オトナの女、幼稚な女
「相談があります」と、突然女性に言われた時、必ず質問することにしている。
「それは、実務としての話?それとも感情の話?」
たとえば婚約者にセフレがいることが分かったとする。
それをどう考え、どう解決し、今後をどう考えるべきなのか意見を聴きたいという実務なのか。
それとも、ショックを受けた可哀想な私の話を聞いてという感情の話なのか。
そのどちらでも構わない。
ただ、俺とあなたの関係性では感情の話には付き合うべきではないこともあるし、実務上、専門知識が俺にはないので適任ではないこともある。
そういうことだ。
ただひとつだけはっきりさせておくのは、オトナは他人に感情の相談はしないということだ。それが友達であろうと親友であろうと元カレであろうと、感情でベタベタさせる幼稚な話に他人を付き合わせるべきではない。
可愛そうな私の話を聞いて共感して慰めて、というのであれば、お金を払えば訊いてくれる便利屋がたくさんいる。
お金も払わずに他人に感情の排泄をするのは幼稚すぎる。
もし相手がオトナなら、きっと感情の話をしはじめたら止めるだろう。そういう話には付き合えないよとたしなめられる。
たとえば婚約者にセフレがいるというのなら、やるべきことは普通三つしかない。
実務としての相談なら、「では、なんて言えばいいのか」とか「婚約破棄の手続きは」とか「セフレ本人と会うのは怖いので父親を同席させてもいいか」とか、そんなことだろう。
「私はこう考えているがどう思うか」と質問するのも実務だろう。
でも、感情の話はそうじゃない。
いくら実務の話をしても聴いていないのだ。そのかわり、「彼氏が怒るから別れろとか言えない」とか「婚約を破棄したくないから言えない」とか「セフレと会うなんて怖い」とか言い続け、何も進展しない。
人間不信になったとか、みんな私を馬鹿にしているとか、そういうどうでもいいことまで言いだす。
当然、相手は苛立ってくる。
「じゃあ、こういう話を聞いて私はどうしたらいいわけ?あなたが排泄してるの見てろってこと?」と相談相手は思うのだ。
「聞いてくれたっていいじゃん」と幼稚な女は言うだろう。
いや良くねえよ、とオトナなら思う。
それに、絶対アドバイスしたことを実行もしないし、参考にすらしないだろ?と。
こんな感じで感情の排泄に他人を付き合わせようとする女を、まともなオトナな毛嫌いする。時間の無駄なのだ。
ではオトナはオトナに対してどんな風に相談をし、相談をされているのか。
矛盾するようだが、オトナはオトナからの相談に対し、感情に寄り添って話をしている。
きっと幼稚な女は驚くだろう。
「じゃあ私だけ除け者じゃん」と。「何この差別」と。
違う。
オトナはオトナの話し方ができる人に対して、感情に寄り添いながら実務の話をしている。
たとえばこんな会話だ。
「婚約者にセフレがいることが分かったんだ」
「ひどいな。もう話し合いはしたの」
「いや、まだ。この段階でもセフレを切れないのはないなと思っている。婚約は破棄かな」
「ああ、そうなるよね。でも、話し合って謝ったらどうする?」
「正直なところ、謝ってセフレを切るのなら許すかもしれない。でもセフレって彼の元カノなんだよね。切るのは難しいと思ってる」
「それ以外で婚約者に不満があるの」
「ないよ。いい奴だし残念だね。でもここから相談なんだけど、彼にどう切り出せばいい?」
「私なら、彼氏と会って、知っていることを全部ぶつけるかな。それで、婚約は破棄しますと言う。それで弁解や謝罪をするなら一応は話を聞く」
「それでいいよね。やってみる」
「つらいと思うけど、幸せを願ってるよ」
こうして感情に寄り添いながら実務の話をしている。
可哀想な私の話を聞いて聞いて~みたいな会話は一切ない。
もしアドバイスした通りのことをしなかったとしても、相談相手は何とも思わないだろう。本人も、あれから考えてこうしてみたんだ、と報告するだろうし。婚約者を許したと言っても、そうかそれならよかったと言える。相談に乗った時間が無駄だったなど思わない。
「人生いろいろあるよな」そう思うだけ。幸せになってほしいなと思う。自立して強い人だからこそ、必要な時は助けになりたいとも思う。
これがオトナの相談、オトナの会話だと思っている。
幼稚な女の相談は、感情でベタベタにする。
「許せない!私が彼氏に電話してやる!」とか言いだす友達がいるのが幼稚な女の人間関係だ。
彼氏の許せない話で一晩中酒を飲めるのも幼稚な人間関係だろう。
オトナと幼稚のレベルの差は残酷なもので、年を重ねるほどその差は顕著になる。
「その相談なら俺は適任じゃない、ごめんね」
そう言って断ることが最近多い。
本当に適任じゃないのだから。