passingn each other
「こんなこと、ラーメン食べながら言うことじゃないんやけどさ。」
「ん?何?」
「…ずっと好きやねん。俺ら…付き合わへん?」
キンと空気が固まった気がした。
なんとなく様子が変だったのはこのせいか。
久しぶりにご飯行こうなんて、これまたこんな、ド平日の変なタイミング。
何がいい?って聞かれて、じゃあラーメンって答えたけど。
あちゃあ、じゃあもうちょっとお洒落なレストラン希望してたら、雰囲気もあったのに。
って、このラーメンすすりながら告白してくるシチュエーション自体が、うちらの関係性の全てを物語ってるよね。
今更じゃない?
そういうの無かったからうちらずっと仲良くできてたんじゃないの??
そんなことぐるぐる考えてたら、沈黙に耐えかねたのか、ヤツの方から話し出した。
「や、付き合うっていうても今まで通りでいいんやけど…」
「同じでいいんやったら、なんで告るん?」
「それは…」
「付き合うなら、あたしは今まで通りはできへん。彼氏なんやったら、もっとこうしてって欲出てくる。絶対。そうなったらもう今までみたいに仲良くできんこともある。」
「欲出してよ。」
そんな切なそうな声出すなよ…
「無理。友だちやから許せたことも許せんくなるで?それに…」
「今まで通りでいいなら、友だちのままでいいやん。それだけじゃないから、変わりたいから、付き合いたいんやろ?」
「…。」
「あたしそういうの無理やって。知っとおやん。あんたでも無理。むしろ、あんたとやから無理。」
傷つけたかなって一瞬怯む。
だけど。
いい加減に濁して、誤魔化して逃げることはしたくない。
友だちとしてずっと一瞬にいたいから。
言いたいことも言えずに、関係を続けたいなんてなんか卑怯だ。
それで終わる関係なら必要ないとも思う。
我ながら酷いと思うけど、そんなので終わる関係じゃないとも…信じてる。
「うん。そうやろなって思ってた。ごめん。それでも伝えたい俺の自己満足。忘れて。」
無言でラーメンをすする。
空気は最悪。
どっちもが怒ってる。
相手にじゃなく、自分自身にお互いが怒ってる。
あたしの返事がNOと分かっていても、それでも気持ちを抑えきれなくて伝えちゃった自分自身に。何も変わらなくていいと言いつつ、やっぱり心のどこかで変わることを期待してしまう自分自身に。
あたしは、そんな気持ちが痛いほど分かるのに、変わることが嫌で、どこにも余裕がなくて、失うことしか想像できない自分自身に腹が立っていた。
それをすべて伝えても、こいつなら受け入れてくれるだろうって、それが甘えだと気づきもせずに、ただ自分自身に腹を立てていた。
「帰ろか。」
いつのまにか2人とも食べ終わっていた。
どこがゴールか、何が正解か分からなくなって、途方に暮れる。
気持ちの置き場所は見つからないまま今日は眠りにつくだろう。
外に出ると、夏になりたての蒸し暑い空気が、むっと押し寄せてきた。