
「「坂本龍一|音を視る 時を聴く」 アーティストトーク|坂本龍一の「時」を語る②《MPIXIPM》を中心に 岩井俊雄」についての記録
2025年2月22日(土)、東京都現代美術館で「アーティストトーク坂本龍一の「時」を語る②を中心に 岩井俊雄」が開催された。
「坂本龍一 | 音を視る 時を聴く」展でアーカイブ特別展示として制作・展示された《Music Plays Images X Images Play Music》/ 坂本龍一×岩井俊雄(1996–1997/2024)に関するトークで、岩井俊雄さんとともに、1990年代当時のパフォーマンス・今回の修復に関わった方々によるものだ。
(《Music Plays Images X Images Play Music》/ 坂本龍一×岩井俊雄(1996–1997/2024))
今回の「坂本龍一展」では、1996-1997のパフォーマンスを再現するように、当時の坂本龍一さんの後ろ姿の映像と、演奏データを組み合わせた新しい作品として展開されていた。
私自身は、当時のパフォーマンスの様子は下記の様な記事の文字情報でしか知ることができず、今回のトークで初めてどんなパフォーマンスのようすだったのかを知ることができた。
アーカイブの大切さも感じる内容だったので、一部(事実ベースの部分)を残しておきたいと思う。(※写真・録音禁止のトークで、メモもとにnoteを書いており、発言はそのまま引用したものではありません。)
▍《Music Plays Images X Images Play Music》に至るまでの作品
序盤は、同作に至るまでに岩井俊雄さんが影響を受けたものについての紹介。

作家としては、Oskar Fischingerによる音楽を視覚化した作品や、Norman McLarenによる映像用のフィルムの映像とサウンドのトラックをともに手書きし、音と映像のタイミングがあうようにつくられた映像作品が紹介された。「音楽の視覚化」、「映像も音も自分で生み出す」といった点がキーワードとして挙げられた。
また、ほかにも、「手回しオルゴール」で”パンチ穴”を”音”に変換すること(=描いたものが音になる体験)、「ファミコン」の動きと音が連動する体験(自分で動かすことができ、音も絵もリアルタイムに生まれる体験)などもインスピレーションのもとになったそうだ。
こうした興味から制作された作品として、下記の作品が紹介された。
・オトッキー(1987)
・Music insects (1990)
・Sound Fantasy(未発売)
・Resonance of 4 (1994)(16*16のグリッド上にドットを並べてメロディをつくる作品。《TENORI-ON》のもとにもなっている。)
・映像装置としてのピアノ (1995)(「手回しオルゴールから光が出たら面白い」というイメージをもとに制作された作品。これまでの作品はコンピュータ音源×スピーカーだったが、ピアノという生音を使った表現。2023年に修復されて以来、茨城県立近代美術館、福岡アジア美術館、東京都写真美術館などで展示されてきたが、90年代当時、「国内で展示されたのは1-2回程度」だったとのコメント。)
《映像装置としてのピアノ》から、ピアノを弾ける人とのコラボレーションを考えるように。その後、坂本龍一さんに本作品を紹介したところ、1996年に水戸芸術館でのパフォーマンスのオファーを受けていた坂本さんからコラボレーションの打診があり、《Music Plays Images X Images Play Music》の検討がはじまったそうだ。
▍《Music Plays Images X Images Play Music》の上演
1996年12月16日 《Music Plays Images X Images Play Music》
水戸芸術館の音楽用のホールと演劇用のホール(ACM劇場)を見学し、ACM劇場での上演を決定。公演では、ピアノの背面全体を半透過のスクリーンにし、高さ10Mほどまで映像が投影されるようにしたという。(今回の現美の天井高は4.5M程度とのことなので、その倍以上のスケール。かなりの迫力がありそう。)
本公演で、2台のピアノを使って行われたのは以下のような試み。
① 坂本龍一さんの即興演奏&オリジナル曲の演奏と、その演奏が光に変換され、ピアノから光が放出される
(「坂本龍一展」での展示に近いもの。音→光の変換。)
② 岩井俊雄さんの入力した光の点がピアノの上をバウンドし、その光がピアノを演奏する
(光→音への変換。光の「点」は形を変えたり、点から面を形成したりと、ビジュアル的にも変化していった。)
③ ビデオで坂本龍一さんのジェスチャーを捉え、それを光の点に変換。その光でピアノを演奏する。
(像→光→音への変換。)
④ 坂本龍一さんの演奏を光に変換し、その光が放物線を描いて再び隣のピアノを演奏する
(音→光→音への変換。この時、リアルタイムで坂本龍一さんの映像が記録され、ディレイをかけて隣のピアノを演奏しているように投影されたそう。)
⑤ インターネットを使って本パフォーマンスを配信し。ネットを通じて観客が数字(各鍵盤に数字が割り当てられている)を打ち込むとピアノの音が鳴る。さらに、インターネット経由でのピアノ演奏と坂本龍一さんのピアノ演奏のセッション。(当時、ここでリアルタイムに参加したインターネットユーザーは30-70名ほどだったようす。)
坂本さんの曲のビジュアライゼーションだけではなく、様々な試みが行われたそうだ。
(余談だが、これまで《映像装置としてのピアノ》には半透過のスクリーンとして「寒冷紗」が用いられていたが、ここで使用したのが演劇用の劇場というところから、演劇の方が使用されていた建材用の半透過布を推薦され、この布が現在の《映像装置としてのピアノ》にも使用されているそうだ。現代アートと音楽と演劇を扱う、水戸芸術館ならではのエピソードだ。)
