【台本】どっちが本物?〜茜の空の誓い〜
〜登場人物〜
土方歳三A(土方歳三役にぴったりな声で)
この話の中では、偽物。
土方歳三B(土方歳三役にぴったりな声で)このお話で「本物」とされる土方役。
沖田総司(おきたそうじ):似合う人でお願いします。
沖田:(ドタバタドタバタ)
土方さん(読み:ひじかたさん)。土方さん。
(読み:ひじかたさん)どちらにいらっしゃいますか?
土方歳三A:なんだ。騒々しい。
土方歳三B:まことに。
で。どーした?総司(そうじ)。
沖田:あっ。はい。あれ?
(ふたりを見比べる)
土方歳三B:うん?どうした?
土方歳三A:どうした?
沖田:あれ?ボク、疲れてるのかな?
土方さん(ひじかたさん)がふたりいる……。
土方歳三B:なんだって?
土方歳三A:まことか?
沖田:はい…。おそらく…。
A&Bまことか!
沖田:はい…。
土方歳三B:そんなことがあるわけ…。
(土方歳三Aを見て)
えっ?儂(わし)がおる…。
(土方歳三Bを見て)
ほんとだ!儂(わし)がおるぞ!
A&B:なんてことだ!
土方歳三B:なにが原因で…。
沖田:あの…。
A&B:なんじゃ。
沖田:なにか、珍しいものを召し上がりましたか?
土方歳三B:ああ。
沖田:なにを?
土方歳三B:羽美月(ハネミツキ)
といううまい酒じゃ。
沖田:酒……。
土方歳三B:そうじゃ。それがどうかしたのか?
沖田:いえ…。実は、最近読んだ書物の中に、
珍しいものを飲み食いしたときに、
不思議な体験をすることがあるとあったので。
もしかしたらと思いまして…。
土方歳三B:ふむ…。
土方歳三A:ふむ…。
土方歳三B:その線が濃そうじゃのう。
土方歳三A:濃そうじゃのう。
土方歳三B:こらこら。そなた、いいかげん、儂(わし)の真似をするのをやめてくれぬか。
土方歳三A:そなたこそ、そろそろ
儂(わし)の真似をするのをやめてくれぬか。
土方歳三B:なにを言うか!本物は、この儂(わし)じゃ!
土方歳三A:いいや。儂(わし)じゃ。
儂(わし)が本物の土方歳三じゃ。
沖田どの(総司(そうじ)でもオッケー)なら、
わかるじゃろ。
どちらが本物か。さぁ。答えよ。
土方歳三B:答えよ。
沖田:(よーくふたりを見る)
沖田:・・・
土方歳三B:どうじゃ。
土方歳三A:どうじゃ。
沖田:・・・・
土方歳三B:どちらが本物かのぉ?
土方歳三A:かのぉ。
沖田:外見(みため)だけですと、
瓜二つ。どちらが、本物かとんと見当もつきませぬ。
ですが、わたくしが、副長にだけ話したあの話を知っていれば、それが本物の証拠です。
土方歳三A:なるほど。
土方歳三B:なるほど。
沖田:では、おききします。
わたくしが、副長殿に話した話とはなんですか?
土方歳三A:それはそのー。あれじゃ、あれじゃよ。な?総司(そうじ)、そうだろ?
沖田:あれじゃ、わかりませぬ。
土方さん。
では、次。そちらの土方さんどーぞ。
土方B:いいのか?ここで話して。
沖田:(少し考え込む)
たしかに……。
あの話は、トップシークレットで、副長殿にしか話してないものです。
なので……。
「偽物」に聴かれるのはイヤですね。
土方歳三B:じゃろ?
沖田:はい。
土方歳三B:では、よいな?
いま答えなくて。
沖田:はい。大丈夫です。
いまので、どちらが、本物かわかりましたから。
土方歳三B:ほう。
土方歳三A:ほう。
土方歳三B:では、教えてもらおうか。
土方歳三A:(教えて)もらおうか。
土方歳三B:本物はどちらかということを。
土方歳三A:いうことを。
沖田:はい……。
(ややながめの間をとって)
沖田:本物は……本物は……。
こっちの土方さんです!(土方歳三Bをさす)
土方歳三B:おお!
土方歳三A:なんだって?
総司、おまえ、目が悪くなったか?
本物は儂(わし)じゃ。
沖田:いいえ。違います。
あなたは、ニセモノです。
土方歳三A:なぜ、そう言い切れる。
お主、さっき、外見(みため)は、
瓜二つ。どちらが本物かわからぬ。
申したではないか。
沖田:ええ。
ですから、あの質問をしました。
土方歳三A:なに?
沖田:そして、それに対する答えで、
本物かどうかわかったのです。
土方歳三A:なんだと?
沖田:あなたは、(土方歳三A)知らないのに、知ってる風を装いました。
ですが、こちらの土方さん(土方歳三B)は、そんな誤魔化すようなことをしないだけでなく、
内容的にここでは、まずいのではないか?わたくし(沖田)が困るのではないか?という配慮を見せてくれました。
副長は、「鬼」とか言われてますけど、
とても細やかで、丁寧な気遣い、こころ遣いをなさる方です。
そして、その気遣いは、呼吸をするように当たり前なんですよ。副長にとっては。
なので、無意識に出てしまうんですよ。
そういう細かいところ。
それが、あなたにはなかった。
だから、私は、あなたが「ニセモノ」だとわかったのです。
土方歳三A:くっそ……。
そんな、細かいところで……。
沖田:ええ。
そんな細かいところで。です。
あなたは、自分の真似のうまさに、
溺れたのです。
見えるところを真似ることに専念して、
肝心(かんじん)の中身をコピーするのは、忘れました。
もし、あなたが、中身まで、コピーしてきたら、さすがの私もわからなかったことでしょう。
あなたが、油断してくれて、自分のうまさに溺れてくれたおかげで、見破れました。
ありがとう。(おじぎする)
土方歳三A:・・・・
土方歳三A:……。完敗だ……。
土方歳三B:ほぅ。さすが。総司。(そうじ)よく見破った。
そして、そなた。やっと観念(かんねん)したか。
不愉快じゃ!
はやくされ!
ここに「ニセモノ」は不要らぬ(いらぬ)
去れ!去れ!
そういうと、やつは、そそくさと
まるでこそ泥のように逃げていった。
その姿を見送る副長の姿は、
どこか悲しげだった。
自分(土方歳三)になろうとした男の
行く末を案じるその姿に、ボクは惚れた。
改めて、この人についていこう。
この人と共に、日の本(ひのもと)を
変えていこうと、茜の空に誓った。
【完】