見出し画像

インプロのショートフォームとロングフォーム

インプロにはパフォーマンスのスタイルが、大きく分けて2つある。

ショートフォームとロングフォームだ。

簡単に言うと、
数十秒から数分程度の短いシーンを中心に見せていくスタイルがショートフォーム、
30分から1時間以上の長い作品を見せていくスタイルがロングフォーム。

お笑いライブで例えるなら、ルミネとかでやってるいろんな漫才やコントをどんどん見せていくお笑いライブがショート、なんばとかでやってる吉本新喜劇がロングだと思ってもらえればいい。

今日はショートフォームとロングフォームがどういうものなのか、いくつか例を出しながら紹介していこうと思う。


ショートフォーム

先述したように、数十秒から数分程度の短いシーンを中心に見せていくスタイル。
ゲームショーと混同されることが多いが、シーンを作るスタイルもある。
特にキース・ジョンストンが作ったフォーマットのほとんどはこれに当たり、彼のスタイルではゲームよりもシーン作りを重視する。

シアタースポーツ

キース・ジョンストンが作った代表的なフォーマット。
簡単に言うとチーム戦で、それぞれのチームがラウンドテーマに沿ったシーンを作り合い、その点数を競い合う。
キースは「シアターにプロレスの要素を持ち込む」ことを目指して作り、キース・ジョンストンの名前を世界中に広めるきっかけになった。
構成や手順についてかなり細かく決められているが、これは「プレイヤーを自由にするため」のもので、縛るためのものではない。
だが、その根底にある思想哲学まであまり伝わり切らず、その構成や手順が編纂されたり、薄まったりしてしまい、誤解して広まってしまったものもある。
※約30年前、日本にインプロが入ってきた時はこの「シアタースポーツ」が伝わってきたのだが、その内容はキースが作ったものと大きく異なるものであった。

コメディスポーツ

シアタースポーツがその形と内容を変え、ゲームショーとして変貌したもの。
チーム戦という点は同じだが、シーンではなく、ゲームをやることで対決する。
シアタースポーツをこれと誤解する(同じものだと思っている)海外の人も多い。

マエストロ

インプロの個人戦。
プレイヤーには番号が割り当てられており、ディレクターが番号の書いたくじを引いたら、そのプレイヤーがシーンに出演し、ディレクターから指定されたシーンを作る。
シーンを作った後、観客から1〜5点の点数をもらい、出演したプレイヤーにその点数が与えられる。
これを数ラウンド行い、最終的に最も点数を得たプレイヤーがマエストロとなる。
これもキースのフォーマットで、ワークショップの発表会としてどんなレベルの人でも楽しめるものとして作られた。

ゴリラシアター

ディレクションショーと呼ばれる、即興演出対決。
プレイヤーそれぞれがディレクターを兼任し、それぞれが順番にやりたいシーンを設定し、演出する。
シーンが終わった後、観客に「バナナ」か「罰」かを投票してもらい、バナナが多ければバナナを、罰が多ければ紙に書かれた罰を引き、それをやらなければいけない。
最終的に最も多いバナナを獲得したディレクターが勝ちとなる。
これもキースのフォーマット。彼のフォーマットの特徴として、ディレクターの存在が挙げられるが、このフォーマットはその訓練にもなり得る。

ロングフォーム

先述したように、30分から1時間以上の長い作品を見せていくスタイル。
後述するフルレングスインプロと混同されることがあるが、正確にはロングフォームは構成があるものを指し、フルレングスは構成がないものを指す。
一般的に海外におけるフルレングスインプロは、ジャンルインプロとして、特定の作風で上演されることが多い。(例:シェイクスピア、チェーホフ、ミュージカル、ホラー、SF、ソープオペラ…など)

ハロルド

最も一般的なロングフォーム。
シカゴにあるImpro Olympic(以降iO)というシアターで、デル・クローズによって生み出された。以降、多くのロングフォームがここから生み出されていく。
A、B、Cという別々のシーンを演じた後、再びA、B、Cへと戻り、3つの作品を作り上げていく。通常3ラウンドで終了となる。
ラウンドの間にグループゲームといって、全員でやれるゲームや即興ソングをコマーシャル的に挟むことが多い。

