【台本】もしも、信長と本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)がZOOMをしたら。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):今日は、出かけずにして、話せる「ずーむ(ZOOM)」とか申すものを使うようじゃが……。
秀吉:はっ。申し訳ございませぬ。おやかた様は、あたらしもの好きなゆえ……。巻き込んでしまって申し訳ありませぬ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):よいよい。どうせ、すぐ飽きるじゃろ。ところで、信長はまだか?
秀吉:はっ。申し訳ありませぬ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):あやまらなくてよい。早く連れてきなさい。
秀吉:はっ。実は、もう「待機」しておりまする。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):なに?どこにおる?
ここにはおらぬぞ?
そこか?そこに隠れておるのか(隠れられそうなところをガラッとあける)
おい!秀吉!お前の主は、どこにおるのじゃ?
はよ姿を見せろ!
秀吉:本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さま。少し落ち着かれてください。いま、三成にお茶を持ってこさせますゆえ。
それを飲んで、落ち着かれてから、おやかた様と話してくだされ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さままで、興奮していては、
まとまるものもまとまらぬゆえ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ……。では、そうしよう。
秀吉:三成、三成はおるか?
三成:はい。ここに御座います。
秀吉:おお。そこにいたか。では、話は聞こえていたな。
三成:はい。
秀吉:では。頼んだぞ。
三成:はい。かしこまりました。
(秀吉・本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)無言で茶を待つ。)
(10分後……。)
三成:秀吉さま、本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さま。
大変お待たせ致しました。
秀吉:うむ。待っておったぞ。
念のため、毒見をさせよう。三成、例の小童を連れてまいれ。
三成:例の?
秀吉:ほら。この間、茶碗に下手な絵を描いたはなたれ小僧がおっただろうが。あやつじゃよ。
三成:ああ。あのはなたれ小僧ですか。
秀吉:そうじゃ。
三成:あやつは、その辺にいたガキですので、いまどこにいるのか
とんと見当もつきませぬ。
秀吉:なに?あのあと帰してしまったのか。
三成:はい。
秀吉:そうか……。そうなると、誰に毒見をさせたものか……。
(秀吉、外を見る。ちょうど、野良犬が1匹通る)
秀吉:そうじゃ。あの野良犬に、このお茶を少しだけ飲ませてみればよい。
万が一、死んだときは、毒見の功績を称えて、丁寧に埋葬してやろう。
三成:よきお考えかと思いまする。
ね?本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さん。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ。
秀吉:では、そのようにしてまいれ。
三成:はい。
(三成、茶を少しだけ小皿に乗せ、野良犬に与える)
(3人とも犬の様子に変化がないか注意深く見る)
秀吉:どうやら、大丈夫のようです。
お召し上がりください。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ。ではいただこう。
(茶を飲み干す)
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):これは誠にうまい茶だ。
こころが落ち着いた。
秀吉殿、取り乱してすまなかった。
もう大丈夫だ。おやかた様と話をさせてくれまいか。
秀吉:それはようございました。
それでは、こちらの革新の間へどうぞ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ。失礼する。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):な、なんじゃ?
このけったいな箱は。しかも、箱のくせに薄いぞ。
蓋らしきものもない。
な、なんじゃ?これは?
秀吉:本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さま。落ち着いてくださいませ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):これが落ち着いてられるか。
こんなけったいなもの初めてみたわ。
もしや……。これが、「ずーむ(ZOOM)」とやらか?
秀吉:いいえ。これは、「ずーむ(ZOOM)」ではありませぬ。
ですが、「ずーむ(ZOOM)」をするために必要な「ぱそこん」という
けったいな機械です。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):ふむ。なるほど……。
それで、このけったいな機械をどうやって操作したら、信長と話せるのだ?
秀吉:この「ずーむ」とかいう「あぷり」を「だうんろーど」とか申すことをして……(カチャカチャと習った通りに秀吉が行う)
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):ほう。秀吉殿は、このようなものも扱えるのか。信長は、家臣に恵まれとるのぉ。
儂(わし)は、わからんから、準備ができたら呼んでくれ。
おい。三成!三成はおらぬか!
