【台本】失われた台本
龍之介先輩(実は、社長の息子):ない!ない!
さゆり:先輩どうしたんですか?ないってなにがないんですか?
龍之介先輩:台本だよ。今日使う予定の台本がないんだ!!
(演者全員)ええ!!!!ほんとうですか?先輩
龍之介先輩:ああ…。残念ながら本当だ…。
(演者全員)ど、どうするんですか?
タケル:あと、1時間で幕あがりますよ?
さゆり:事情を話して…返金でしょうか?
タケル:いや…。それはできないでしょう。今日はお偉いさんも来ている。
会場ももうこれ以上ないぐらい期待が高まっている。すごい熱気だよ。
(演者全員)そ、そんなぁ……。
さゆり:じゃぁ。どうしたらいいのでしょう?
のぞみ:そうね……。即興になるのかしら…。
さすがにこの短時間で「台本」を用意するのはできないわよね?
さゆり:いや…。できるかもしれません。
(演者全員)なんだって?
のぞみ:えっ?ほんと?頼めそうな人がいるの?
さゆり:ええ。まぁ…。頼めそうな人というか……。
(演者全員、さゆりに注目する)
のぞみ:というか?
さゆり:私でよければ書きますよってことなのですが……。
(演者全員驚く)
龍之介先輩:ほ、ほんとか?ぜひお願いしたい。
なぁ。みんなもそう思うだろう?
(演者全員)ああ。もし、ほんとうにこの短時間で書けるのなら……。
さゆり:かしこまりました。それでは書かせていただきます。
ところで、開幕時間を1時間ほど遅くすることはできますか?
龍之介先輩:1時間か…。微妙だなぁ…。
しかし、上に掛け合ってみよう。5分待っててくれ。
さゆり:わかりました。
(龍之介先輩が戻ってくる)
龍之介先輩:OKだ。ただ、これ以上は伸ばせない。
さゆり:ありがとうございます。大丈夫です。
では、さっそく近くの『HOTEL ACTOR』に籠って書いてきます。
仕上がりましたら、先輩の携帯に連絡を入れます。
その連絡が入ったら、
『HOTEL ACTOR』1016号室に来てください。
そこでお渡しします。
龍之介先輩:わかった。じゃぁ。みんな、ひとまず解散だ。
しばらく自由に過ごしていておくれ。
(演者全員)わかりました。
龍之介先輩:さてと……。
(どかっとふかふかな椅子に腰を下ろす。疲れがどっと出る)
今回はなんとかなったが…。なぜ台本がなくなったのだろう。
台本は、厳重に管理されていたはずだ。なのになぜ?
(出入りの記録を眺める)
龍之介先輩:おや?見覚えのない名前だなぁ。
そして、訪問先は…。ええ!父の…。社長の部屋じゃないか!
どうして……。
どこの誰なんだ?
!!!
こ、この方は!!!
ということは…。今回の件って
『BLACKACTOR』が関わっているのか?
そして、きっと父が何らかの条件に「YES」と言わなかったから、
台本を盗んだのか……。
そして、それを次の講演で演じる気だな!!そうはさせない!!
龍之介先輩:(社長室に電話をかける)
秘書:はい。社長室です。
龍之介先輩:やぁ。あかりくん。ボクだよ。
龍之介だ。社長…いや、親父はいるかい?
秘書:親父?ええ!!龍之介さんって社長の息子さんだったんですか?
龍之介先輩:ああ。そうだよ。なんだ君は知らなかったのか。
秘書:はい。
龍之介先輩:まぁ。いい。ところで、社長は…。親父はいるかね?
秘書:は、はい。いらっしゃいます。少しお待ちください。
(電話保留)
社長:なんだ?俺は忙しいんだぞ。
龍之介先輩:すみません。
ですが、どうしてもお聞きしたいことがありまして。
社長:だからなんだ。さっさと言え!
龍之介先輩:では単刀直入に。昨日、『BLACKACTOR』の林が、
父さんのところ訪ねてきていますね?
社長:だからなんだ?
龍之介先輩:なにか取引きをするよういわれたのではありませんか?
社長:・・・・・・
社長:だとしても、お前には関係ないことだ。
龍之介先輩:いいえ。関係あります。おおありです。
社長…。
今日使うはずだった「台本」が粉失(なく)なったことは
ご存じですよね?
社長:ああ。
龍之介先輩:でしたら、お分かりになりますよね?
タイミングがドンピシャすぎなんですよ。
昨日は社長命令で、全員19時には上がるように言われていた。
受付嬢1人以外全員。
そして、全員が退社をしたのをみはからったかのように、林がきている。
22時ごろまでいたようですね。
会社から家までは2時間かかりますから、
この記録の時刻に嘘はないようです。
社長:・・・・。
龍之介先輩:そして、今日メンバーが来たときには、
台本がなくなっている。
これで、林を疑うな言う方が無理ではありませんか……。
社長:たしかにな…。しかし、よく調べたな……。
ああ。そうだよ。林と会っていた。そして、提案を断った。
まさかホントに、劇団を潰しにかかって来たとは……。
す、すまない。
龍之介先輩:やはりそうでしたか。でも大丈夫です。
さゆりが台本を書いてくれます。
社長:ほ、ほんとか。
龍之介先輩:ええ。ですからよければいらしてください。
息子の晴れの舞台を。
ボクがどれだけ本気でやっているのかをぜひ見てください。
龍之介先輩:それでは失礼いたします。
社長:ああ。必ず行くよ。
(龍之介が出ていくのを確認してため息)
(ウヰスキーと天然氷をグラスに入れ、夜景の見える窓際の席に腰掛ける)
立派になったもんだ……。(涙がほほを伝う)
(亡き妻の写真を見る)
なぁ。母さん、聞いてくれ。龍之介、いい男になったぞ。
みんなに愛される「俳優」になったぞ。
これで、儂(わし)も引退できる。
『劇団ACTOR』を龍之介に任せられる。
今日はお祝いだ。母さん一緒に飲んでくれ。
そういいながらグラスの酒を飲み干した。
【完】