【台本】感情のない世界。
俺:消えるがいい!
知人:えっ?
俺:ああ。ごめん。きみのことじゃなくて……。
知人:ではなに?
俺:俺にある醜い感情(読み:みにくいもの)すべて……。
知人:・・・
知人:感情だけ?
俺:イヤ……。感情(読み:かんじょう)だけではなく、
俺が気に入らないもの、なくなってほしいと思っているものすべて。
知人:じゃあ……。いわゆる欠点も?
俺:ああ。
知人:でも……。
俺:でも?
知人:それって何だか人間っぽくない気しませんか?
俺:ん?人間ぽくない?
知人:ええ。
俺:その「ぽさ」にどれほどの価値がある?
知人:価値というか……。
その、あって当たり前というか、
ないとAIと変わらない気がして……。
俺:だとしても、なんの不都合がある?
余計なものに惑わされなくなっていいではないか。
知人:ほんとにそう思われますか?
俺:ああ。思うね。
感情なんてものは邪魔なだけだ。
神様も余計なものを付けたもんだ。
知人:はぁ……。
でしたら、一度行かれてみますか?
俺:どこに?
知人:感情のない世界に。
俺:ほぉ。
そんなものがあるのか。
知人:ええ。
今いる世界で起きてれば感じるであろう
喜怒哀楽などの様々な感情は、ひとつもないです。
ネガティブな感情だけいらないとかそういうことはできません。
俺:なるほど。
都合よく、ネガティブな感情だけ排除することはできないが、
「感情がない」とはどういうことか、体験はできる。
こういうことかな?
知人:はい。その通りでございます。
いかがなさいますか?
俺:うむ……。
少し怖い気もするが行ってみたいが……。
決定する前に訊ねたい(読み:たずねたい)ことがある。
知人:なんでしょう?
もし、その世界が気に入らなかったらこっちの世界に戻って来れるか?
知人:ええ。
俺:なるほど。
では逆に気に入ったら、一生住むことも可能か?
知人:ええ。
俺:わかった。
では、行ってみたい!
知人:かしこまりました。
ではこちらの椅子にお座りください。と
魔法陣の中に置かれた椅子に座るよう言われた。
そして、言われるがままにボクは、
その椅子へ座った。
すると、紫の光が魔法陣から出てボクを包み込んだ。
そして次の瞬間、椅子ごと浮き、そのまま光の束へ突入した。
どのくらいたっただろう……。
気がつくと、赤レンガのまちにある風車の近くにドサッと落とされていた。
その痛さで目が覚めると、ボクが乗ってきたハズの椅子はなく、
ボクがひとり、芝生の上に倒れているだけだった。
よかった……。誰もいない。変に思われたら嫌だもんな。
さて、これからどうしよう……。
そんなことを思いながら、なにはともあれ、立とうとするが、
あっちの世界からこっちへ移動するのに、
そうとうエネルギーを使ったのか、立てなかった。
そこで、仕方なくそのまま横になっていると、
大人と子どもの中間ぐらいの年頃の女がやってきて、
お兄さん、旅人さん?と聞いてきた。
本当のことを言っても信じないだろう。
だから、ああ。と答えることにした。
すると、やっぱり!
だと思った!令和って時代から来たんでしょ?と女は言った。
!!!
俺:なんでわかった?
女:だって、その服歴史の教科書に載ってたよ。
令和時代のファッションって。
俺:!!!
歴史の教科書に?
ということは未来?
女:んー。どーだろ。
少なくとも、あなたがもといた世界で、
大多数の人がイメージした「未来」ではないわね。
俺:じゃあ。なんなんだ?
女:あら。忘れたの?
あなた「感情のない世界に来たい」
いったでしょ?
俺:ああ。
女:その世界よ。
俺:なんだって?ほんとか?
女:ええ。
俺:では早速、町へ行こう。
案内してくれ。
女:待って。
その格好では目立つわ!
お兄ちゃんのお古で悪いけど、
ひとまずこれに着替えて。
町についたら、もう少しいいのを買いましょう。
俺:ああ。
ありがとう……。
女:ほっ。よかった。
サイズピッタリだわ。
それでは、行くわよ!
そういうと、彼女は、ボクの手を取り、
3つの扉の前に立った。
そして、ボクにこう言った。
女:さあ。選んで。
俺:え?
女:この3つの扉は別々の世界(読み:まち)へ繋がっています。
好きな扉をお選びください。
俺:お選びください言われてもなぁ。
ノーヒントかい?
女:そうですね……。
では、少しだけ情報を与えましょう。
女:赤の扉は、とにかく熱いものを持っている人が多い。
価値観は、あなたのもといた世界(読み:せかい)に一番近い。
俺:なるほど。
女:金色の扉は、それはそれは眩しい世界。
感情はまったくない。けれど、豊か。
俺:なるほど。
女:みどりの扉は、癒やし。ゆったりまったりした世界。
争いごとはない。もちろん、感情もない。
俺:なるほど。
女:どれにしますか?
俺:そうだなぁ……。
金色の扉!これにします!
女:わかりました。では参りましょう。
俺:ああ。
女:しっかりと私に抱きついてくださいね。
俺:わ、わかった。
女:では参ります。
光の神よ。我らを黄金の町へ導き給え(みちびきたまえ)
そう彼女が唱えると、僕らのまわりだけ金色の光に包まれた。
そして、一瞬にして移動してしまった。
ついた先では、けったいな服を着た人間が来たと
上から下まで舐めるように見られ、身体チェックを受けた。
そして、怪しいやつではないとわかると、
急に歓迎ムードに代わり、
質問攻めになった。(読み:しつもんぜめ)
あれ?ここって感情のない世界じゃ……。
感情がないなら、こんなに興奮して色々質問するはずない……。
そう不思議がっていると、
長老とお見受けする人物がボクの前に立ち、
長老:お待ちしておりました。
どうぞこちらへと、とても派手で厳つい(読み:いかつい)椅子へ座るようボクを促し、座ると皆が(読み:みな)が膝まづき、懇願してきた。
ここは、感情のない世界です。
ですが、ただひとつだけ残されたものがあります。
俺:なんだ?
