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お別れのとき

入所している方の奥様がお亡くなりになられた。

そう聴いたのが3日前。安らかにご自宅でご逝去されていたとのこと。

内縁関係だったせいなのか、認知症があって何も分からないと思い込まれていたせいなのか、葬儀には呼ばれなかった。

問い合わせてみると、後見人の方やご家族の方たちも知らせる必要ないという意見だった。やっぱり、そうか。

でも、今日、施設長と二人で彼を連れて自宅を訪ねた。病に伏している方だったのでゴミ屋敷のようになっていたとかで、親戚縁者の方々はまだ片づけている途中だった。後に取り壊される自宅に、彼をお連れしたのだ。

彼はニコニコしていたが、仏壇とも言えない質素なテーブルの上に遺影と菊の花が少しばかり置かれているのを見て目を丸くした。
しばらくその写真の前に座りこんでいた。「実はね・・・」とやっと話すことが出来た。

「分からないだろうに。」と親戚の方が後ろから言う。

彼は、「し、し、しかた、ない・・・」と声を漏らして咽び泣いた。きちんと線香をあげて両手を合わせた。

言語障害はある。でも、理解度は悪くないんだよ。お連れして良かった。

一時間くらい咽び泣いては立ち直り、また涙が込み上げて来て泣き出してを繰り返す間、ずっと手を握っていた。

壁には子供たちが幼い頃に貼ったであろうアニメのシールが沢山あった。

そんなボロボロだけれど、思い出が詰まった家で、ずっとその涙に添っていた。

そして、「帰りましょう。みんな、待ってるから。一人じゃないから。」と声をかけると、彼は「うん」と立ち上がった。よろよろとする足どりを支え、車に乗って、ガヤガヤと賑やかな施設に戻って来た。

彼はずっと次席で遺影を抱きしめていた。

悲しみは悲しみ。孤独は孤独。

でも、また必ず笑わせてあげる。無理にではなく、自然に。私と居ると、みんな良い意味でも悪い意味でも爆笑してくれるんだよ。

また笑おうね。きっと奥様もそう思っている。

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