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#12Plat Fukuoka books&cycling guideコンパクトシティ政策を進める ドイツの都市・交通計画と自転車政策@かどや食堂

 Plat Fukuoka cyclingは福岡がbicycle friendlyな都市(まち)となるための様々な提案を行っていきます。

 bicycle frendlyというと「自転車にやさしい都市」となると思いますが、私は「自転車がやさしい都市」になってほしいと考えています。それは歩行者に対しても、バイクやバス、自家用車…つまりは都市に対して自転車がやさしくできる都市でありたいと思うのです。
Plat Fukuoka cyclingの目次は下記よりリンクしていますので、ご覧ください。(随時更新)

0.Plat Fukuoka cyclingの描く未来
1.Copenhagenize Index2019を読む
2.Plat Fukuoka books&cycling guide
3.Plat Fukuoka cargobike style
4.Fecebook ページ
―――――――――――――――――――――――――――――――――― 「Plat fukuoka cycling guide」では本とサイクリングで寄りたいスポットをご紹介する連載になります。第5回はドイツのコンパクトシティに関する本とサイクリングで寄りたいパン屋さんの紹介です。

〇ドイツの都市が近距離移動によるコンパクトシティを目指す理由 村上敦(著)『ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのかー近距離移動が地方都市を活性化する』(学芸出版社、2017.3)

 本書はドイツの地方都市・フライブルクを中心としたコンパクトシティに関する本ですが、「コンパクトシティ」が地方都市の経済的な考えからなぜ必要なのか。そして「コンパクトシティ」において、自転車政策がなぜ必要なのかという視点において、重要な示唆に富んだ著書になります。

 コンパクトシティ政策は人口減少が小学校や路線バスの統廃合、空き家の増加など私たちの身近なところに確実に影響が表れてきたことで、政策的な注目は高まっています。一方で、具体の政策実行と私たちのライフスタイルへの働きかけは、少ないように思います(1)。その点に関して筆者の引用を紹介します。

 なぜ日本では、大都市圏を除く5から30万人規模の都市において、欧州のようの質の高い公共交通や、近距離圏にある中心市街地での買い物、教育、医療などの日常サービス提供させていないのか。あるいは、これまで(マイカーありきではあるが)なんとかなってきた市民サービスの質が将来、脅かされているのか。日本の都市計画や交通工学に携わる方々は、その理由を一般の市民にもわかりやすく説明していない。

 ここで説明されていない内容の1つ目は「欧州のようの質の高い公共交通や、近距離圏にある中心市街地での買い物、教育、医療などの日常サービス提供させていないのか」についてになります。本書では住宅市街地での1ヘクタールあたりの人口密度に注目しています。

 フライブルクの住宅地の人口密度は130〜150人/ヘクタールで、この人口密度で徒歩圏(300m半径の面積=28万平方メートル)で3500〜4000人ほどの街区となり、この規模がが形成される。この人口密度の街区が達成されると住宅地内に都市として恥ずかしくない程度の市民サービス(行政、教育、医療)や食住隣接や小売店などの日常サービスにおいて、無駄な交通需要を発生させず、あまり窮屈でない(都市機能を備えた)アーバンな生活が可能になる。同時に、交通工学の一般的な常識として、運行間隔の密度が高いバスや路面電車を運営していくためには、最低限この程度の人口規模と密度が必要であることは常に指摘されている。

 福岡市の都市内の人口集中地区(DID)の人口密度は96.31人/ヘクタール(2015年統計)(2)で、フライブルクの住宅地の人口密度は130〜150人/ヘクタールがいかに、人口密度が高いかを示しています。また人口密度は130〜150人/ヘクタールは、駄菓子屋などの小店舗が数店立地しても、十分経営できる人口規模でもあります。つまり、この規模以下の人口密度になるほど、小店舗の維持は難しくなり、店舗としての商圏を広くとらないと経営が成り立たたなくなります。今の日本の典型的なロードサイドの風景や巨大なショッピングモールは、日本の住宅市街地の人口密度が低下した結果と言えます。

