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色んな人がいるという話
90年代のJR横浜線のとある駅だったと思う。午前中は病院で仕事をして、午後一の看護学校の授業に出るために先を急いでいた。ギリギリまで働かなければ学費が払えなかったので、いつも遅刻寸前だった。
駅の階段を必死で駆け下りる。が、今しがた到着した電車から、夥しい数の人の群れがドっ!と降りて来るので、私は階段の上へ押し戻される。電車が見えているというのに、先へ進めない。もう、ダメだ。
田舎の大きな空と田んぼや畑、山々を観て育った私は、この頃、まだまだ人混みに慣れていなかった。
と、そんな古い場面を思い出したのは、先ごろ、友人が『中国人に騙された!』と言う話を聞かせてくれたからだった。
ネットでブランド物のバッグを買ったら見るからに偽物で、よくよく見たらサイトの経営者が中国の方で、いくら電話をしても通じないのだとか。
それは酷いな。でも、よく聞く話だな。でも、なんでそんな安い値段で買えると思った?何でネットで買おうと思った?とも思ったが、傷心の相手にそんな疑問をぶつけられるわけもなく。
友人の罵詈雑言を聞いていて、まあ、確かに私も苦手だなあと思った。商魂逞しい人々はあまり好きじゃない。例えば、香港に旅行した時も色んなものを売りつけられそうになって大変だったので、何やらその罵詈雑言に共感できそう、一緒に悪口言えそう・・・とも思ったのだが。
突然色々と思い出した。あの日のことを。
毎日満員電車で嫌になる!と嘆いていた田舎娘の私は、その日、電車に乗ることすら出来そうになかった。
大勢の人々が凄い勢いで階段を駆け上がって来ていて突き飛ばされることの連続。
『もう遅刻してもいいや。』とあきらめたその時、日本語ではない叫び声が聞こえた。それもかなり至近距離から連続して、私に向かって叫んでいる人がいる。日本語ではなかった。
何と言っているのかは分からなかったが、中国語だ。それだけは分かる。
???
冷静になって見てみると、一人の中国人男性が階段の手すりに両手をかけて前屈している。その両腕は、ピーンと伸びていてトンネルを作っている。
それでもまだ茫然としている私に、片手だけ放して、”早く!この下を通って!”とジェスチャーしてくれている。もちろん彼にもガンガン人がぶつかっているというのに。
思わず彼の腕の下を潜って通過した。
電車に乗るなりすぐにドアが閉まったので、慌てて階段の方を見る。
見ると、彼が親指を立ててウインクしていた。その後、大きく手を振っていた。
”頑張れ 頑張れ”と言わんばかりに。
小さくなっていくその人のことを良く分からない気持ちのまま見詰めていたのを覚えている。
それから同じ駅を3~4年もの間使っていたが、二度と会う事はなかった。しかし、その親切を何十年経った今でも思い出す。
そして、もう一つ。
旅行中のその国で、サングラスを見ていたら、やはり商魂たくましい様子でゴリ押しして来るのがうざくて『私、財布落とした。だから、こんな高いもの、買えない。財布落としたから日本にも帰れない。』とゆっくり話したところ、相手の表情がビックリするほど変わった。
その人だけでなく、周辺の人々まで両眉を下げて、しきりに何か言っている。中には涙ぐむ人までいる。
あれ?何、この状況?と焦ったが、嘘ですと言えなくなってしまった。
彼らが店の二階に声をかけると親御さんらしき人まで降りて来て、さらにはカタコトだけど日本語が喋る人まで集まって来て『可哀そうに。警察に言ってもまず帰って来ないだろうから、うちに住むと良い。』と言い出した。
それを”ご遠慮したい”と言うと「炊き出しをしてくれる場所もあるから教える。少しはお腹の足しになる。でも、夜は寒いからうちに泊まると良い。日本に帰れるお金、出してあげられると良いんだけど。いくら?」等、話がドンドン大変な方向へ進んでいった。
要するに、物凄くピュアな印象の思い出がいくつか出て来たので、友人にその話をすると「そうかあ。日本人でも酷いやつは酷いもんねえ。」と怒りがやや治まって来ている模様。
そうだ、そうだ。偏見は良くない。(これで話が収まって電話切らせてくれるかな。)
しかし、二つ目の話が気になったらしく『それで、どうしたの?』と聞かれたので、折を見て、”財布はホテルに置き忘れていた、大丈夫でした!”と、これまた嘘をついた話をする。嘘を回収するための嘘である。
すると・・・・『それなら、これ、買えるんじゃない?』と言われ、私はサングラスを買わされて帰ったという話。
『どっちが騙されてたか分からないじゃんか、それ!』
確かに。
友人は再び炎上していた。
でも、ほんとに良い人たちだったんだよ。