【台本】もしも、ドラえもんがイケメンだったら。
20××年 秋。 猫山町に、とてもイケメンでやさしい男が突然現れた。
彼の本当の名はドラえもん。
だが、人間モード(人間の姿)になっているときの名前は青山猫太。
みんなには、ニャン太。と呼ばれている。
ニャン太の友達は、のび太ひとり。
だけど、最近そののび太ととも上手くいっていない。
理由は…。しずかちゃん。
ボクは、のび太くんが「しずかちゃん」のことを好きなの知っていた。
だから、のび太くんの願いが叶い、ふたりが恋人になれたらいいなと思っていた。
けれど、実際そうなると苦しくて。
ボクは、しずかちゃんに甘い言葉を囁(ささや)いた。
すると、すぐボクに靡いて(なびいて)きた。
どうやら、不器用すぎて愛をちゃんと伝えることができていないようだ。
そして、そういうちょっとしたことの積み重ねで、案外もろく壊れることを
ボクは知っている。そこで、しずかちゃんに、こう言ってみた。
ニャン太:ねぇ。しずかちゃん。
しずかちゃん:なーに?
ニャン太:……まだ、のび太のことが好き?
しずかちゃん:・・・・・・。
しずかちゃん:……そうね。まだ、すきかも……。
ニャン太:そっかぁ。じゃぁ提案があるよ。
しずかちゃん:なーに?
ニャン太:しずかちゃんは、ちゃんと「愛」を表現してほしいんだよね?
しずかちゃん:まぁ。そうね。
ニャン太:だったらさ、ちゃんとそれを わからせないと。
しずかちゃん:どうやって?
ニャン太:浮気するのさ。
しずかちゃん:浮気!?
ニャン太:そう。浮気。
しずかちゃん:誰と!?
ニャン太:俺と。
しずかちゃん:ムリムリ。
ニャン太:なんで?
しずかちゃん:のび太さんに悪いわ。
ニャン太:悪くないよ。悪いのはのび太だ。
しずかちゃんに、ちゃんと愛を伝えないのび太が悪い。
だから、しずかちゃん、おいで。
しずかちゃん:でも……。
ニャン太:……悪いなって気がする?
しずかちゃん:う、うん。
ニャン太:じゃぁ。こうしよう。のび太にお灸を据えるための演技だよ。
それならいいでしょ?
しずかちゃん:まぁ。演技なら……。
ニャン太:よし。決まり。
じゃぁ。いまから「恋人」のつもりで接していくからね。
しずかちゃん:う、うん。
ニャン太:えっと、呼び方だけど……。
のび太には、なんて呼ばれている?
しずかちゃん:(少し照れながら)しずか
ニャン太:呼び捨てか。OK。
じゃぁ。ボクも呼び捨てにさせてもらうよ。
しずかちゃん:(少し困惑しながらも、仕方なしという表情で)は、はい。
にゃん太:ありがとう。ボクのことは、「ニャン太」でいいからね。
しずかちゃん:わ、わかった。
ニャン太:じゃぁ……。さっそく。しずか……。こっちへおいで。
しずかちゃん:(少しニャン太のほうに近寄る)
ニャン太:(近寄って来たしずかちゃんをグッと引き寄せる)
しずかちゃん:!!!
ニャン太:だいじょうぶ。なにもしない。
でも、こうやって肩を寄せ合っている姿を「のび太」が見たら
どう思うかな?
しずかちゃん:!!!
ニャン太:なにもないって言っても信じないだろうなぁ。
しずかちゃん:!!!
しずかちゃん:そ、そんな……。
しずかちゃん:ニャン太さん、だって、これは のび太さんにお灸を据えるための「演技」だって言ってたじゃない!!
ニャン太:ああ。そうだよ。「演技」だよ。
でも、のび太の嫉妬や、ボクの気持ちは「本物」偽りがないよ。
だから、ドッキリでしたぁ。とか、嘘だよ~。
なんてのは通用しないだろうね。
キミも子どもじゃないんだから、
それぐらい分かっていると思っていたんだが……。
めんどくせーな。
もういいや。いらね。のび太のところ帰れ。
しずかちゃん:えっ?
ニャン太:(軽く舌打ち)聞こえなかったのか?
のび太のところ帰っていいって言ってんだよ!
しずかちゃん:(ぽろぽろと泣く)
ニャン太:……どうした?
しずかちゃん:(LINEをニャン太に見せる)
ニャン太:!!!
