さざなみ書評『ベルリンうわの空』

 従業員の大規模ストによるプレクトラム結社の公演中止。その報を受けても、きっとあなたは何のその。総帥の邸宅でトレモロをやめない孤高のムニエル人形のように、今日もご自宅で演奏に磨きをかけていることでしょう。しかし演奏会というリベラルな社交の場を失った、プレクトラムという共通言語なき社会は精神的なストレスの温床であり、趣味以外で自分を貫くのはなかなか難しいものです。アゴーギグをきかせることもままならずタイトな拍感で走り続ける日常を過ごしていると、他人のつくった「正解」から逃れるための方法がほしくなりますよね。そんなあなたにピッタリの、すてきな本を紹介させてください。

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 『ベルリンうわの空』は、「自分を貫けるこの街=ベルリンが好きだ」という思いを慎重に確かめていく主人公がとても魅力的なエッセイ漫画です。下世話な広告がなくて、貧困支援の工夫が根づいていて、不思議なシールが好奇心をくすぐる・・・。異国の文化を一つ一つそしゃくして(たまに)行動する作者の生き方は、自分の生活やコミュニティを小さな工夫で楽しくしていく、とても軽やかなものです。そのどれもが、日本に生きる私たちにも真似できそうな内容であり、自分のテンポを大切にするためのヒントで溢れています。

 プレクトラム結社の意味不明さを愛する人なら、解き明かされるシールの謎にも、きっと心を動かされることでしょう。カヴィヴァラさんはマーケティング思考から生まれない。他者や社会に目をむけつつも、いちばん自分に合った方法でやりたいことをやるのが吉だ。「そういうシンプルな考え方でいいじゃん♪」と思わせてくれる住人たちが、漫画の中のベルリンであなたを待っていますよ。

文責:モラトリくん

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