さざなみ書評『成功する音楽家の新習慣』

 現代は、価値観や技術が短いスパンで置き換わる時代になってきました。一つの物事に集中して取り組んでいれば食っていけた時代とは異なり、常に考え、新しい物事を取り入れ、学習していく必要性があります。

 そのような環境では、音楽という趣味に費やす時間も十分に確保できるとは限りません。これは比較的時間のある学生でも同様で、様々な娯楽や文化に触れて価値観を広げていく上でも、余暇の多くを音楽だけに費やすのはお勧めできません。
 故に、単なる趣味やサークル活動であっても、いたずらに時間をかけるのではなく、できる限り短い時間と労力で確実な効果を上げていく必要があります。

 日本におけるプレクトラム音楽において、資金や環境に恵まれている一部の団体を除き、プレクトラム楽器の奏法は先輩や時折顔を見せる指導者に教わるのが普通です。そうした場では、テクニックや音楽を学ぶことはあっても、「練習法」そのものを教わることはあまりありません。
 勘が良い運動部出身者(偏見)や、好奇心が強く色々試そうとする人、あるいはレッスンなどで短いスパンで個人的に指導を受ける学生は順調に成長していくでしょう。しかし、ただ真面目なだけの不器用な方は練習法を知らないまま漫然と効果の低い反復練習だけを繰り返し、成長に取り残される事がままあります(そういう方が物量で何とかするケースも少なからず)。

 そこでお勧めしたいのが、こちらの書籍です。

 本書では、実際に楽器を触る前のイメージトレーニングの実践方法、反復練習のプロセスなど、「如何にして練習するか」という点に着目した具体的な方法論が数百ページにわたって記されています。例えば、『新曲の取り組み方』一つについても、

1.全体像をつかむ
2.解釈の地図を作る
3.テクニックの地図を作る
4.地図にもとづいて演奏する

(『成功する音楽家の新習慣』p.52)

の4プロセスに分けられ、それぞれの手法が細かく解説されています。
 その後は、芸術性を高めるためのステップとして『反復練習の原則』が解説される…という風に音楽練習にかかわるあらゆる取り組みが具体的なプロセスとして記されています。

 この本を読んでその通りに練習を進めれば、無駄に何時間も楽器を弾き続けることは無くなるでしょう(そもそもこのレベルで思考しながら練習すると凄く疲れるので、続けて何時間も弾くことはできません。)

 帯に「一生使える音楽家の教科書」とあるように、プレクトラム音楽に限らないあらゆる楽器、音楽に適用できる一冊です。また、ページ数は多くありませんが、曲作りに関しても非常に具体的に示されており、音楽家の指導を受けたことがない人には特に参考になると思われます。本番の緊張についても「場慣れ」みたいな曖昧なアドバイスではなく具体的な対策が挙げられています。

 自分ひとりでも考えながら練習できている!という方には不要な一冊かもしれません。しかし、そのような方は多くはありません。というかほとんどいません。
 伸び悩んでいる大学の2~3年生や、社会人になっても独学で楽器を続けていきたいという方は是非ご一読ください。


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