『ベル・アンド・セバスチャン』全スタジオアルバム紹介!【音楽】
はいということで本日は多くの良質なポップ・ミュージック作品で世界の音楽ファンを魅了し続けるグラスゴーのバンドベルアンドセバスチャンの全スタジオアルバムを解説していければと思うですが、
ベルアンドセバスチャンは1996年に現在のバンドフロントマン Stuart Murdochとスチュアート・デイヴィッドが大学のビートボックスプログラムで出会いスコットランドで結成されました。
それまでバンドフロントマンの Stuart Murdochは7年ほど実家ニートでピアノに向かい作曲をすることが彼の唯一の楽しみでした。そして彼ら二人が出会うことによって彼らの運命が徐々に動いていきます。
以後二人でプロジェクトの一環としていくつかのデモテープを制作するようになります。
そのデモテープを聴いた大学運営する Electric Honey レーベルが感激をしフルレングスのアルバムを制作されることを許されたバンドはバンドのファーストアルバム共なるタイガーミルクを3日間で制作し1000枚限定アナログで販売しそれがクチコミで大反響を呼びstuart達はバンドにフルコミットし始めるようになります。
その頃から、二人はバンドメンバーをリクルーティングするようになり
Music Businessのクラスで出会ったのミュージシャン、サラ・マーティン(ヴァイオリンほか)スティーヴィー・ジャクソン(ギター)、クリス・ゲッズ(鍵盤)リチャード・コルバーン(ドラムス)イゾベル・キャンベル(チェロ/現在は脱退)が加わりバンドとして形をなし始めます。
彼らはthe smithsから多大な影響を受けていて歌詞だけではなくアートワークにもスミスのオマージュが含まれていることからスミスからの彼らの多大な影響を受けることができます、また結成当時に大きな影響を与えていたバンドにゾンビーズやLoveをあげています。
彼らのバンドの名前の由来は60年代のフランス女優 Cecile Aubryのベルアンドセバスチャンという小説からきています。
そんなこんなで大反響の一作目タイガーミルクは気だるいカジュアルなサウンドでありながら、煌びやかさも同居していてマードックの孤独な時間を短編集にしたかのような歌詞は憂鬱なこの世界で起きる出来事を俯瞰してみているような気分になります。
また彼の歌詞に出てくるshes losing itやmary jo等々でこの曲で登場する孤独を抱えた女性は悲劇の世界の中で生きる楽観的な女性を歌っています。
タイガーミルクの大成功後、彼らはインディーレーベルjeepstar recordと契約を迎え、同年1996年にstuartが引きこもっていた時期に書き溜めていた曲を教会に集まってはリハーサルを重ね5日間でレコーディングを終え2nd album 天使のため息をリリースします。
2ndアルバムは曲調や曲の雰囲気自体は一作目に似ているのですが、レコーディング面に置いてサウンドの質が上がり、ローファイサウンドでありながら細かな一音一音が一作目に比べ丁寧になっている印象です。またバッキングで鳴るイゾベルの声も非常に美しくハモっています。
彼らのアマチュアからメジャーへの転換期ともなっています。
世知辛い世の中を生きる人々を狐に例えて歌うfox in the snow や私がベルセバの中で一番好きなベルセバの完成された曲と言っていいほどキャッチーかつシニカルで毒のあるget me away from here im dying はスチュアートにしか書けない曲であり彼の当時の目に見えない世間の重圧や社会から開放されたい強い意思が込められています。
電車でいつも顔を合わせる少佐との関係性を歌うことで間接的に当時のイギリスの社会的な格差を歌ったMe &Major等々スチュアート独特の味が歌詞で非常に堪能できます。
ヴェルヴェットアンダーグラウンドやレフトバンドの60年代のバンドに受けているメロディーの置き方や音符と音符のスペースやオチの付け方は、オルタナティブの先駆けとなり
柔らかく物腰が弱いのに実はパンク精神に溢れたベルセバサウンドの基盤がこのアルバムで表現されています。
天使のため息から2年ミック・クック(トランペット/現在は脱退)を正式にメンバーに加え
彼らの3作目ののアルバムthe boy with the Arab strapをリリース
この頃から彼らは大きなライブをアメリカでも周り始めますが、天使のため息がタイガーミルクよりも劣っていると感じてしまったバンドは新しい考えをバンドに取り込みたいと考え移動式のスタジオで録音を開始しました。