三成:なんでございましょう。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):さきほどのお茶、うまかった。
もう一服(いっぷく)所望(しょもう)じゃ。
三成:かしこまりました。
(三成、退室)
(10分後)
三成:(襖(ふすま)を開け、入室)
三成:お待たせ致しました。お茶でございます。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ。うまい。
わたしの状態を把握して、適量適温で出してくる。さすがじゃ。
三成:おほめに預かり、光栄でございます。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):さて、そろそろ準備とやらも終った頃かのぉ……。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):秀吉、準備はできたかのぉ。
秀吉:本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さま、はい。いまちょうどお声をかけようと思ったところでございます。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):うむ。そうであったか。
それでは、さっそくその「ずーむ(ZOOM)」とやらで、信長と話そう。
秀吉:は、はい。おやかた様(殿でもOK)も、まだかまだかと首をなごうしてまっておられますゆえ……。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):わかっておる。あまり刺激し過ぎるな。ということじゃろ?
秀吉:はい。その通りでございます。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):大丈夫じゃ。心得ておる。
なんせ、信長は、儂(わし)の最大のライバルじゃからな。
秀吉:・・・・・・。
秀吉:こちらでございます。
(みーてぃんぐに参加するをクリック)
信長&本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)
おお!!映ったぞ!相手の顔がちゃんと見えておる!!
本当に会う(おう)っているようじゃのぉ。
信長:これは、便利じゃ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):まっこと。便利じゃ。
信長:(興奮したまま)どれどれ。こうしたら話せるのかな?
信長:(第一声はなににするか考えるが思いつかない)
信長:ふむ。最初の一声はなにがいいかのう。秀吉、何かいい案はないか。
(この質問が音声として届いてしまう)
秀吉:あっ!
信長:どうした?
秀吉:いまのわたくしめへの問いかけ、すでに「声」として
届きましたゆえ、この問いかけが「第一声」です。
信長:なに?初回は1回しかないのに、お前への問いかけで使ってしまったとな?そんなのこの儂(わし)がゆるさん。ナシじゃナシじゃ。
今のは、ナシじゃ。
秀吉:おやかた様……(殿……でもOK)、お気持ちはわかりますが、
それはできぬことでございます。
なので、諦めてください。
信長:イヤじゃ。
秀吉:わかりました。ではこうしましょう。
わたくしも、本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)さまも
なにも聞いておりませぬ。ですから、今一度どうぞ。
信長:聞いてないのに今一度というのは、おかしい気もするが……。
まぁ。よい。ゆくぞ!
秀吉:どうぞ!
信長:本願寺顕如(ほんがんじけんにょ)元気~?
秀吉:(ぽかーん。)
秀吉:(あんだけ、大騒ぎしてふつーすぎ。それに、ライバルにこの気安さ。さすがじゃ……)
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):(ノリを合わせて)
あー。信長じゃん。げんきげんき。信長はどうよ?
秀吉:(ぽかーん。)
秀吉:(あーあ。ノリ合わせちゃったよ……。こりゃ長くなるな……。)
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):(秀吉の気持ちがまるで見えてるかのように、真剣モードに切り替わる)
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):ところで、今日の話とやらはなんだ。
儂(わし)も忙しいゆえ、端的に願いたい。
信長:うん。わかった。あのね。ボクね。石山本願寺がほしいんだぁ。
だから、それの明け渡し命令とか出しちゃおう思って~。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):な、なに!そんな重要なことをそんな
軽いノリでよく言えるな!!
聞きしに勝る「うつけ」じゃ。
信長:いやぁ。褒められちゃった。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):はっ?ほめてねーし。
信長:ほめたじゃん。うつけって。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):えっ?それ、褒め言葉なの?
信長:ああ。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):そうだったのか……。
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):(がっくし)
それはそうと、さっきの発言本気?
信長:うん!
本願寺顕如(ほんがんじけんにょ):・・・・・・。
突然の爆弾発言に、驚くものの、信長は、石山に城を建てる前に
「本能寺の変」でこの世を去り、あとを引き継いだ秀吉が、
石山に「大阪城」を建てた。
ゆえに、この「ずーむ(ZOOM)」とやらによる会話は、
とても貴重な体験となり、記録に残されることになる。
そして、時が流れ、秀吉らの末裔が生きる時代では、当たり前のように
使われていると聞く。
その時代の流れのはやさに、少しさみしさを感じる秀吉らであった。
【完】