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青天の霹靂 / 忘年会

今年ももはや11月、3週目に差し掛かった頃のことだった。

毎月2回ほど往診に訪れてくれる配置医の先生がおみやげを抱えて出勤して来た。『何、これ。どうして?』と思ったのだが、尋ねてみても『いや、確か、ここに来るのは今日が最後だったから。』と要領を得ない返事。

なんで?

元は消化器外科で提携病院でバリバリ働いていた巨漢の医師。
しかし、寄る年波で認知症に近い状態だと知らされたのは、私も勤めたての頃で驚いた。ダメじゃん、それ!と。

しかし、細かいあれこれをサポートしてあげさえすれば医師としても知識はその辺のお医者さんより優れているので、すぐに私は慣れた。医師の仕事さえしていただければ良いわけだからして。

当時の先輩ナースたちは『法人に苦情言ってもどうにもならないのよ。』と交代して貰えぬ事情を話してくれていたが。

やがて私もこの施設にどんどん慣れて行き、提携病院の色んな先生と話をするうちに、『おやおや?』と気づく。現役の先生方、何科の先生であろうと、この巨漢の老人医師にやって貰うのが一番ましなのだということに。

こちらが症状を説明してこういう薬を出して欲しいなーと思うとぴたりと望むものを処方してくれるのだが、他の先生だと素っ頓狂な処方が出るのだ。

ただ、昔ながらの医師なので出会い立ての頃は、つまらないことで大声で怒鳴っていて面倒だった。新人ナース相手だから大きく出ようと思ったのだろう。
私は『そんな態度だとね。今時クビになりまっせ。』とアドバイスし、昨今良い関係が続いていた。

そこに来ての『今日が最後なんだよ。』にはずっこけた。よくよく話を聴いてみると、どうやら11月いっぱいで免許の更新ができなくなったとのこと。
いや、確かにこの御年で築地から車を運転して来られるのは心配だったので、その点はホッとした。

仕方がないねという話なのだが、それからがさあ大変。誰が往診医になってくれるのか?ということで提携病院つまりは施設の本部とも言える部門に掛け合うわけだが、どの顔ぶれでも困る。老人を診て貰う上では。

例えば、全員入院させられ、全員胃婁にしろとも言われかねないのだ。

しかし、ダメ元で希望を言ってみたところ、通った。私ごときの希望が。

一人適任の方がいらしたのだ。老人の気持ちをわかり、大事にしてくれそうな医師免許がある人。

それは理事長先生だった。

『理事長を配置医に?!』と驚かれたのだけど。

うん、そう。
と答える。
かくして本来ならばもっと楽できるであろう一番偉い人に来ていただくことになったのだ。

ところが、12月から来ていただいている理事長先生にとんとお会い出来ていない。

というのも、往診の手順はどのナースでも出来るように教えてあるので当日休んでも大丈夫。むしろその前日の準備に手がかかる。
そんな理由で12月の往診日は私は二回とも休み。

『なんで、先生が交代する往診日に休んでるのよ。』と施設長に怒られたのだが「まさか、勤務表作っている時点で想像もつかいないでしょうが!医師が変わるなんて!」と逆キレしてしまう私。

しかし、不在時の往診、二回ともうまく行っているようである。

まったく世の中何が起こるか分からない。ドキドキするけど来年も進んで行くしかあるまいて。

ああ、前任のA先生、長らくありがとうございました。のんびりお過ごし下さいませ。

***

昨夜はKちゃんと二人、忘年会を。

女性店主のイタリアン

とても美味しかった。

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