このアルバムは彼らの代表作、名作中の名作と言っても過言ではなく、ベルアンドセバスチャンをこのアルバムで知ったという方も少なくないのではないだろうか。
アルバムのタイトルはthe smith の The Boy With The Thorn In His Sideから影響を受けており、
サウンドや曲の構成はベルベットアンダーグラウンドのthe velvet underground を想起させるナラティブも活用されたものになっております。
アルバムはイギリスでトップ12を果たしローリングストーンズや数々の雑誌に賞賛を浴びる一方でピッチフォーク等々のメディアでは酷評を受け現在はピッチフォークも賞賛していますが、当時はその新しい表現をパロディとこき下ろされるなど賛否両論別れることとなりました。
当アルバムは1998年グラスゴーでの彼らの夏休み、誰も邪魔をすることのない彼らだけでの時間に制作され、彼らの作りたい音楽をこれまでの作品に比べかなり時間を掛け制作されました。
このアルバムからイゾベルがメインの曲”Is It Wicked Not To Care”等々も入りよりバラエティ溢れる構成となっていてスチュアート自身これまでとは少し違ったものを意図的に制作するようになっていきます。
霧がかかったような"If Could Have Been A Brilliant Career"から始まり、
"Sleep the Clock Around"でこれまでのベルセバとは違う早いテンポと独特のシンセのメロディー
スチュアートとイゾベルのハモリはこのアルバムの第一印象を決定づけます。
5曲目のsummer wastingはスコットランドの涼しい夏と彼らの一番楽しかった時期をリマイドさせるふわりと軽やかなアコギと壮大なパーカッションを聴いた時にベルセバいいかもと思えます。
9曲目 the boy with the Arab strapでこのアルバムの伝えたいことをまとめます。
堪えきれない夏の閉塞感とアラブストラップ(性器具)をつけた少年に当てはめて歌う彼の行き場のない憂鬱をコミカルに陰鬱に歌う様は初期のベルセバの決定版と言っても過言ではないでしょう。
そして翌年1999年彼らは遂にBrit Awardの新人アワードを受賞することとなります。
今作は国内だけではなく海外でも有名になり映画やTVにも曲が使用され、結果的に彼らを一躍有名にさせます。
私自身ベルセバを知ったきっかけは500日のサマーという映画で今作の"Colour my life with the chaos of trouble"という歌詞がクオートとして使用されたことにあります。
そして3作目の大成功の勢いと共に4作目の制作に取り掛かり始めます。
この段階で結成メンバーのスチュアートデイビットが彼のサイドプロジェクトでもあったlooperというバンドに専念するためにバンドを脱退します。代わりにV-Twinよりボブ・ギルデアが加入。
4作目 Fold Your Hands Child, You Walk Like a Peasant(わたしのなかの悪魔)はこれまでの作品とは違いネオアコの要素が非常に強くなっています。
柔らかく陰鬱した表情は今作も変わらずコマーシャリズムを排除したベルセバ特有の強烈な独自の世界観が得られるインディー音楽とメジャー音楽の間に位置する大きな転換期となるアルバムとなっています。
これまでと同様独自の世界観が保たれながらも、これまでよりも大幅にバランスの取れたサウンドは聴きやすく、例えるなら飲みやすいブラックコーヒーのようなさっぱりとした味わいです。
ベルセバの中でこのアルバムが一番好きという声も良く耳にします。
パンク・ニューウェイブで述べられていた青年の怒りとは対照的に、このアルバムでは部屋に籠っている青年の妄想世界を表現している新しい反抗を提示してきます。
バランスがベルセバの中で一番取れていて、曲によって浮き沈みがないので彼らのアルバムの中で一番飽きずに聞くことができると思います。
2曲目のThe Modelと6曲目のthe wrong girl 11. There`s Too Much Love の煌びやかな電子ピアノと壮大なバイオリン、暖かな空間を作り出すギターベース等の楽器がこれまでのベルせばにはない真っ直ぐに明るいサウンドを奏で、 05. Don`t Leave The Light On Babyの軽やかなアコギとイゾベルの囁き、アラブストラップの完成度を保ちながら、それでいて視聴者にも寄り添った オルタナとメジャーの間の葛藤の中で作り出された音楽は彼らの最高傑作です。