アメリカに在住されていた坂本龍一さんがこのステージのために来日し、実際に作品を触ったのは前日の夕方(※当時の担当学芸員・矢澤さんからは「当日では?」とのコメントも)。それまでは、すべてメールでのやりとりで進められたそうだ。
今回のトークでは初公開になるというリハーサルの映像も公開され、坂本さんが最初に作品を触るところから、興味深く様々な演奏を試されていくようすも紹介された。
パフォーマンスの中では、インターネットをつないだ試みも行われたが、当時はそもそも「インターネット中継とは?」という時代だったという。(日本初のインターネット中継されたライヴコンサートは1994年(1995年?)の坂本龍一さんのD&Lで、その後も数例しかなく、回線をひくのもライブ配信のライセンスも高額だった、とのコメントあり。)
その後、本作は「アルスエレクトロニカ97」で再演し、グランプリを受賞。
(アルスエレクトロニカのYouTubeでは当時の映像が公開されている。)
1997年の恵比寿で数日間にわたり開催された坂本龍一さんのライヴでは、これに新たな試みを追加。
坂本龍一のアルバム「1996」内のミニマルな楽曲「1919」の演奏データと後ろ姿の映像を事前に収録。ライヴでは2台のピアノを使い、1台ではその映像の投影と自動演奏、もう1台では坂本さんがそれとセッションするようにピアノが演奏された。
また、この際には新作の《RemotePiano》という、再度インターネットを介したピアノ演奏を実施。水戸芸術館の公演では数字による入力だったが、ここではよりビジュアライズした入力方式に変更したという。このインターフェースを担当したのが、メディアアーティストの江渡浩一郎さんだったそう。(当時はまだSFCの学生。)
なお、この作品は《RemotePiano installation》として、インスタレーションの形で同年にICCでの展示も行われた。この際、坂本龍一さんの映像は、ガラスに映していたそうで、今回の坂本龍一展でのインスタレーションともつながっている。
▍2024年版《Music Plays Images X Images Play Music》の制作へ
このパフォーマンスから27年を経て、今回の「坂本龍一展」でインスタレーション版の《Music Plays Images X Images Play Music》が公開される。
2021年に、岩井俊雄さんとキュレーター・アーキビストの明貫紘子さんによる「岩井俊雄アーカイブ&リサーチ」プロジェクトが立ち上げられ、《映像装置としてのピアノ》は、2022年に茨城県近代美術館で開催された「どっちがどっち? いわいとしお×岩井俊雄―『100かいだてのいえ』とメディアアートの世界―」展で再生・展示された。

なお、この再生についての経緯や技術的な内容については、2024年の東京都写真美術館での「いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ」の図録や、以下のwebサイトで詳しく解説されている。
「岩井俊雄アーカイブ&リサーチ」プロジェクトの中で当時の映像データ2000本ほどをデータ化する中でアルスエレクトロニカで坂本さんが演奏された後ろ姿の映像が見つかり、これが今回の作品にも使用されたそうだ。(なお、当時の映像も一部はカビや固着など、メディア自体が破損してデータ化できないものもあったそう。)
この映像の中に、MIDIデータが音声信号に変換するかたちで保存されており、ここから再びMIDIに戻すことを検討したが、当時の機材が入手できず、類似の機材なども試したが変換できず。別途、MIDIデータがCD-ROMで保管されているものが見つかったが、ソフトウェアのメーカーが倒産していたり、当時のMacを使わないと開けないなど苦難の連続の中、なんとか救出できたそう。
坂本さんの姿を映す方法としては、自作の回転スクリーンや半透過スクリーンなども検討したが、サイズやスクリーンの存在感が強すぎることなどから、1997年にICCの展示《RemotePiano installation》で用いたガラスへ映す方法にしたそう。なお、この方法は「ペッパーズ・ゴースト」という19世紀から舞台などで使われていた方法。今回の展示では、短焦点プロジェクタでスクリーンに映した像をガラスに映しこむかたちで展示されていた。
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トークではゲストも交え、当時の様々なエピソードも紹介された。予定していた2時間半を大幅に超えたが、興味深い内容ばかりであっという間の3時間だった。
改めて、これが約30年前に行われていたパフォーマンスであったことに驚くのとともに、「坂本龍一|音を視る 時を聴く」 でその再現が観られたこと、また、当時の話を聞くことができたことを嬉しく思うイベントだった。
わたしが本展を観に行った際には、この作品の上映後に拍手が挙がることもあり、30年経って新たな作品として生まれ変わり、作品の”強さ”も感じる展示だった。
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「坂本龍一|音を視る 時を聴く」 展関連プログラム
アーティストトーク坂本龍一の「時」を語る②を中心に 岩井俊雄
日時:2025年2月22日(土)14:00~16:30終了予定(開場13:45)
会場:東京都現代美術館 B2F 講堂
登壇者 岩井 俊雄
ゲスト 江渡 浩一郎(メディアアーティスト、情報理工学者)
明貫 紘子(キュレーター/アーキビスト)
聞き手 難波 祐子(本展ゲストキュレーター)
森山朋絵(東京都現代美術館 学芸員)
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