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【ネタバレ】龍木来斗とは誰だったのか~『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナイニシアチブ』感想~

サスペンスアドベンチャー、『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナイニシアチブ』を完走しました。前作クリア済み。前作『AI:ソムニウムファイル』および『AI:ソムニウムファイル ニルヴァーナイニシアチブ』のネタバレ全開であるため、未プレイの方はご注意ください。


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すてきな公式サイト

はじめに

前作に続いて、本タイトルのPS4版をトロフィーコンプリートまで遊んだ。
前作は(というか打越ゲーは)プレイ中はその作品で頭がいっぱいになる程度には好きな作品だ。

前作『AI:ソムニウムファイル』は国産家庭用アドベンチャーでは珍しいCERO:Z指定のお子様お断りゲームであり、そのレーティングを全力で活かした血しぶきとお下劣ギャグ満載の猟奇殺人サスペンスだった。今回はレーティングをCERO:C指定まで引き下げ、主人公を一新した続編としてリリースされた。

今作(以下『NI』とする)はあらゆる意味で待望の続編であり、歌って踊ってきれいに畳まれた前作の続きで何をするのか、過去の因縁を乗り越えた瞳さんと伊達はどうなったのか、法的にも親子となった伊達たちはどうなったのか、伊達の顔はどうなったのか、熱海エンドはあるのか、とにかく気になること尽くしの作品であった。ちなみに筆者の好きなキャラクターは伊達鍵と、ABISのボスこと暮主静枝である。

ぶっちゃけどうだったのか

熱海エンドはあった。ありがとう受付嬢。
あと看護師の那須さんの年齢がしれっと変わっていた。
あとは……。

強いて点数をつけるのであれば、100点満点中75点くらいの続編だった。
つまり、良いところも悪いところも同じくらい目立ったゲームであったように感じる。

よかったところ

もちろんよかったところもいろいろある。

引き込まれるストーリー

本作最大の売りであるストーリーの面白さは健在だった。プレイ中はとにかく先が気になり、残された伏線(というにはあからさまであったが)が引っかかってとにかく気持ち悪く、早く続きを見たい衝動に突き動かされていた。特に『みずき』に関する仕掛けがオープンになるまでは、彼女が誰だか分からず何日ももやもやを抱え続ける羽目になった。この作品について、筆者はとにかくミスリードに引っかかり続けることが是であると信じてプレイをしているので、今回も全力で楽しく騙されることができて良かったと思う。

ソムニウムパートの遊びやすさ、面白さ

各所で触れられていることだが、ソムニウムパートが簡単になった。特にクリア後の時間無制限モードが解放されたことで、メダマ探しや不正解選択肢を心ゆくまで楽しめるようになった点は大きい。前作では、理屈がよく分からないまま正解を選んでいる場面もあったので、不正解パターンも確かめつつ納得しながら進められるようになった。

謎解き自体もパズルや計算など頭を使う場面がいくつかあり、楽しめた。このあたりは好みもあると思うが、個人的にはテアラァのソムニウムで『R×G×B』の答えを導き出したときが最高に気持ちよかった。もしや……と思っていたことが答えとしてパシッと提示されると、脳みそが痺れるような快感がある。

前作は神社で五芒星を描くアレやイクラマンふとしが(ストーリー展開も相まって)結構辛かったので、イリスのソムニウムがなんとかGo風味になった点は本当に安心した。いろいろな理由をつけて多くの人のソムニウムを覗けた点も良かったポイントだと思う。

新たな相棒・タマ

新主人公のひとり、龍木来斗のパートナーであるタマ。みずきのアイボゥに相当する立ち位置の彼女が非常に魅力的なキャラクターだった。口調や態度は一見してきついが、龍木のことを大切に思っているタマは、彼のためなら謎解きもおふざけも全力で取り組んでくれる。前作から続投ゆえのベテラン感を漂わせているアイボゥ姐さんとはまた違った切り口のパートナーで、どんどん愛着が湧いて好きになっていた。
ちなみにコスチュームの中では『かおがいい』Tシャツが好きで、リプレイ時はずっと着せていたりした。詳細は本記事のヘッダー画像をご確認いただきたい。