2002年には映画のサウンドトラック『ストーリーテリング』を発表。しかし、中心メンバーであるイザベル・キャンベルがバンドの北米ツアー中に脱退(2011年現在はソロ活動をしている)。また同年、バンドはJeepstarレーベルを離れます。
この作品はベルセバの中でも語られることが少ない作品でもあり、映画ストーリーテリングの為に作られたサントラ的立ち位置の作品です。
ベルセバサウンドのメランコリーな雰囲気は保ちつつ、ボーカルがない分よりライトに力の抜けたスコットランドの草原を想起することができます。
ただ、これまでのベルセバを期待していると少しがっかりするかもしれません。
このアルバムを発表後、彼らは大手レコードレーベルラフトレードに移籍することになります。
そして発表された『Dear Catastrophe Waitress』このアルバムよりシングルカットというかたちでシングルがリリースされ始め、バンドのサウンドもインディーからもっとプロデュースされた洗練された音に変わっていきます。
初期の不安定な音楽とは反対に騒がしくニューヨークのような都会的なサウンドで、このアルバムを嫌いという人もいます。
個人的には「いい曲だけど、心に刺さらない」といった感じの曲が多いと思います。
今作のプロデューサーは「ラジオ・スターの悲劇」のヒットで知られるバグルスの元ボーカルトレバーホーン。彼がプロデューサーを勤めるとなった時、ベルせばファンの中で反発もあったとか。
そんな彼のプロデュースされたサウンドはひねくれがなく、
真っ直ぐした良い意味で聴きやすくポップ、悪い意味でこれまでのベルセバらしさが失われた一枚です。
2. "Dear Catastrophe Waitress
4. "Piazza, New York Catcher"
6. "I'm a Cuckoo"
とかなりポップで王道コードが使用されていることで
ベルセバに苦手意識を持っている方の入門レコードとして聞くこともできます。
3. "If She Wants Me"は踊るようなベースラインと優しいネオアコの音
実際この曲で当時中学生だった僕はベルセバへの免疫をつけることができたくらい、ベルセバらしさと大衆生を兼ね備えた、サウンドはポップにだけど詩には沢山の皮肉が込められている心地いい音楽だとおもっています。
10. "If You Find Yourself Caught in Love"
トレバーホーンの色が濃く出ていて、バグルスの音色をベルセバを楽しむことができます。
2006年、7thアルバム『The Life Pursuit』をリリース。全英アルバムチャートで8位、アメリカのBillboard 200で65位とセールスを記録します。
今作はベックのぐえろ等をプロデュースしてきた Tony Hofferがプロデュースを担当。
前作に比べ、より丸みを帯びバランスの良いサウンドに仕上げつつ、2000年代初頭当時ストロークス、ベック等で再燃していたガレージロック、リバイバルサウンドを体現すると共に、彼らに大きな影響を与えたthe velvet undergroundの影をこのアルバムでは大きく感じます。
そういった意味でベルセバのロックンロールを初めて見ることのできるアルバムです。
#4「THE BLUES...」はイントロからSTONESからの音色を体現し、
2. "Another Sunny Day"では湿っぽい雰囲気を纏った明るいサウンドが
当時のベルセバが過去を回顧してるかのように響き、スコットランドの車窓からぼんやり流れる景色を見ている感覚になります。
全体的に彼らにとって実験的で、
ラフトレードに移籍してから彼らの方向性を探っている感が強く出ています。
良い曲もあるのですが、同時にサウンドが右往左往している感も否めず、道が複数別れている交差点の上に立っている彼らの音楽的方向性を見失いかけているのかなとも思ってしまいます。
そして4年の月日が経ち発表されたアルバム belle and sebastian write about love
このアルバムはノラ・ジョーンズ(Norah Jones)が参加して話題を呼びました。
プロデューサーは前作と同じく、トニー・ホッファー(Tony Hoffer)が起用されています。
