねずこ)、六太(ろくた)のこと頼むよ。
禰豆子(ねずこ):まかせて!
六太:・・・(いかないで!と言いたいけど、男だもん。と堪える)
母:気をつけるのですよ。
炭治郎:はい。
(炭治郎、町へ)
炭治郎:ふー。今日も売れた。
これで、少しは、家族をラクにできるな。
あとで、母上様に、手紙を書こう!
拝啓 母上さま
東風(こち)が吹く季節、いかがお過ごしでしょうか?
私(わたくし)、炭治郎は、母上さまたちの健康を祈りながら、
仕事に精を出しております。
固定のお客様も付き始め、質素ではあるものの、暮らせております。
最近、風の噂で、また人食い鬼が出ることが増えたと聞きました。
鬼の血が傷口に入るだけで鬼になってしまうそうです。
母上さまも禰豆子(ねずこ)たちも、油断せず、
鬼に目をつけられぬよう暮らしてください。
炭治郎は、あと半月ほどしたら帰れそうです。
それまでは、なにかと不自由をかけるかと思いますが、
こっちに来る前に、鬼殺隊の土方さんに
母上様たちのことを頼んでおきました。
宵五ツ(戌の刻)(現在の20時)に
我が家の門のところに来てくださいます。
丁寧な対応をしてくださいね。
では。
竈門炭治郎
母上さま、弟妹(きょうだい)たちへ
炭治郎:よし。書けた。
これを明日、出せば良い。
今日は寝るとしよう。
(翌朝)
すずめ:チュンチュンチュン
(炭治郎伸びをしながら、ゆっくりと布団からおきる)
炭治郎:うーん、ん。
宿の世話係:竈門(かまど)さま、起きられましたか?
炭治郎:は、はい。
宿の世話係:朝餉(あさげ)は、どうしますか?
炭治郎:手紙を出しがてら、町で食べます。ありがとう。
宿の世話係:かしこまりました。
お気をつけて。
(炭治郎、町へ)
炭治郎:(カコン)よし、手紙出したぞ!
そろそろ、朝餉(あさげ)にしよう!
(小さな懐かしい感じのする食事処へ)
炭治郎:(一番安くて量のあるものを頼む)コレを頼む。
店のひと:はい。
数分後……。
店のひと:お待たせしました。
ふるさと定食です。
炭治郎:ありがとう。
(もぐもぐ)
炭治郎:うまかった。ありがとう。
(支払いをして、店を出る)
さてと……。帰るか。
宿の世話係:おかえりなさい。
炭治郎:ただいま
宿の世話係:炭治郎さん宛にお手紙が届いてますよ。
炭治郎:誰から?
宿の世話係:ええと……。
鬼殺隊の土方歳三様と書かれております。
炭治郎:(ガタン)なに!
ほんとですか?
宿の世話係:ほんとです。
炭治郎:じゃあはやく、持ってきてください!
宿の世話係:わかりました。
(炭治郎、土方歳三からの手紙を読む)
竈門(かまど)殿、いきなりの手紙失礼する。
私(読み:わたくし)は、鬼殺隊の土方歳三と申すものである。
貴殿が、そちらへ稼ぎに行っている間に、貴殿の家族をお守りするために、
貴殿の家に居候(読み:いそうろう)させてもらっておる。
そこで、気づいたのだが、このままでは、あまりに危険過ぎる。
そこで、提案なのじゃが、貴殿の家族を
別のところへ住まわせてもよいか。
費用のことなどは心配しないでよい。
もし、別のところへ住まわせてもよいなら、その旨を書いた手紙がほしい。
それでは。また。
鬼殺隊
土方歳三
炭治郎:(土方様……。なんとお優しい方。ありがたい…。
もちろん、問題ない。早速手紙を書こう)
炭治郎:
拝啓
土方歳三様
東風(こち)の吹く季節、いかがお過ごしでしょうか。
私(わたくし)、竈門炭治郎と申します。
先日は、丁寧なお手紙をありがとうございました。
文面から土方様のお人柄を感じました。
さて、手紙の件(=別のところへ住まわせてよいかという件)ですが、
問題ありません。よろしくお願いします。
母上さま、と弟妹(きょうだい)たちのことよろしくお願い致します。
竈門炭治郎
炭治郎:よし。これでよい。
明日、出そう。
(翌朝)
すずめ:チュンチュンチュン