 2つ目は「これまで(マイカーありきではあるが)なんとかなってきた市民サービスの質が将来、脅かされている」というのは、近年報道される高齢者の交通事故に顕著に表れてきている事態です。しかし、この問題は高齢者のみの問題ではなく、日常のあらゆる移動が自家用車(マイカー)に依存しなくてはならない日本の都市、住宅市街地の問題です。日本はここ数年から平均賃金は上昇せず、一方で公的負担は増え、家計の可処分所得は減る一方です。その中で、自家用車の維持にかかる費用の重みが増えます。そして、自家用車の維持にかかるお金のほとんどが、その地域外に流れてしまい、地域経済においても、マイナスの要素を含んでいます。

 ドイツのフライブルクは、モータリゼーションの時代の中でも、公共交通機関、特に路面電車(トラム)の拡張、充実へと方針をとったことで(3)、その後の中心市街地の歩行者天国の実施、トランジットモール化へつながりました。そしてその結果、中心市街地を車で行くのではなく、公共交通機関や自転車、徒歩で行ける住環境の創出につながり、コンパクトシティとなったことがわかりました。自家用車のない都市で起きる変化は、これまで自家用車で使われていた都市空間が、公共交通機関や自転車、徒歩者に分配することができ、これまで車が通過するだけだったのが、多くの人が行き交うことで、商売が発達したゆとりある中心市街地となります。

◯コンパクトシティにおける交通政策
 コンパクトシティにおける交通政策とは、どういったかたちとなるのか。本書では、ウィーン工科大学のヘルマン・クノーフラッハー教授は「不動車」という考えを紹介しています。何が「不動」なのかというと、次の2点の重要な指摘がなされています。

①「モビリティ指数」(ある市民1人が、1日で、どれだけ移動するかの回数を調査したもの。日本でいう「パーソントリップ調査」)の移動の回数は、急激なモータリゼーション前後という時代の変化によっても根本的な変化が見られないこと。
②交通インフラの整備に伴い、人びとの移動のスピードは速くなった。しかし、交通のために消費する移動時間は常に一定であり、そればかりか、その移動のための内訳(目的)すらもほぼ同じ内容であること。
つまり、移動システムのスピードが上昇すると、それは移動時間を短縮することにはならず、単に移動距離を増加させることになるのだ。(略)その際には、常に2つの現象が発生する。居住地の拡散と交通量の集中という現象である。

この考えにクノーフラッハ氏はさらにコメントとして、

「渋滞は交通問題ではない」。都市内において渋滞が発生するような地点があるからこそ、交通の速度は落とされ、他の交通機関に乗り換える可能性も生まれる。交通速度が落とされた市民は、移動に対してより多くの時間を割るようになるわけではなく、移動距離を短くすることで生活スタイルに組み込まれたこれまでと同じ移動時間で行動する。

と述べています。つまり、日本の現在の都市でよくある郊外に新しい住宅市街地を形成することは、既存の都市の人口密度を高める機会を失い、通勤は郊外から中心部へという、朝と夜で一方向型となり、公共交通の輸送効率も悪く、かつ低密度の戸建ての多い住宅市街地は公共交通機関が脆弱で、自家用車主体の交通となり、交通の混雑が発生し、そのための道路拡張やバイパスの建設はその沿道の環境悪化を招きます。また商業に関しては、既存の都市は人口密度が高まらず、既存市街地の小売店は衰退し、一方で自家用車主体の交通となるとロードサイドの店舗や巨大な駐車場をもつ大規模なショッピングモールが建つようになります(4)。

 私たちのライフスタイルを考えるうえで、「買い物」は最も重要な経済活動です。そのお金の落とし方というのは、地域の日常風景の象徴といえます。それがショッピングモールなのか、小さな小売店なのかを私たちは真剣に考える必要があります。

