落とす
まだ黒土の田んぼと、背の高い枯れ草のあいだの砂利道を歩いていると、なにかを落とした気がして あ とおもって振り返る。
道の両脇のちいさいイネ科の草たちにまぎれてホトケノザ、オオイヌノフグリ、あとは白い道が一本、枯れ草のうしろにまわりこんですぐに視界から消えるだけ。種もみたことないのに季節になれば咲くんだ。
なにも落とさなかったかもしれないし。通ってきた道はおもいもかけず蛇行して、歩いてるときは気づきもしない。敷かれた砂利はくもった空を反射もせずに、それでもこれは光ってるっていうんだろうか。水気を含んだような灰色の土がその隙間からしらじらと。ときどき、かどの削れて白くなった貝殻の欠片なんかが混じっている。洋服の上からポケットを叩いてみて、失くなったものはありそうでなさそうで、わからない。
いつまでもそうして立っていられればいいんだけれど、進まないわけにもいかなくて、雨とか降ってきちゃえばそれは歩きづらくはなるけれど、ふえた用水路の水が低い澄んだ音をだすのに。すぐに忘れる音。
また歩く。あきらめたつもりでまだポケットをぱんぱん叩いてたりする。
いままでだっていろんなものを、失くしたのか失くしてないのかわからないまま歩いてきたんだけれど。
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