マンドラ雑感の雑感
かつてマンドラ雑感というウェブサイトがあった。東京のポルタビアンカマンドリーノ発起人であるおかテリ氏が運営していたマンドリン関係の情報を発信するウェブサイトである。プレクトラム業界に身を投じた人であればご存知の方もいるかも知れない。
SNSによる情報発信もほとんどない2000年代前半、Youtubeでマンドリンと検索すればワンナイ黒木によるマンドリン物真似が1位にヒットした時代。地方都市のマンドリンクラブでプレクトラム業界の情報を得ようと思えばOB・OGのマニアに話を聞くか好事家が開設しているウェブサイトを徘徊するしかなかった私にとってその存在は福音だった。
1日A4サイズ200枚までが無料で利用できた大学の電算機室のプリンタをフル活用すべく毎日通い詰めてマンドラ雑感を印刷し、分厚いクリアポケットファイルに挟んで膨大で多岐にわたる内容を飽きもせずに読みふけっていた。それは、貴重な資料を見つけた考古学者や聖書研究家のようであった。
その詳しい内容を書き連ねることは私の文才ではできないし、おかテリ氏に敬意を欠くことになってしまうだろう。
けれどマンドラ雑感に語られた奏法論はムニエル教本20番をテンポを1ずつ上げながら限界まで挑戦するといった闇雲な練習に明け暮れた私を確実に方向付けたし「技術でなく音楽が聞かれる演奏会を」というテーゼは今なお私の中に生き続けている。
マンドラ雑感はもう見ることができない。アクセスすると、Yahooがむなしくサービス終了を告げるだけだ。私のファイルも度々の転居の中で散逸してしまった。ワールド・ワイド・ウェブの混沌で、検索できないものについては沈黙しなければならないのかも知れない
だが私は言明する。マンドラ雑感は確かにあった。アマチュア奏者として活動するロールモデルがそこにはあったのだ。
プレクトラム業界の片隅ではあるが、マンドラ雑感の偉業を讃えるとともにおかテリ氏に敬意と感謝を込めてこの雑感を終わりにする。
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