長老:「好奇心」です。
俺:ほぉ。
長老:ですが……。
俺:ですが?
長老:それゆえ困っております。
俺:なぜ?
長老:好奇心を満たそうとすると、
こころの奥が疼く(読み:うずく)んです。
俺:それは……。
長老:ええ。感情が出たがってるんです。
俺:なら、出してやればいい。
長老:いいえ。なりませぬ。
感情は、魔物です。
魔物を出してはなりませぬ!
俺:そうか?
でも苦しいのだろう?
長老:ええ。
だから、助けてほしいのです。
感情のある世界から来た御仁(読み:ごじん)なら、
きっと解決できるはずです。
どうかどうかお願いします!
俺:うーん。そう言われてもなぁ。
どうしたらいいか……。
返事は少し待ってくれないか。
長老:はい。では、3日待ちます。
3日目の夕陽が沈むまでにお返事をください。
(連絡先を渡す)
俺:ああ。わかった。
では。
(宿へ)
俺:ふー。疲れた。
さてと、どうするかな?
(『感情のない世界で困ったときは』というお守りBOOKをパラパラとめくる)
俺:なるほど……。
すると、心から信頼できる友と
聖水と薬草。そして、魔法陣。
それと……友を召喚(読み:しょうかん)する為に、
ムーンサファイアと、エンジェルストーンが必要。
そして、満月の日に、誰にも見られない場所に、魔法陣を描き、
その中央に置き、呼びたい人の名前を7回唱える。
すると、光の柱が出てきて、友を召喚できる。
俺:なるほど。
あい。わかった。
では早速…。
次の満月は……。
10/31か……。
なるほど……。
では、この日にしよう。
呼ぶのは……。ともにしよう!
よし。これで準備は整った。
長老殿に連絡しよう。
(連絡する)
長老:おおっ!おはやいお返事ありがとうございます。
準備が整ったとな?
それはつまり……。
引き受けてくれる。ということでよろしいかな?
俺:はい。
長老:おおーーー!
皆(みな)の者聞いたか?
引き受けてくださったぞ。
まことありがたい。
救世主、いや神じゃ。
(そこにいた者、全員うんうんと頷く)
長老:めでたいめでたい。
宴じゃ。宴の準備をせよ!
そして、神の友がこの町に来るまで、
宴をするのじゃ。
さすれば、すぐ我らの目の前に現れるであろう。
そう長老がいうと、一瞬空間が歪み、
世界が暗く、黒くなった。
だが、次の瞬間、光の柱が現れた。
そして、ともが現れた。
それを見た住人たちは、はやく、こちらへと
ボクの隣に用意された銀色の椅子へ座るよう促した。
そして、座ったのを確認すると
ボクらに懇願してきた。
感情のない世界の住人:実は……。
我らも元々は感情のある世界の住人でした。
ですが、感情に振り回されるのが嫌でこちらの世界に来ました。
すると、なにも文句が出なくなりました。
俺:いいことではないか。
感情のない世界の住人:・・・。
そう思われますよね?
私も当初は、そう思いました。
だから、帰るという選択をしなかったのですが、間違いでした。
俺:うん?
感情のない世界の住人:文句が出ないのは、満たされてるからではなく、
感情がないから、何も感じない。わからないのです。
だから、不満や文句は出ないし、満たされることもない。
それだけだったのです!
俺:なるほど。
それで?
感情のない世界の住人:わたくしは…。わたくしたちは……。
こころから満たされたいと思うようになりました。
そして、そのためにどうすればいいか調べたところ、
感情のある世界から来た人に助けてもらうしかない。
という結論にあいなりました。
俺:なるほど。あい。わかった。
どうだろう?とも手伝ってくれるか?
とも:もちろんだよ。そのつもりで来てるからね。
さあやろう。
そういうと「とも」は、席をたち、
ボクらの座っている椅子と、
そこに居合わせた町の人全員が入れる大きな魔法陣を描き、
こう叫んだ!
『感情の神エモよ!我らに「感情」を再び与えよ!』
(感情の神、登場)
感情の神エモ:あい。わかった。では、これを与えよう。
俺:こ、これは?
感情の神エモ:魔法水(まほうすい)じゃ。
俺:魔法水(まほうすい)?
感情の神エモ:さよう。
俺:これをどうすれば?
感情の神エモ:それをな、毎日1滴だけ飲むのじゃ。
するとな、3ヶ月後には、すべての感情が、お前たちの肉体に再び宿る。
俺:ほ、ほんとですか?
ありがとうございます。
(感情の神、満足そうな笑顔)
感情の神エモ:では。これでもう儂(わし)の役目はおわりじゃ。帰るぞ。
なんせ、神の国からこっちへ来るのは、
とてもエネルギーがいるから、疲れるのじゃ。
俺:は、はい。
わかりました。ありがとうございます。
(感情の神、満足そうな笑顔)
感情の神エモ:うむうむ。よいよい。
これでよいのじゃ。
人間というのは、欠点があるから、感情があるから魅力的なんじゃ。
そのことを忘れるでない。
それだけいうと、神は光の束のなかに消えてしまった。
そして、その後に残されたのは、
「本当のあなたを取り戻せ!」という
メッセージと魔法水だけだった。
しかし、そこには世界中の愛を集めたのでは?
というほどやさしい空気が流れていた。
【完】