マーブルのママ

レーティングが引き下げられてお子様も遊べるようになった『NI』では、主人公が基本的に真面目なみずき&龍木に変更されたことで、前作の特徴であったお下劣ギャグがかなり控えめになっている。間違いなくとっつきやすくなった一方、前作のあの下品なギャグでゲラゲラと笑っていた筆者のようなプレイヤーもいるわけで……。そんな人々の救世主となってくれたのが、スナックマーブルのママである。なんというか、マーブルにいる間だけは空気が前作に近づくのだ。ママの会話のノリはもちろん、オブジェクトを調べたときのセリフがまあまあきつい下ネタになり、店内で過ごすときだけは、あの日々が戻ったように感じられた。苦手だったら余計なオブジェクトを調べなければいいので、ちょうどよい落としどころだったのではないだろうか。

絆&ライアン

今作屈指のお騒がせカップル。後半は特に彼らの関係にヤキモキさせられることになるのだが、気づけばふたりを全力で応援していた。不幸なことはたくさんあったが、エンディングで幸せそうに踊る彼らを見て、救われたような気持ちになった。

前作イリスルートのあれこれ

前作イリスルートで登場したオカルトな秘密結社、NAIX(ナイクス/ナイカトロッズ)。イリスの病気に由来する妄想として片付けられていたこの組織がまさかの正式登場を果たした。トレーラーでNAIXのキーワードを見かけたとき、『NI』への興味が限界を突破したことは言うまでもない。これは前作プレイヤーへのうれしいファンサービスだったように思う。結局、『イリスの発言は妄想だがNAIX自体は実在の組織だった』ことが新たに明かされたとしても、物語の本筋に大きな影響は及ぼさないわけだし。設定の上手な改変、再利用に収まっていたと思う。

伊達

とにかく伊達。今度こそ瞳さんと幸せになってほしい。本当の伊達フェイスも好きだ。エロ本で身体能力が大幅に引き上がる特異体質について、理屈をつけて説明されたところでは大笑いした。補強するべき点はそこじゃない。

気になったところ

これもまたいろいろある。

エンディングムービーの画質について

なぜか本編に比べてガビガビである。とても良いムービーであるだけにもったいない。

伊達(沖浦)みずきについて

『NI』では、伊達鍵の養子であり主人公のひとりでもある伊達みずきの出生の秘密が明かされた。それによると、彼女は沖浦夫妻の実子ではなく、法螺鳥の研究所で遺伝子改造を施された特別な子供である、とのことだった。さらにもうひとりのみずき(暮主みずき/ネエネ)とは遺伝子的に限りなく近い人間であることも明かされている。

前作の被害者だった沖浦夫妻、特に妻の硝子は、みずきの養育――ひいては娘を産んだことでかなり悩んでいたように記憶していたため、実は養子だったと言われて悪い意味でひっくり返りそうになってしまった。沖浦夫妻の葛藤はなんだったの? このあたりの確認のためにも、時間をとって前作をやり直したほうがいいかもしれない。(引き取ったはいいものの、あまりに常人とは違う養子のことで悩んでいた、と考えられなくもないが)

ちなみに、筆者(脳みそが単純)は前作で語られた『みずきのおじいちゃんは超人的な人で、みずきも彼に似ているため身体能力がすごい』という与太話を割と真面目に信じていた。どうやらこれは本当に与太話だったらしい。

前作キャラクターの扱いについて

『NI』は前作の事件後の物語であるため、前作のキャラクターたちが多数登場する。ABISの仲間たちとしては、ボス、伊達、ピュータといった面々が……ピュータ???

ピュータは非常に優秀なエンジニアだが、前作で個人的な事情から犯人側に加担し、警察をクビになった人物である。そんな彼が、ボスの特権でしれっと復職し、以前と同じように働いているのだ。もともと細かいことを気にしたらきりがない作風ではあるし、情に流されて罪を犯したピュータのことは嫌いではない。だがしかし、あまりにも当たり前のようにそこにいて驚いてしまった。もうちょっとなんかあるだろうよ。

というかピュータは、伊達みずきから見たら父親(沖浦)の元カレのような人である。年頃の少女が同僚として付き合うには、ちょっと複雑すぎる人物だと思う。

また、前作の骨盤が素敵なマーメイドこと土居亜麻芽。彼女は年齢設定を変更された(深夜まで働くために逆サバを読んでいたことになった)うえで様々な役割を与えられて再登場したが、正直なところ前作のイメージが付きすぎていて、改めて彼女を使ったシリアスものをやられてもしっくりこなかった。マーメイドとしてのメイクやヘアカラーの影響かもしれないが、家族とも外見が似ていないため、ひとりだけ派手な容姿が浮いて見えた。彼女ほどの重要キャラなら、新人マーメイドとして別人を登場させて亜麻芽はあくまでかわいいモブキャラのままにするとか、もっとやりようがあったと思う。

