そうだ、作ってみよう ―【ヴィンセント・イン・ブリクストン】のフィッシュケーキ
先日、Aぇ!group正門良規さんが若かりし頃のヴィンセント・ファン・ゴッホを演じた舞台【ヴィンセント・イン・ブリクストン】を見てきたときのこと。
帰り道、映画「ゴッホ最期の手紙」のサントラを聴きながら舞台の世界にひたっていたときにふとひらめいた。
「そうだ、作ってみよう」
これはまさにプルースト効果。
この舞台のドラマは終始ヴィンセントの下宿先のキッチンで繰り広げられる。登場する女将さんやその娘、下宿先の仲間は料理をしたり、紅茶を淹れながら会話を進めていく。とにかく手元が動いている舞台だった。
舞台セットを見た時からその細かい作りこみように惹き込まれた。ずらりと並んだフライパン、いろんな形の缶カンに入った紅茶、大きな木のテーブル。生きているキッチンがそこにあった。そして幕が上がった直後、私はケトルから出る湯気に気づいた。ストーブの上のお鍋の中には沸騰したお湯とアツアツのじゃがいも、そしてひと回り小さなフライパンに何かが放り込まれた少しあと、かすかなバターのかおりが鼻をくすぐった。
そして私は舞台から帰ったあともあのおいしいにおいが忘れられなかったのだ。
観劇の翌日、舞台の原作台本をKindleで読んでいたら昨日のにおいの正体を突き止めることが出来た。
読み進めるとト書きには細かく料理の内容と人物の動きが書いてあった。そしてここで彼らが舞台上で作っていた食べ物が出てきた。
フィッシュケーキ。
学生時代、よく行ってたパブで食べていたイギリスの伝統料理。簡単にいうと白身魚のコロッケだ。私はたっぷりケチャップをかけて食べるのが好きだった。
そうと決まれば、作ってみよう。
ヒントは記載されていた具材だ。
・じゃがいも
・パセリ(今回はネギ)
・白身魚(タラ)
・卵
・塩コショウ
・パン粉
ここに記載はないけどバターと牛乳も忘れずに。
ソースはグレイビーではなくケチャップとビネガーとディジョンマスタード。
温まったバターをパン粉が吸うかんじ、そこからでる美味しいにおい。プルースト効果は私には100点満点の効き目で、目をつぶるとあの舞台でヴィンセントとして生きていた正門くんを鮮明に思い出すことが出来た。
もちろんビールは舞台にも出てきたギネス・エキストラスタウト(黒ビール)。
番外編:タルトタタン
実はこれは舞台とは関係なくイギリス→秋→リンゴ→タルトタタン食べたい、という連想ゲームの産物。美味しい紅茶の相棒が欲しかったので初めて作ってみた。
ヴィンセントが生きた頃のイギリスは貿易で紅茶が庶民にまで広まった時代。少しでも水を美味しくして飲めるようにした…という記述も見たことがある。かくいう私も大のお茶好き。先月誕生日で友達がくれて紅茶がイギリスの老舗の名店のものだったのはもう運命としかいえない!(オタクはすぐになんでも運命にしちゃう生き物)
舞台でしきりにお茶をいれようとしていた登場人物たちの姿を思い出しながら紅茶をすすり、フィッシュケーキもタルトタタンも(舞台とは無関係だったけど)大満足の再現ごはん!
余談だが、写真のティーカップやフィッシュケーキのお皿はアイルランドやイギリスのアンティークだったりする。実はイギリスのお皿好き。
昔から絵の中のごはんや映画に出てくる食事を再現するのが好きだったけど、舞台でやるのははじめて。
今回は【ヴィンセント・イン・ブリクストン】のあのにおいはしばらく忘れられないだろうな。
なんならこれから先、フィッシュケーキを食べるたびにヴィンセントを思い出すのだと思う。