知人の訃報を受け、5年ぶりに地元へ帰った
知人の訃報を受け、5年ぶりに地元へ帰った。
葬式まで時間があったので、商店街に向かった。閑散としたアーケード街を歩いていると、建物の影から野生のカヴィヴァラが現れ、トコトコとこちらによって来た。地元を出てから知ったことだが、この地方は野生のカヴィヴァラの生息地として知られているらしい。一般的に食用、愛玩動物として知られているカヴィヴァラは時間をかけて家畜化された別種であり、野生種はここにしかいない。
カヴィヴァラはかわいらしく首をもたげ、くんくんと私の足元でにおいをかいでいる。せっかくなので、このまま山の方へ向かった。
元々この地方は険しい山々と海に囲まれ外部から孤立していたため、生物は周囲の影響を受けず独自の進化を遂げてきた。珍妙な形態や独特な生態を持ち、天敵も少ないためカヴィヴァラのように人を恐れないどころか寄ってくるような動物も多い。
しかし、その警戒心のなさが災いし、人間の入植以降、数を減らし続けている。現在確認されているのは百頭未満で、遺伝的な多様性が確保できない事から絶滅は不可避と言われている。過去には家畜化したカヴィヴァラと交配させるプロジェクトが計画されたが、過激な保護団体から反対を受けてとん挫した。
更に奥地に進んでいくと、開けた草原が見えてきた。数匹のカヴィヴァラが集まって何やらせわしなく動いている。今の季節はカヴィヴァラの繁殖期で、中世音楽家のような両耳をダイナミックに動かしながらメスにアピールしていた。この地方にまだ人がいなかった頃、このような光景があちこちで見られたのだろうか。
時間が迫ってきたので、山を後にした。
町は人がいるとは思えないほど静かだった。商店街はシャッターに囲まれ閑散としており、街灯が不規則に点滅していた。
葬儀に出席し、久しぶりに会った友人たちと会話したが、誰も町に残っていなかった。カヴィヴァラと同じく、このまま町は静かに死んでいくのだろう。何とか生きながらえてほしいと無責任に思った。
(この話はフィクションです)
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