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呼名
台風は驚くべき遅さ。被害に遭う人が少なければ良いのだけど、深刻だなあと思う。
子供の頃は「どうして被害に遭いやすいところに住むのだろう?」と思っていたが、よくよく考えてみればどこに住んでいても災害はやって来る。
守るべきものがあればあるほど不安は募る・まあ、今も昔も出来ることをやって行くしかないのだけど。
***
施設がある街の商店街でしばしば見かけていたお爺ちゃんが入所して来られた。
いらっしゃい。
その後は、ずっと気ままに過ごして下さっている。テレビを見たりご飯を食べたり、誰かと話したり。
名前を呼ぶ度にニコニコとして。
ご家庭で手に負えないと言われた方ほど穏やかに過ごされる。「いったいどうして」とよく言われるのだが、その理由の一つは、多くの人が名前を呼んでくれるからだろう。
一つ一つは「血圧を測らせて下さい」とか「どうぞお召し上がりください。」等、何でもない用事が呼名の後に続くだけなのだが。
その度に自分自身を取り戻すということもある。
高齢者に限ったことじゃない。辛いこと、分からないことが続くと、人も、いや、動物ですら訳がわからなくなって自分が誰なのかも分からなくなることもあるのだろう。
別にそれだからというわけではないが、今日も、おはようと声をかける。色んな声をかける。
朝起きてから寝るまでの長いプロセスの最中、巡り合う命に声をかける。もちろん、こうして自分に声をかける時間も忘れずに。