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『青葉市子・アダンの風』アルバムレビュー【音楽】

青葉市子

アダンの風

今作は青葉市子さんの2年ぶりに7枚目のフルレングスアルバムになっており、 前作のqpは僕が通勤中毎日聴いていた程お気にいりのアルバムで青葉さんの独特の世界観は この世の音楽で一番心を落ち着かせてくれると行っても過言ではないほど 心の不安や憂鬱を優しい声とサウンドで包んでくれます。

今作は青葉さんが今年1月に滞在していた沖縄の島々で着想し執筆した物語に基づいて制作された1枚で架空の映画のサウンドトラックというコンセプトの基制作されました。

このアルバムを制作するにあたり青葉さんはこのようなコメントを残しております。

「アダンの風」は、架空の南の島のお話、その映画のサウンドトラックであると共に、2020年を確かに生き抜いてきた、わたしたちの心の真ん中に存在する、子どもの頃から変わらない煌めきの結晶にアクセスするための島でもあります。現代に限らず、何百年も何千年も先に、何かしら生きているかもしれない生命に向けて制作いたしました。

このコメントにある通り、

今作は聞いた瞬間から、行ったことのないのだけど心のどこかに潜む潜在意識下の記憶では見たことのない世界に誘われます。

どこか映画ジブリのもののけ姫を連想させられる古風な雰囲気を保ちつつ、 気づいたら確実に青葉さんの世界観の中で、その世界にすむ生き物たちと戯れている自分に気がつきます。

そしてこのアルバムはリスナーひとりひとりがもつ潜在的な記憶を呼び覚まし、個々の心に秘める神秘を呼び覚ましてくれます。

01. Prologue

アルバムは1曲目01. Prologueで開幕していくのですが、

海の音と船とともに島に進んでいくような感覚にさせてくれるオルガンの音が、 映画の開幕と共に霧の中をかき分けて島に進んでいく風景を連想させられます。

包み込むような青葉さんの声をかき消すように海が波打つような音はアルバムの開幕を連想させるだけではなく、同時にとてつもない没入感を生み出し、主観的にアルバムを聞くことができるようにリスナーを導いてくれます。

02. Pilgrimage

02. Pilgrimageは小さく小刻みに青葉さんのクラシックギターのアルペジオで始まるのですが、 そこに重いベースや太鼓、日本の古典的な楽器のサウンド加わり曲が大きくなっていく様は、 どこか島へ到着した主人公が島をめぐる中で神秘的なものに出会っていく様を表現しているかのようで巡礼というタイトルにもある通り、島を探り探り巡っているような感覚にさせてくれます。

03. Porcelain

オープニングはどこかレディオヘッドのdaydreamingを連想させる、

頭のなかがぼやけている状態にさせるリバーブのかかったギターのサウンドが 島の中の森とそこにすむ動物たちを連想させられます。

そんな島に古くから存在する生命や自然をこの曲は象徴しています。

断続的に響くバイオリンのサウンドが曲に起伏を生み出し、連続的に鳴り響く木琴の音はもののけ姫のこだまのような島特有の生命体を連想させます。

05. Easter Lily

この曲は12. Dawn in the Adan と並んで個人的にアルバムの中で一番好きな曲でもあり、 個人的にアルバムのコンセプトから独立して聞いていても、どこか自分の古い記憶を呼び起こして過去の幸せな日々を繋ぎ止める曲です。

優しい青葉さんの声と楽器のサウンドが完全にシンクロして響いてきて、 太いケーブルが一つにまとめられたように、 サウンドが散らかっておらずだけど複数の太いケーブルが大きく響いてくる感覚です。

青葉さんのアルバムを聞いていると毎回思うことではあるのですが、

掴めそうで掴めない。つかんだと思ったら逃げていく時に風のようで時には雨のよう。

真似したくても真似できないそんな感覚に襲われます。

06. Parfum d’étoiles

予測のつかないテンポに方向を向く久石譲のようなピアノサウンドは美しく落ち着きますが、この曲はそのピアノの裏側でなる島の生物が草原をかき分ける音、朝の鳥の囀り、青葉さんの息遣い等々島の中で息づく生命体の音を美しく響くピアノと共に奏でることで他の音楽とは一線を画す特性を放っています。

08. Sagu Palmʼs Song

単一的な楽器のメロディーではサウンドに起伏をつけずに、

しかし青葉さんの歌声でメロディーに起伏をつけ、そのギャップでリスナーを引き込んでいきます。

曲を通して鳴り響くギターのフレーズは一貫して鳴り響き、製作者であればどうしてもメロディーチェンジをしたくなると思うのですが、あえて同じメロディーのまま曲に一貫性を持たせる所にも青葉さんの特徴が出ていると思います。

12. Dawn in the Adan

このアルバムで一番早いテンポのギターとマンダリンのようなサウンドが物語の終わりを予感させます。

それらのメロディーの上に乗っかるベースや笛の音、最高潮に響く青葉さんの声が 曲の中で育ち最大限になるときにアルバムの最高潮をこの曲の中で迎えます。

アダンの夜明けというタイトルは一見、始まりの朝のようにみえるけども、

この曲が意味する夜明けというものはどこか島を離れる前の別れを意味する夜明けという意味にこの曲を聞いていて思いました。

夜明けというものは通常であれば始まりを意味するものではあるのですが、

あえて終盤にこの曲を持ってきた青葉さんの考えを少し知りたいと思いました。

このアルバムの中で一番煌びやかで花火のように打ち上げられる個々のサウンド達は煌びやかに光るのですが、それが終わった後はどこか旅の最終日のような焦燥感に襲われます。

13. Ohayashi

この曲を言葉にして表そうと思ったのですが、

どうしても言葉が見つかりませんでした。

よければ聞いて確かめてみてください。

14. アダンの島の誕生祭

最後の曲は優しいクラシカルギターから始まり、響く青葉さんの声とバイオリンの音色が曲を最高潮に盛り上げていく様子が誰もいなくなってしまった島を連想させられます。

果たしてこの主人公は最後どういう結末になったのか、波打つ海辺の音が僕たちの想像力を掻き立てます。

全体的に見ると

アルバムと曲のコンセプト、曲の構成、サウンドの質、オリジナリティ

どれをとっても最高級で今年聞いたアルバムの中でも最高に好きなでした。

古い過去の記憶を心の中から引っ張り出され、

その記憶を投影するかのように頭に映し出される映像体験は

これまでの音楽では見られないものでした。

音楽の中に息づく生命体や自然は自分の世界観なのか、それとも彼女の世界観に連れられているのか、

現実と夢の世界観の境界線のない曖昧な霧の中の世界観を彷徨って気分になりました。

あなたもそんな世界観に誘われてみてわいかがでしょうか。

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