ラフトレードに移籍してからの二作の良い所をミックスし初期の彼らの陰鬱した印象を掛け合わした構成とサウンドは彼らのメジャーレーベルに所属するバンドとしての落とし所を見つけたアルバムでもあるのかなと思います。
この年に彼らは6年ぶりとなるフジロックフェスティバルの最終日ホワイト・ステージのヘッドライナーとして出演し最高のパフォーマンスを新潟で残しています。
ノラジョーンズがフィーチャリングされた Little Lou, Ugly Jack, Prophet Johnはウォームで淡く
What a waste I could have been your lover What a waste I could have been your friend Perfect love is like the blossom that fades so quick When it’s blowing up a storm in Mayという淡い歌詞が映画のエンディングのような雰囲気を醸し出し、サウンドもベルセバとノラジョーンズのいいとこ取りといった所でしょうか。
現代の音楽に溶け込みつつ自分たちのスタイルを変えずに表現していて、3. Calculating Bimbo 8. The Ghost of Rockschool 9. Read the Blessed Pages等々のアコギトラックは初期のベルセバの陰鬱した優しいメロディーと2. Come On Sister 11. Sunday’s Pretty Iconsのような80年代のテクノポップの融合が新たなベルセバ像を浮かび上がらせます。
そして2015年に発表された9作目のスタジオアルバム Girls in Peacetime Want to Dance で完全に過去の面影を切り離し、新たな挑戦が始まります。
ミュージカル調の1 Nobody’s Empire 7 The Everlasting Muse ディスコ調の3 The Party Line 6 Enter Sylvia Plath 10 Play for Today (Ft. Kristin Kontrol) サウンドクオリティ、マスタリングもかなり近代的でラジオで聞こえてきても可笑しくないほど近代バンドへ進化を遂げました。それでいて9 Ever Had a Little Faith? のようなこれまでのベルセバ調の曲もあり、アルバムアートワークもこれまでとはちょっと違い新しいバンドとしての姿をこのアルバム提示している気がします。
このアルバムを聴いているとポップやロックに彼らが歩み寄っていくのではなく、ポップやロック等の音楽ジャンルがベルセバという唯一無二の音楽に歩み寄っていってる気がするそんなアルバムです。
2018年にはベース、キーボード担当のDave McGowanが正式にバンドメンバーとして加入し2019年に Days of the Bagnold Summerという映画の為に 同名のサントラアルバムを制作
新曲11曲が収録されているほか、『If You’re Feeling Sinister』(1996年)に収録されている「Get Me Away From Here I'm Dying」と、EP『This Is Just a Modern Rock Song』(1998年)から「I Know Where The Summer Goes」の再録音されたバージョンが収録されている再録として映画用に収録しなおしたアルバムになっていて、過去の曲たちを現在のベルセバのアレンジという形で聴き直せるのでファンであれば非常に好きに慣れるアルバムだと思います!
こうして、結成から約20年職人のように音楽を作り続けている彼らの音楽は時が経っても変わらない普遍的な物がいつも込められています。
有名になりたいわけでもなく、ひたすら自分たちの音楽を時代時代で自分たちの満足いくように形にしていく彼らの姿はミュージシャンとしての究極の形なのかもしれません。
どこか湿っぽい陰鬱としたスコットランドの音楽が形となり、
世界中の心に何かを抱えた少年の心に響いていく。
混沌とした世界の中にひっそりと佇むグラスゴーのコーヒーショップで
ゆったりとした世界を彼らの音楽から楽しめる
そう意味では彼らのアイデンティティーはどこにいてもスコットランドにあるのかもしれませんね。
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