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演技指導に対する僕の考え

昨日「俳優コーチングWS」なるものを試験的に行いました。
見学者が10名以上もいるという予想以上の反響だったのが驚きでしたが、同時に演技指導というものへの関心の高さは嬉しく思いました。

WSの現場では3人の指導者の思想哲学に寄り添う形でコーチングをしたので、自分の演技に対する考え方などは一切口に出しませんでした。
しかしそれによって、自分がこだわるポイントも浮き彫りになったので、このnoteではいくつかのこだわりポイントについてお話します。
※あくまで僕の演技に対する考え方なので、一意見としてお聞きください。

指導者の在り方について

今回の3人の在り方は様々でした。サポーティブに関わる人、どっしり構える人、フレンドリーに接する人。どれも魅力的な在り方だったと思います。
僕はこの中で行ったらフレンドリー体質に属すると思いますが、実際のところは参加者によって変化させることが重要だと思います。
例えば、企業研修などちょっとお固めな場に行った時、フレンドリー体質が苦手(慣れてない)な方も多くいますので、そこではフレンドリーを若干抑えて、知的さを少し上げて、若い大学教授かベンチャーの若社長のような在り方になります。
逆に若い人たちが中心のチームや、真面目すぎて固くなっちゃう俳優がいる場合、フレンドリーさを存分に発揮します。
僕はインプロ(即興芝居)を長くやってるので思うのですが、演技指導もインプロの如しだと思います。人によって全然違いますし、用意してきたことが変わることありまくりです。なので、その人やチームにおいて何が一番心地よい在り方なのかは常に変動します。
ある種「指導者」という役割を演じる演技であると思うので、当人にそれだけの演技幅があることは大切だと思います。
この後、準備について書きますが、演技指導者はフレキシブルにその場に応じて対応出来ることが何よりも大切だと思います。

準備について

最初に言っておくと、僕はほとんどのWSを準備していきません。それは先述したフレキシブルさを重視しているため、なるべく僕は空の状態でいたいのです。(明確なテーマややることが決まっているものに関しては準備していきますが)
ただ、初めて指導をする人が丸腰だと、流石に双方不安になると思うので、その日のテーマや目的、そのためにどんなエクササイズを積み上げていくのかという、大まかな流れは準備していった方がいいと思います。
しかし、最も大切なのは、自分の準備してきた流れをやることではなく、その場に最も必要なことをやることです。
先もフレキシブルにという話をしたのですが、現場はかなり流動的です。日によっても人によっても違います。いつでも自分のアイデアや流れを捨てられるようにしておきましょう。
おすすめの準備方法は、テーマや目的はまあ決めるとして、その後は流れというよりも、やった方が良さそうなエクササイズを箇条書きでとにかく書き出しておくことです。そして最初の1時間から1時間半で何をやるかだけ決めておきます。そして休憩を挟むごとに次の1時間から1時間半をどう過ごすかを考えます。短く区切っていくわけです。こうすることによって、その時その時に応じたものを出しやすくなります。変な話「あ、流れが違う方にいきそうだ」と思ったら、たとえ30分くらいしか経ってなくても軽くブレイクを取っても良いと思います。もちろん気の流れは大切なのですが、気になる場合は「このエネルギーを切らさないように休憩してください」と一言言っておくと良いと思います。
何にせよ、その時その時に応じていくことに集中すふために、それ以外の不安が生じないような準備をすることが大切です。

弱さを見せることについて

指導者はどうしても強い立場でいなきゃ、正解を出さなきゃという立場に追いやられがちです。ですが、指導者にも間違うことはありますし、それは許容されるべきだと思います。常に正しいことをしなきゃいけないのはプレッシャーですし、何よりチャレンジが出来なくなります。そういう場やマインドは早々に変えていく必要があります。
キース・ジョンストンは、紹介したエクササイズを生徒が上手く出来なかった場合、真摯に謝ります。演劇界の巨匠であっても失敗するのですから、僕なんてそりゃあもうって感じでしょう。いつでも失敗を失敗も認め、わからないことをわからないと言えることが、健康的な創作現場には大切だと思います。
ちなみに先日、僕は教え子に僕の非を指摘されました。それはとても嬉しいことでした。僕を成長させてくれる人が間近にいることは、かけがえのない財産です。それを感情込めずに言えることが良いですね。
また、弱さを見せることについて、自分を卑下することとは分けて考えるべきです。「間違えました!」とオープンにした時(ごめんなさい)というサブテキストが見える時があります。これは不要です。それをやってしまうと、失敗することはダメなことであるというメッセージが意図せず伝わってしまいます。逆に失敗を認めない姿勢でも同様に伝わります。指導者自身が率先して失敗し、弱さを見せることは場を円滑にするためにも重要です。例えば最初のウォームアップゲームとかでは、わざと早々に失敗したりします。ここでうまくやろうとしてる指導者は…わかりますね。