また、看護師の那須さんの年齢も大幅に引き上げられている。彼女は今回、幼い古衛迅のことを語る役割を新たに与えられたため、ある程度の年齢でなければ矛盾が生じてしまうためだろう。亜麻芽同様、彼女もストーリーの都合で設定を改変されたように見えてしまう。予算や期間の都合で新しいキャラクターモデルが用意できなかったとか、そういう事情があるのだろうが、それをプレイヤーに見透かされる・推測させてしまうのはあまり褒められたことではないと思う。

前作の那須さん

看護師の那須さん(24)

今作の那須さん

看護師の那須さん(42)。元旦那がアレだったり、さんざんである。

イリス、応太、猛馬あたりは順当に年をとっていて納得感があった。6年後かあ、なるほどこうなってるよね、と。イリスは伊達にとって、もうひとりの娘のような存在でもあることから、彼女が健康な成人女性として登場したとき、なんだかとても感慨深くなった。

マーブルのママ

今作最大のどんでん返しであるフローチャートの時系列トリックは、『マーブルのママ』が『プレイヤー』に向かって語り掛ける形で開示される。今回のママは占いを通して『誰か』に乗っ取られたような状態になり、しばしばプレイヤー/主人公にヒントを与える存在だ。ところが、ママの変貌については『趣味で占いを始めた』以上の説明がなく、結局最後まで詳細が分からないままだ。なぜママなのか、彼に何が起こっていたのか、プレイヤーと話をしたのは誰なのか。せめてもう少し説明が欲しかったように思う。ママをただの便利な解説キャラにしてしまうのは、もったいない。

龍木来斗とは誰だったのか

満を持して登場した新キャラクターにして新主人公の龍木来斗。彼の存在がある意味で『NI』最大の問題点だったように感じられる。
彼は様々な事情で正気を失っている時間が(実際のプレイ時間でも、作中の時間でも)非常に長い。そのことがプレイヤーを混乱させ、本当の時系列をわかりにくくすることに一役買っていることは間違いないのだが、実は彼自身に関する描写は十分とは言いがたいのだ。

思わせぶりに語られた双子の弟の存在が活用されることはないし、タマとの絆は強いが、それは『ふたりの世界』的な色がきわめて濃い関係性である。プレイヤーから見える龍木は、下手をすれば捜査中の事故で正気を失い、その後も暴走してやらかしまくっている謎の捜査官でしかない可能性さえあるのだ。酔った彼が見せる『自分を優秀だと信じ、本当は周りを見下している』という重要なパーソナリティでさえ、なんかイヤなやつだな、と思わせる程度の役割しか果たしていないように思う。

『NI』の主人公がふたりに見せかけて実は3人であるように見せて本当はみずきとネエネのふたりであることは、クリア済みのプレイヤーなら多くの方が同意してくれる事実だと筆者は思っている。龍木はいろいろとやらかした果てに6年前のネエネを行動不能に追い込んでいるのだが、本当の時系列に沿って彼の動きを追ったとしても、それを挽回できるような描写を十分に与えられていないように感じてしまう。

強いて言うなら彼の本領は異章でこそ発揮されるのだろうが、隠しエンドである上に本作最強のトリックスター・時雨の印象が強烈すぎて龍木の存在が霞んでいる。主人公として彼を立てるのであれば、もう少し彼の内面、人となりが分かるようなエピソードを見せてほしかった。その結果龍木がやっぱりイヤなやつだと思われたとしても、よく分からない人物であるよりはかなりましであると思う。

さいごに

『NI』は前作から大きな進歩を見せ、ファンが見たいものを見せてくれた一方、製作側の都合でキャラクター(設定)が動かされてしまったいびつさが目立った作品であったと思う。間違いなく面白いし、次回作があれば絶対に購入すると言い切るくらいに好きであることに変わりはない。ただ、願わくば次回作では、登場人物たち――とりわけ龍木が真に幸せになった姿を目の当たりにできることを楽しみにしたい。

前作のエンディング。『NI』のエンディングテーマは、公式動画が存在しないようなので……。


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