炭治郎:(カコン)
よし。出したぞ!これでよし。
母上さまと弟妹(きょうだい)達のことは、土方様にお任せして、
ボクはしっかり稼いでラクをさせられるようにしないと。
数日後……。
竈門(かまど)殿、早速のお返事ありがとうございまする。
了承してくれて嬉しく思う。
さっそくではあるが、いまのところから、五里先の町へ引っ越すことにした。
なぜ、ここにしたかというと、ここへ来るまでには、鬼の嫌いな大豆を育てている大豆畑があること、ヒイラギがあちこちにたくさん生えていること。
そして、鰯売りもたくさんいたりする。
鬼も近寄らぬと言われている川もある。
つまり、鬼がこっちの町へ来ることは容易ではない。
だから、安心して商い(あきない)を頑張り給え。(がんばりたまえ)
では。
鬼殺隊
土方歳三
炭治郎:(部屋で、独り言のように、口を抑えながら。
ありがたさに泣きそうになるのを堪える感じで)
(……。なんとありがたい……。
この御恩(ごおん)忘れませぬ…)
炭次郎:
拝啓
土方歳三様
お手紙ありがとうございました。
新しいところが、いかに安全かよくわかりました。
あと、2週間ほどで帰れますが、
それまで母上様と弟妹(きょうだい)達のことよろしくお願い致します。
竈門炭治郎
炭治郎:よし。寝よう。
(翌朝)
すずめ:チュンチュンチュン
炭治郎:(カコン)
よし、手紙も出した。
母上さま達のことは何も心配いらない。
心配いらないんだから……。
ボクは、もっと頼りがいのある男、
愛される人間にならなくては。
そして、たくさんお金を稼いで母上さまや
禰豆子(ねずこ)達にラクをさせるんだ!
あと2週間……。
この2週間でなんとかしなくては!
(2週間後)
宿の世話係:いよいよ旅立ちの日ですね。
どうかお身体にはお気を付けて。
炭治郎:ありがとう。(かっこよく去る)
炭治郎:母上様たちのいる町まで、三十里
遠いが、必ず生きて着いてみせる。
そして、喜ばせるのだ。
そのために…。
そのためだけに、生きたんだ!
必ず…。必ず…。たどり着いてみせる。
そう念じながらあるき続けること数時間、最初の宿場に到着する。
(宿で過ごす)
(翌朝)
炭治郎:では。参ろう。
(母上さまたちのことを想いながら歩く)
残りニ十里……。
まだまだ先だなぁ……。
やすんでいくか。
(ふと目に入った店へ)
(店主は、母上様に似て、
店員は、禰豆子(ねずこ)にそっくり)
炭治郎:!!!
(目をゴシゴシ)
母上さまと禰豆子がいる!?
ええっ??
(目をゴシゴシ)
(ともかくなにか頼もう)
炭治郎:すみません。
禰豆子似の店員:あい!
炭治郎:この、お抹茶セットをください。あとお茶漬けも。
禰豆子似の店員:あい!
(数分後)
禰豆子似の店員:お待たせしました。
お抹茶セットとお茶漬けでございます。
炭治郎:ありがとう。(気づかれないように顔を見る)
(食す)
炭治郎:似とる……。とても似とる……。
誰だろ?
まさか、本人(禰豆子)じゃあるまい。
しかし、気になる……。
炭治郎:あの……。
禰豆子似の店員:はい。
炭治郎:(すっごく勇気を出して)お姉さんは…。お姉さんは…。
なんてお名前ですか?
禰豆子似の店員:えっ?
炭治郎:い、いえ…。その…。
ナンパとかではないのですが……。
その気になって……。
禰豆子似の店員:ふふっ。そう。
誰かに似てたのかな?
例えば……。大切な人とか。
炭治郎:は、はい。
禰豆子似の店員:そっかぁ。なるほどね。大切にしなさいね。
変に意地張って喧嘩してそのまま死別なんてことになったら、
悔やんでも悔やみきれないから……。
でも、なんか嬉しいわね。
見知らぬ誰かの大切な人と似ているというのは。
炭治郎:・・・。はい。
炭治郎:そうですか?ありがとうございます。
禰豆子似の店員:いえいえ。
あー。そうそう。名前なんですかって話だったよね?
