カーボンリムーバル総研①CDR(Carbon Dioxide Removal)・NETs(Negative Emission Technologies)とは?
こんにちは!日本初の大気中CO2回収技術=Direct Air Capture(以下DAC)スタートアップ、Planet Saversの池上です。
お陰様で、今朝の日本経済新聞紙面版朝刊で、同社が実施するインパクトピッチでのPlanet Saversの入賞を取り上げていただきました!
少しずつ弊社の露出を増やしていきたいと考えていますが、まだまだ日本において我々の事業であるDACや、DACを含めた広い炭素除去技術:Carbon Dioxide Remova(以下、CDR)の認知度は低いままです。
そこで、今後このNoteでは、カーボン・リムーバル総研と仮称し、弊社の事業紹介に加えて、DACやCDRについて様々な発信を行っていくことといたしました。
本日は第一弾として、DACの前提知識となる、CDRの概要について簡単に説明します。
CDR・NETs(Negative Emission Technologies)概要
背景
2015年に国連加盟国間で締結されたパリ協定において「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という国際的な温室効果ガスの排出削減目標が設定されました。
それ以降、世界的に気候変動対策の重要性はますます大きくなり、各国の気候変動対策への取組みが加速しています。
日本では2020年、菅前首相が2050年までにカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)を目指すと宣言したのは記憶に新しいかと思います。
他方、2023年7月の世界の平均気温は過去最高を記録し、1815年から1900年までの平均気温と比べ約1.5℃も上昇したことが観測され、気候変動対応の緊急性は更に高まっています(参考:https://climate.copernicus.eu/july-2023-sees-multiple-global-temperature-records-broken)。
CDR・NETsの必要性
このカーボンニュートラル宣言に向けた削減目標を達成するためには、石炭火力等のCO2の排出量の多い電源から排出量の少ない再生可能エネルギーへの移行等によってCO2の排出量を削減することも必要ですが、最大限排出削減を行ったとしても最終的にCO2の排出が避けられない分野はどうしても残ります。たとえば、現在製油所、発電所、工場等のCO2排出減からの炭素除去技術、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)が注目されていますが、CCSを用いても全てのCO2をこうした排出減から取り除くのは技術的に難しく、どうしても大気中にCO2は出てしまいます。また、航空業界等ではCCSがそもそもできないため、食料油をSustainable Aviation Fuels(SAF)として用いたり、小型飛行機の電化が進められていますが、そうした努力も限界があります。
この最後の排出量(残余排出)を相殺する手段として、既に大気中に排出されてしまった炭素を除去するCDRの大規模な実施が必須であると考えられています。
米国科学アカデミーは2050年時点に世界全体で10ギガトン=100億トンの残余排出量が発生すると推計しており、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のシナリオ分析では、日本についても排出量の削減目標を実践したとしても約0.5~2.4億トン/年がなお排出されると推定されています。
そこでこの残余排出量と相殺するために、CO2の大気中からの除去量をどう増やしていくかが重要となり、CDRが注目される理由です。
CDR・NETsとは?
CDRは、二酸化炭素(CO2)を大気から取り除くプロセス全般のことを指します。
CDRは気候変動対策の一環として、大気中のCO2濃度を減少させるために使用されますが、そのCDRを実現する技術として、NETs(Negative Emission Technologies)があります。日本でも2023年3月から四半期に渡り、ネガティブエミッション市場創出に向けた検討会が開催され、注目を集めています。
日本語に訳するなら、「排出量をマイナスにする技術」であるNETsは、大きく分けて以下に分類されます。
(1)森林関連技術
・森林再生: 伐採された森林を再生し、新しい森林を植林することによって、大気中からCO2を吸収する技術です。
・森林保護: 既存の森林を保護して、CO2吸収を維持し、森林伐採による排出を防ぐことができます。
(2)土壌関連技術
・持続可能な農業: 土壌管理の改善によって、土壌中にCO2を固定し、有機物質を増やします。
・炭素貯留: 特定の土壌に炭素を貯留させ、農地や森林におけるCO2の長期貯留を促進します。
(3)バイオエネルギー関連技術
・バイオ炭: 木炭や竹炭など、「燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度でバイオマスを加熱して作られる固形物」を指し、土壌に施用することで、その炭素を土壌に閉じ込め大気中への放出を減らすことが可能になります。
・BECCS(バイオエネルギーと炭素捕獲貯留): バイオマス発電と、排出口からのCO2回収・貯留(CCS)を組み合わせることで、トータルの排出量がネガティブになります。
(4)海洋関連技術
・ブルーカーボン: 海洋生態系(マングローブ、塩性湿地、海草など)を保護・回復し、CO2を吸収・貯留させます。
・海洋堆積物貯留: 大気中のCO2を吸収した微粒子を海洋に沈降させ、長期間にわたってCO2を封じ込める技術です。
(5)風化促進
天然の岩石を粉砕、比表面積を拡大することで、岩石に含まれるカルシウムやマグネシウムなどが大気中のCO2を鉱物化・半永久的に固定化する自然作用を人工的に促進させます。
(6)微生物利用技術
特定の微生物を使用してCO2を大気中から吸収、変換、または貯留します。
(7)大気中CO2直接空気回収 (DAC)
大気からのCO2キャプチャー: 大気中からCO2を機械的に取り込んで、地下に貯留し炭素を除去したり、もしくは水素と反応させて合成燃料等に変換し、カーボンニュートラルな資源を創出します。
以上がCDRについての概観となります。
ではそうしたCDRの中でどの手法に注力すべきなのか?優劣はあるのか?そして、DACとは結局何なのか?
次回は主にこれらの点にお答えする形で記事を書こうと思います。
なお、本記事について、もし何かフィードバック等ございましたら是非コメントいただけますと幸いです。