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マルクス・アウレリウスの「自省録」


「自省録」の主観について


マルクス・アウレリウスはプラトンが理想とした哲人君主が唯一実現した例である。彼の著書である「自省録」には自身の内省や思索の数々が散りばめられている。わたし自身も彼の言葉に助けられたし、二千年前のローマ皇帝という時代も立場も何もかもが違う人間の言葉がここまで響くのは何故だろう。「自省録」は彼の断片的な言葉で占められており、他人に公開されることを想定して書かれた文章ではないため読みずらい箇所も少なくない。しかし、この著作は古今東西の偉人から二千年にわたって読み継がれてきた。例えば、フランス現代思想で著名なミシェル・フーコーは最晩年にこの書物を愛読書としていたという。加えて、世界の政治家たちもこぞって座右の銘に挙げる古典がこの「自省録」である。わたしが好きな一説を引用してみる。

君は多くの無用な悩みの種を切りすてることができる。なぜならばこれはまったく君の主観にのみ存在するからである。全宇宙を君の精神で包容し、永遠の時を思いめぐらし、あらゆる個々のすみやかな変化に想いをひそめ、誕生以前の無限と分解以後の永遠に思いを致がよい。それによって君はたちまちひろびろとしたところへ出ることができるであろう。

マルクス・アウレリウス「自省録」

人の悩みの源泉は「事実そのもの」ではなく「事実に対する解釈」であることは古来から伝えられてきた。わたしたちが見ている世界にはいかなる色も付いておらず、人間の解釈によって世界は彩られる。世界はわたしたちに良くしようとも悪くもしようともと考えておらず、ただ人間がそう判断しているだけなのだ。

今日私はあらゆる煩悩から抜け大した。というよりもあらゆる煩悩を外に放り出した。なぜならそれは外部にはなく、内部に、主観の中にあったのである。

マルクス・アウレリウス「自省録」

人生は主観であり、主観は人生である。知性の高い人は自分の解釈を疑うことができる。何かに対して怒りを覚えたときも、自分の解釈を見直せる人は理性的になれる。逆も然りであり、すぐ感情的になってしまう人は自分の解釈に凝り固まってしまっているのではないか。わたしも自己の戒めとしてこの言葉を覚えておきたい。


「自省録」で描かれる無常感。

ストア派は「ストイック」の語源にもなったように禁欲を目指すギリシア哲学の宗派である。ストア派は古代ギリシアのゼノンによって創始され、ローマ皇帝のアウレリウスにもその精神性は受け継がれている。この古典の中でたびたび言及されている思想が「無常感」である。

普遍的物質を記憶せよ。そのごく小さな一部分が君なのだ。また普遍的な時を記憶せよ。そのごく短い、ほんの一瞬間が君に割りあてられているのだ。さらに運命を記憶せよ。そのどんな小さな部分が君であることか。

「無常感」は「無」に「常」に「感」と書くように、全ての事物は変化の最中にあり常なるものはほとんどない。宇宙の誕生からの恒久の時を思い馳せれば、人間の歴史など僅かなものだ。その永遠に近い時の流れの中でちっぽけと生きる人間の人生にどれほどの意味があるのだろう。

我々のすぐそばには、過去の無限と未来の深淵とが口をあけており、その中にすべてのものが消え去って行く。
このようなものの中にあって、得意になったり、気を散らしたり、または長い間ひどく苦しめられている者のように苦情を言ったりする人間は、どうして愚か者でないであろう。

辛くなったときにわたしは宇宙の永遠について考える。小さな微生物からすれば、人間は宇宙のように大きい存在であろうし、宇宙からすれば人間は限りなく小さな存在である。人間は無数の細胞によって構成され、細胞は数え切れないほどの原子によって成り立っている。反対に、人類の文明が存在する地球は太陽系の一部であり、太陽系は巨大な銀河のごくわずかな部分を占めるに過ぎない。

そして、その銀河は銀河団という宇宙の果てまで広がる巨大なコスモスと調和している。このような巨大なスケールのはざまにあって人間はどこまでも中途半端な存在ではあるまいか。人間は善にも悪にもなりきることができない。二千年前に現代科学が存在しなかった時代において、先人たちは宇宙の深淵に気づいていた。アリストテレスが宇宙論を唱えたように。彼らは現代人が成し得ないことを二千年前に果たしていた。二千年前に並外れた存在だったからこそ、現代までこうして名前が残っているのかもしれない。こうして先人に学ぶことは大切である。


まとめ

ここまで「自省録」について綴ってきたが、改めてこの書物は古代精神の最も至宝な産物だと感じる。哲学書でありながら、専門的な哲学用語は登場せず、人生を生きる上で心の糧となってくれる。わたしはこの著作をこれからも読み続けるだろうし、この記事の読者もこの本を手に取ってくれることを願ってやまない。







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