ラロンド

iOにて生み出されたロングフォーム。
AとBというキャラクターのシーンに始まり、途中でAとCは入れ替わり、BとCのシーンに移行する。
その後、CとD、DとE…と、新しいキャラクターとのシーンが数珠繋ぎのように展開されていき、最後は最初にいたAがシーンに入り、エンディングとなる。
構造がシンプルなので、ロングフォームの初歩として扱われることが多い。

アスキャット

UCBという若いインプロチームが世に出るキッカケとなったロングフォーム。
お題に沿ったモノローグを演者の1人がする(基本的にその人自身の真実のエピソードを使う)
そこから、そのモノローグから連想されたシーンをたくさん作り、またあるところで別の人が最初と同様にエピソードモノローグを行う。以降繰り返し。
このフォーマットが人気を博し、UCBはニューヨークとロサンゼルスにシアターを持ち、自身の番組も持つようになった。

余談

ミドルフォーム

ショートとロングの他に、実はミドルフォームというものもある。
短いシーンを作り、その続きを作るか否かを選択するフォーマットのことで、単発のシーンにも長いストーリーにもなり得る。なのでショートからロングへの橋渡しとして教育的に使われることも多い。
スーパーシーンやモアorレスというフォーマットがそれに当たる。詳しい内容は今回は割愛。

世界のインプロの現代

様々なフォーマットを紹介してきたが、実際のところ、これらのフォーマットをやってるところは世界的には少なく、古典的で限定的なものになりつつある。
むしろ「インプロで何を作るか」「何を伝えるか」に意識が移行していっており、様々な作風を演じるジャンルインプロや、より挑戦的で革新的な上演や、社会的に意義のある作品作りを目指しているように感じる。
例えば、「ベクデルテスト」という3人の女性の人生の彩りを描いたフォーマットが生まれたり、「スピーチレス」という言葉を使わない即興芝居が上演されたり、「ブラインドデート」という1人の観客と一緒に作るものだったりと、既存のフォーマットに囚われず、インプロの持つ可能性に世界中のインプロバイザーが挑戦していっている印象がある。

コメディかストーリーか

キースインプロとシカゴインプロは、よくストーリーとコメディとして対比される。
ショートフォームはよくゲームショーやコメディと誤解されるが、発明発展させたキースはストーリーテリングを重視する人だし、
ロングフォームは一見長い物語を作るもののように思えるが、実はコメディを作るためのものだったりもする。
もちろん優劣があるわけではないし、良いインプロバイザーには両方の素質があるのは間違いない。

2タイプのフルレングスインプロ

先述した構成のない長編即興芝居のことをフルレングスインプロと呼ぶが、その中でも2つのタイプが存在する。
1つは脚本構造を重視したいタイプ。
ケン・アダムズという人は「How to Improvise Full Length Play」という本を書き、その中で三幕構成を基本とした長編即興のやり方を指南している。
もう1つはキャラクターの衝動を重視したいタイプ。
Impro Theatreのダン・オーコナーはフルレングスインプロを「キャラクターの感情の旅によって生まれるもの」としており、構造を再現するよりも、キャラクターとして瞬間瞬間を生きることを大切にしている。
どちらも重要なことであり、最終的には両方必要なことだろうと思うが、どちらを出発点にするかで分かれる。

まとめ

偉大な思想哲学を掲げ、世界中に伝わるようなフォーマットを作った先人たちがいる。
彼ら彼女らから学ぶことはたくさんある。だが、最終的には自分なりの考えを確立していくことが大切だ。
僕の師匠であるショーン・キンリーは言う。

優れた学びは大きく分けて2つ。
多くの人に師事して、それぞれの良いとこ取りをしていく。
もしくは誰にも師事せずにトライ&エラーを繰り返す。
最も愚かな学びは誰か1人、1つの考え方を崇拝し続け、まるでその人かのようになることだ。

インプロに出会って14年。
世界中でインプロを学び、演じ、500以上のステージを経験した。
最近になってようやく「自分のインプロとは何か」を言語化し、人に伝えられるようにもなってきたような気がする。
「良いインプロバイザーになるのには最低でも10年かかる」と言われているが、ようやくなってきたのではないかと思う。
これからも旅を続けていきたい。

↓私の全てを曝け出しますわ↓

↓その前に出会いましょう、私と↓

いいなと思ったら応援しよう!