炭治郎:ええ。
店員:うんとね…。ゆみ。癒やす美しさと書いてゆみ。だよ。
炭治郎:よき名前ですね。
店員:うん。でもほとんどその名前で呼ばれない。
炭治郎:じゃあなんと呼ばれるのです?
店員:うんとね。なごみ。
炭治郎:なごみ?
店員:そ。
炭治郎:なぜ?
店員:ほら。なんか、のほほんとしてるでしょ?
ほわわんとしてるから。
炭治郎:なるほど。たしかに、和み(なごみ)ます。
店員:ほんと?ありがとうございます。
炭治郎:(照れながら)いえ…。
店員:そうだ!炭治郎さん。このあとおひま?
炭治郎:!!!
炭治郎:癒美(ゆみ)殿なぜ名前を知ってる?
癒美(禰豆子似の店員 読みは、ゆみ):なぜって……。
土方様から聞いていた特徴とあまりにも一致するので、
おそらく竈門炭治郎(かまどたんじろう)さんだと思って。
炭治郎:そうでしたか。なるほど。それなら合点がいく。
癒美(禰豆子似の店員。読みは、ゆみ):で。おひま?
炭治郎:いや。宿に戻って明日の準備をしないとならぬ。
1日でもはやく、母上と兄妹のいる町に着きたいから、
女子(おなご)と遊んでる暇はない。
癒美(禰豆子似の店員。読みはゆみ):なにもそんな言い方しなくても(笑)とって食ったりしません。
そうではなくて、土方様から、これを渡すようにと言われてますの。
炭治郎:なんだ。それならそうといえばよいのに。
それに渡すだけなら、いまここで渡してもよさそうではないか。
癒美(禰豆子似の店員。読みはゆみ):それがそうはできないのです。
炭治郎:なぜ?
癒美(禰豆子似の店員。読みは、ゆみ):儀式が必要だからです。
炭治郎:なるほど。あい。わかった。
それは、どのくらい時間がかかる?
癒美(禰豆子似の店員。読みは、ゆみ):一刻
(読みは、いっこく。2時間)ほど。
炭治郎:土方殿が託すということは、信用するに足るということ。
あい。わかった。参ろう。
癒美(禰豆子似の店員。読みは、ゆみ):よかったわ。
では。一緒に来てくださいな。
炭治郎:うむ。
(癒美、炭治郎を店の裏山近くにある滝のところへ連れて行く)
癒美:さぁ。着いたわ。
炭治郎:立派な滝じゃなぁ。
して。ここで何をする?
癒美:この滝の水をこの瓶(かめ)のくびのところまで入れてください。
炭治郎:うむ。
(数十分後)
癒美:入れましたか?
炭治郎:うむ。
癒美:そうしましたら、次に土方様から預かっているこの刀に
満月の光を吸収させてから、この瓶(かめ)の中に刀を入れてください。
炭治郎:うむ。やったぞ。
癒美:では。早く瓶(かめ)から抜いて。
炭治郎:(瓶から)抜いたぞ。
癒美:これをあと2回なさってください。
そして、最後に、「土方歳三から預りし、この刀、
世の中を良くすること以外には使いませぬ。我に力を!」と
唱えてください。
そして、その言葉が神に届けば、刀が輝き、勝手にあなたの腰のあたりについて、これからの人生(読み:たび)のお供をしますよ。
炭治郎:あい。わかった。唱えてみよう。
(唱える)
すると、癒美(ゆみ)が言った通り、刀は輝き、勝手にボクの腰についた。
癒美(禰豆子似の店員、読みはゆみ):(刀が腰についたのを確認して)
……。よかった。
これで、あたしの任務はおわり。お気を付けて。
そういうと癒美(ゆみ)は、去ってしまった。
そして、滝とボクだけポツンと残され、
なんともいえないさみしさを感じた。
でも、それ以上にエネルギーに満ち溢れていた。
すべてが自分の味方に思えた。
そして、覚悟が決まったその時、
目に入ったのは、滝の近くの崖に咲く
1本の白百合。
その姿は、癒美(ゆみ)にそっくりで、
とても愛おしくなった。
そして、この美しい景色を守るために
一歩を踏み出そうとしたとき、足元をみた。
すると、「たんぽぽ」が健気に咲いていた。
その姿は、まるで母上様や兄妹たちのようであった。
この静かに逞しく(たくましく)いきる花達に家族を重ね、
大切な人を守れる漢(おとこ)になろうと満月に誓った。
【完】