真実について

今回のWSで出てきた「真実」という言葉。演技指導の現場でよく使われるものですが、この扱いは特に慎重になる必要があります。
なぜなら、演技の現場で扱われる「真実(僕の言葉でリアルと今後呼びます)」という言葉は、演者の中に存在するもの、つまり目には見えないものだからです。だからこそ誤解を招くことが大いにあります。指導者が「今のはリアルだ」といえばそういうことになってしまうからです。なので指導者は相当な熟練が必要になります。リアルかリアルじゃないかを見分ける目は生半可なものではありません。何を見て、聞いて、どこでリアルだと判断しているのか、自覚的で明確である必要があるかと思います。
ちなみに僕はリアルを追い求めない指導者です。それよりはリアリティ(真実味)を重視します。イギリスの演出家であるマイク・アルフレッズは「リアルは演者の中に、リアリティは客席との間に存在するもの」「俳優の仕事はリアリティを作ること。リアルはその道具」と言います。僕はこの考えに大いに賛同し、未だに自分の思想哲学の中核においています。
ここをゴチャにしてる俳優、指導者が割といる気がします。リアルを追い求めるということは、究極俳優自身がリアルに感じていればそれで良いということになってしまいます。しかし、それを見てるお客さんからすると何とも思わないかもしれません。それがリアリティの無さです。
僕はマスク(仮面)とかをやるのでわかるのですが、演者自身が何もリアルを感じていなくても、お客さんは感動する(リアリティを感じる)ことが大いにあります。
演技とは何かと考えた時に、僕は最終的に「お客さんを感動させる技術」だと思ってます。人によっては「真実に生きること」とか「行動すること」で止まっているかもしれません。そうすると結局演技は自己完結なままになってしまいます。
もちろんリアルなんかいらないと言ってるわけではありません。リアルがあるから、リアリティが作りやすくなるのは事実です。しかし、リアルが最終目的地なのか、そこからリアリティを立ち上げていくことを目指すのか、それによって見方が大分変わってきます。

アメリカとイギリスの演技の違いについて

そこから発展させてお話しします。
アメリカは心理学的、イギリスは身体的な演技が主流と言われています。
これはアメリカが映画文化であり、イギリスが演劇文化であるということが異なります。
映画はカメラで顔にズームしてくれるので、日常のサイズ感の演技で十分ですし、その中でいかに本当らしさを出すかが重要になります。それにはリアルを取り扱うメソッド演技は有効なことが多いわけです。
逆に演劇は客席との間に距離があります。なので日常のサイズ感では不十分で、身体を活かす必要があります。なので身体のクオリティや行動することがより大切になってくるわけです。
指導者としてはそこの違いを理解しておく必要があるかと思います。
特にメソッド演技をやってるという人に起こりがちなのが、身体が動かないことです。自分の中で感じることを重視するあまり、どうしても演技が内向的になりがちになります。
その理由はメソッドそのものがダメというわけではなく、中途半端な学びにあるかと思います。メソッド演技にはその延長にアニマルエクササイズなどが存在してるのですが、センソリーワークだけで終わってしまったりします。マイズナーテクニックにはトレーニングの後半にキャラクターを扱うことがあるのですが、多くの人はそこまで学ばず、リピテーション=マイズナーになってそこで止まってしまいがちです。スタニスラフスキーシステムは前期中期後期でフォーカスしてることが違うのですが、そのことを知らなかったりします。
指導者としてメソッドやマイズナーを扱う人は多いと思います。その人がしっかり体験して学んでいることは大前提で重要だと思いますし、仮にそうでないのだとしたら、いろんなワークを学ぶことでその部分を補完していく必要があると思います。
指導者の役割は「勇気づけ」と「選択肢を広げること」です。そのために自分が手札をどれだけ持っているかは重要かと思います。

まとめ

今回僕の思想の一部を雑文で書きました。
僕も指導を始めてから10年以上が経ち、これまでに1000回以上はワークショップやレッスンをやってきました。
そんな中で思うのは、指導者であるからこそ常に成長していく必要があるということです。
よく指導者になって、人前に立つことや外に学びに行くことをやめてしまう人がいますが、そういう人を僕は信用も尊敬もしません。
人を指導するという立場である以上、常に自分をアップデートし続けることが重要かと思います。

これをついでにオンラインスタジオの紹介をさせてください(笑)
これまでに学んだ海外のメソッドや知見、演劇に対する思想哲学や演劇人としての生き方など、様々な情報を流してます。
今までの記事も読めますので、ひと月だけでも入ってみてください♪

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