 Plat Fukuoka cyclingでは福岡が「真のコンパクトシティ」となるように、自転車で生まれるオルタナティブ(別の道」の都市、交通計画、そしてライフスタイルを考えてまいります。

 また本書には、ドイツの自転車政策に関する記載が多数あります。それは次回のCopenhagenize Index2019を読むにて、ドイツの都市を取り上げます。その際にまとめて紹介します。

〇Plat Fukuoka cyclingで美野島・かどや食堂
 今は「美野島」ですが、昔は「簑島」と書き、この一体は今もパナソニックの事業所があるように工場が集積していました。
そのためこの美野島商店街の夕方はサラリーマンが溢れ、縁日ような賑わいだったそうです(5)。
 その商店街を角地から長年眺めてきたのが、創業1920(大正9)年のかどや食堂です。今年は創業100周年のようです。

食堂のとおり、丼ものメニューのほか、Plat Fukuoka cyclingとしておススメは、店頭で買える総菜パンです。
パン購入して、自転車で那珂川の河川敷へ。そこでのんびりする豊かさを味わっていただきたいです。

日曜日が定休日のようです。

 次回のPlat Fukuoka books&cycling guideは世界的にモータリゼーションが進む中で、日本で出版された自動車交通の在り方問うた一冊の紹介と、福岡に残る市場のカフェの紹介です。

 そして次回は、Plat Fukuoka cargobike styleとして、欧州で初めて報告されたカーゴバイク市場に関する紹介と、日本における自転車文化の中での、カーゴバイクがもたらすことを考えます〇

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〈参考文献等〉
(1)COVID-19対策という「ニューノーマル」では、私たちの働き方や、住まいの過ごし方を考え直すよいきっかけとなったと思います。東日本大震災の時も、多くの人が暮らしのあり方を考え直した(この時はエネルギー問題)と思います。結果は考えたものの、劇的な変化へつなげることはできていないと思っています。

(2)木下斉(著)『福岡市が地方最強の都市になった理由』(PHP研究所、2018.3)「他都市も羨むコンパクトシティ」として、人口密度の高さDID(人口集中地区)の記載より引用。この他、福岡市のコンパクトさとして、職住近接の示すバス交通網の充実度などを紹介され、さらに「ウォーカブルシティ(歩けるまち)」への積極的な転換を行い必要性を説かれています。Plat Fukuoka cyclingは自転車という視点からですが、ウォーカブルシティ・福岡実現のために活動していくつもりです。

(3)フライブルクがモータリゼーションの中でも、トラム拡充という「別の道」を選択した理由として、著者はドイツで「68年世代」と呼ばれる若者が戦後の経済復興から、これまでの社会の考え方ではないオルタナティブ(別の道)を訴えるようになり、環境保護の意識とともに、マイカーではなく、便利で安価な公共交通や自転車交通の推進も訴えられ、それに行政が英断を行ったという背景がある(本書P109参照)。1968年は日本でも学生運動が盛んだった時代になります。昭和最後の7月生まれの筆者は、知りもしませんが小熊英二(著)『1968』(新曜社、2009.9)は大変興味深い著書になります。

(4)木下斉(著)『なぜ郊外は発展し、衰退したのか〜発展、共食い、そして第三の勢力に食われる側に至った流れ〜』(note、2020.7,29)にて、ロードサイドや郊外ショッピングモールが大店法という法律に絡みどうして生まれ、いまどのような状態をむかえているのかを分析されています。有料記事ですが、大変勉強になります。ぜひご一読を。

(5)樋口庄造(著)『旧国鉄筑肥線 そこに駅があった』(西日本新聞社、2015.3)は福岡市営地下鉄空港線との直通運転により廃線となった、筑肥線姪浜駅から博多駅間のかつての姿を知ることのできる一冊です。

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