しずかちゃん:……(泣きながらしゃべってる感じで)か、帰る場所……
な、なくなっちゃった……(泣き崩れてしゃがみ込む)
ニャン太:そうか……。悪かったなぁ。責任取るよ。
しずかちゃん……。ボクのお嫁さんになってください!!
しずかちゃん:は、はい。
ニャン太:やったぁ。ありがとう。
これで願いが叶った。もう偽りの姿(人間の姿)じゃなくて、
本来のボク(ネコ型ロボット)でいていいんだね?
しずかちゃん:へっ?ロボット?
この姿は偽りなの?
つまり、私は偽りの姿を愛してたの?
う、うそだ……。そんなの嘘よ。
ニャン太:嘘かどうかは、すぐわかるさ。
ボクの本当の姿を見て、さっきのような「甘い気持ち」がなく、
あってもなくても、いてもいなくてもいい。
そんな気分になったのなら、「偽り」だよ。
それは、ボクを愛したんじゃなくて、
「ちゃんと自分に愛を伝えてくれる異性」に傍(そば)に
いてほしかっただけ。
その欲求を満たすのに手ごろだっただけなんだよ。
そして、ボクもそれを承知の上だった……。
だから気にしないでいい。
しずかちゃん:でも……。
ニャン太:(わらう)……。そうは言っても気になるんだろ?
いいんだよ。ほんとに。何もなかったんだ。だからもう泣かないで。
ほら。笑って。
しずかちゃん:う、うん。
(無理して笑って見せようとするがうまく笑えない)
ニャン太:ああ。やっぱりボクじゃ、力不足かぁ。
困ったなぁ。彼女を救える、笑顔にできる男この辺にいないかなぁ。
(扉が開く)
しずかちゃん:!!!
しずかちゃん:のび太さん!!なんでここに?
のび太:なんでって……。ニャン太からLINEが来て。
しずかちゃん:なんて?
のび太:(LINEを見せる)
しずかちゃん:!!!
のび太:……。悪かった。
ニャン太の誘いに乗るほど苦しんでいたなんて……。
これからは、ちゃんと愛を伝えるから、戻っておいで?
しずかちゃん:でも……。
のび太:だいじょうぶ。ニャン太もそれでいいと言っている。
しずか が、したいようにしていいんだよ。
これからの人生、どっちと歩んでいきたいかい?
しずかちゃん:そ、それは……。
のび太&ニャン太:それは?
しずかちゃん:の、のび太さんです!!ニャン太さんごめんなさい。
ニャン太:……。やっぱりそうなるよね。
はいはい。消えますよ。
しずか、気にするなよ。
俺も本気で結婚してくれなんて言ったわけじゃねーし。
演技だよ演技。
しずかちゃん:そ、そだよね。演技だよね……。
ごめんね。傷つけて。
ニャン太:だーかーら。傷ついてないって言ってんの!
おらおら。さっさといけ!
おい、のび太!こんどこそちゃんとしずかちゃんのこと、
しっかりと捕まえておけよ。
おまえがちゃんと、しずかちゃんに愛を伝えないなら、
こんどこそホントに奪うぞ。
そのつもりでいろよ。
のび太:ああ。わかったよ。これからは、ちゃんと伝える。
二度と不安にさせたり、泣かせたりしないといまここで、誓うよ。
(しずかの前に行き、ひざまずく。)
しずかさん、ボクのお嫁さんになってください。
しずかちゃん:は、はい!!!
のび太:よかったぁ。
(安心して体の全部の力が抜ける感じでしゃがみ込む)
イヤよ。とか、なにをいまさらとか言われたら、
どうしようかと思ったよ。
しずかちゃん:www
しずかちゃん:たしかに。まぁ。いまさら感はあったよね。
でもね、こういう障害を越えてのプロポーズは、きっと価値がある。
「偽り」じゃないと思うの。だから、OKしたのよ。
のび太:そ、そか。そだよな。
う、うん。こ、これからもよろしく。
そういいながら、のび太さんは私の薬指に「指輪」をはめた。
そして、すごく照れながら「愛しています」と伝えてくれた。
その言葉は、どんなものよりも価値があった。
ニャン太が教えてくれたもの。それは……。
「向き合うことの大切さ」だった。
もう。にげない。
自分とものび太さんともちゃんと向き合う。
そして、ちゃんと伝えていく。
でも、愛には「かたち」がない。
かたちがないと、わからない。
だから、「かたち」を与える必要がある。
それを、形にしたのが「契約の指輪」であり、「愛の言葉」なんだと思う。
そして、それを受け取るのが女の役目なんだと思う。
いまふたりは、やっとホントの意味で「夫婦」になった。